九六の匣

さまざま詰めこんだ匣

『奇妙な落款』(13)

『奇妙な落款』(13)



 儂はこの世にあるものに凡てが理屈で解決出来うるとは思ってはいない、しかし目の前に存在する事象にたいし即時に明快な答えをだせる知識も限られているのだ。

ただ過去に書物から知りえた中に、『太歳(たいさい)』なる不思議なものがあるというがぁ。
その形状があまりにも目の前にある謎の茸に酷似しているのだ。
その太歳というものは、秘録によると不老不死の薬として用いたともあり、古来より探して簡単に得られるというものではなく空想の産物に過ぎないともいわれてたのだ。
それにしても仮に太歳が存在したとしても、出逢えるのは偶然か奇蹟にも近いだろうしな。
過去に他国から不老不死の薬を求めこの国に渡来したものもいたという。諸説あるが、日本の御伽噺にも仙薬を求めて旅したものが書かれてある。しかし結末はいずれも破綻することになってしまう。

だが本当に効く仙薬をみつけたとしたら、その者は口を閉ざし目立たぬように息をしのばせて生きるしかないのであろう。なんせ齢をとらぬのだからなぁ。

世に知りたるもの微々なり、奇異なること少なかるべし。
知りえて尚、得心せざるは常なり。
知らざりて世に騙る者多きかること数多(あまた)あり。
古(いにしえ)より伝わりし事ありて、奇独ならずして徒(いたずら)に理(ことわり)を踏みて禁を侵せば災いを招きいれん。恐れよ、凡ては三猿なるがごとく振舞うが肝心なり。

男は呪文のように呟く。

顔をあげ、こちらを向くと
「ところでなぁ、お前さんの名は確か…尼子(あまこ)とかいったなぁ」
「な・なんで私の苗字を知っているんですか」
突然のことで声が詰まった。

「なぁーに、お前さん 以前に儂のところへ本を売りにきただろう」
「ああ、そういえばぁ」
「本に名を書いてあったのを忘れているようだな」
「そうかぁ、一度金に困って持ち込みましたね」
「それにお前は越後以北か、それも酒田あたりの出身だろう」
「本に住所や本籍なんか書いていないはず…」
「訛りじゃよ、いくら隠してもでてくるしな、それから…」
「今度は私の詮索ですか、それよりさっきの噺のつづきを」
少しばかりムッとした口調でかえした。

「匂いじゃよ、お前さんには何か儂と同じ血の匂いがするんじゃ」
「訛りだとか、匂いだとか 今度は血ですか」
「そうだ、儂は安倍というのだがなにか気にならぬか」
「光源堂さん、私と今まで話したことと何か関係があるんですか」
「この前お前さんが店に来た時に本をおみせましたなぁ」
「はい、片品龍一郎という天才作家の処女作を…」
「その本を儂から受取って開いたときに何か異様に思わなかったかな」
「白い、光沢のある表紙…それからなにか生きているような…」
「それじゃよ、あの本はひとを選ぶんじゃよ」
「本がひとを?…選ぶぅ」




【つづく】九六




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【※】-半世紀分の散らばした気侭綴ゑ-

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