九六の匣

さまざま詰めこんだ匣

『奇妙な落款』(12)

『奇妙な落款』(12)


「お~い」
口腔が乾き、干からびた声で子供を呼んだ。
意識だけははっきりとしているが、なにか言葉の勢いを失っているようだ。
儂は何日も眠っていたのだろうか…皮膚が弛んでいる。

何度か声を掛けると裸の子供はやっと立ち止まった。こちらを振り向いた子供は儂を警戒するでもなく目の前にやってきて膝を押え屈んだ。

「お前さんの名はなんというんだ?」
本当はお前は何者だと問い糺したかったがそうもいくまいと優しく声をかけた。
やっと傍にやって来た子供をまじまじとみることができた。

「有難うよ、俺を助けてくれたんだろう」
声を更に柔めて手を伸ばした。すると急に後ずさりして顔を強張らせた。
やはり、子供は言葉ひとつとして発する事はなかった。
こいつとどうやって意志疎通を図ろうか暫し考え、右手を自分の口にあてていかにも空腹だという仕種をしてみた。

すると、首を傾げ、そのあとに笑ったかのようにな仕草をした。
「な・なんだぁ」
子供の唇は大きく歪んで、まるで耳の近くまで三日月状に広がったのだ。
この子供の屈託ない表現なのだろうか、
でも、それはまるでいい伝えに聴くところの河童のような顔立ちではないかと思うほどの変容であった。


---------------- 

「そ・それじゃあ!もしかすると…」
噺の腰を折らんでくれ…とばかりに私の眼をみつめ、いかにもまだ話の途中だというかのように睨んだ。

彼の話の続きを聴いて、喉の奥に呑みこむ唾が店内に響くかと感じた。
それは、
「なぜ儂が子供という言葉をつかっているか判るかな。普通なら子供といわず、男の子とか女の子と表現するだろう…」

---------------- 

子供は茸の中心に指を突然探るようにいれて、ひかる胞子と一緒に乳白色の肉塊状のものをさしだした。
儂は受取ながらこれは食べ物だと理解して、恐る恐る口に放り込んだ。
その発酵した甘酸っぱい味が舌を擽(くすぐ)る…牛の乳を発酵させたものより濃く、とにかく美味なのだ。
子供に食べ物を貰った感謝の言葉を返そうとした。

…その時、儂は初めて子供の不思議な特徴に気づいた。
なにか普通でないカタチ

奴は…
両○具有だった…。

それからもうひとつ、あの茸の事だが見た目は人間の皮膚のように湿潤で柔らかそうに見えるのだが、実は思ったより硬質であること、襞(ひだ)はなく上部中心部に5センチ程度の四角形紋様が刻まれている。
紋様の周りには、ミミズがのたくった文字状のモノが描かれている。
胞子は子供が指をいれた四角形の中心の切れ目からだけ放散しているようだ。その度に微妙に収縮するため文字が変化していて連続して文字が読めるようにみえる。しかし、よくみると四角形は濃い朱色に染まり、書画や掛軸などにみられる大印を捺した『落款』にも似ている気がしてきた。

この茸と子供の正体はなんなのだろう、そして周りの木乃伊、疑問だけが頭の中を駆け廻った。


【つづく】九六


※直書きなので言葉に間違いが多くて、反省しております。九六
※『○』は想像してください。フタナリとも云う。
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  • 2012/04/27(金) 09:34:39 |
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