九六の匣

さまざま詰めこんだ匣

『奇妙な落款』(11)

『奇妙な落款』(11)


 儂は子供に近づいて驚いた。何故かといえば行燈の灯りだと思ったのが違っていたからだ。両手に抱えたものは大きな茸であり、それが発光しているだ。

茸が光るといえば、儂が幼い頃に母方の田舎に行ったときのことじゃ。外にある厠に向った時にな、夜の山が青白く発光している不可思議な現象を見たことがある。それはこの世のものとは思えない、死人(しびと)の魂が集まり演舞しているように感じた。
朝になってな、それを言うと 婆があそこに行ってはなんねぇぞ、仏の『オワタリ(和太利)様』じゃと諭されたが、好奇心から独りで山に分け入った、するとそこには毒をあるツキヨダケ(月夜茸)の群生が辺り一面に広がって真昼の陰のような状態で緑白色に発光していたのである。
毒茸の香りが自分を惑わすほど強烈で衝撃的な事で、魂の逝く彼岸とはこのようなものだと思った。その後の記憶はなく、探索にきた若者にフラフラと歩いていたのを発見されたんだ。

この茸は巨大なサルノコシカケのような
カサから乳白色の淡い光源を発する茸をかざして、裸の子供が儂を導いているらしいのだ。蔵の中は茸の胞子が気儘に浮遊しはじめて飛びかい、明るさを増すと半闇の中に奇々怪々な物が氾濫しているらしいのが判りはじめた。
「なんだ、この黒い干(ひ)からびたものは……、うわっ…」
突然、何かを踏みつけてしまった。

眼を近づけて凝視すると、
それはなにか獣の燻製みたいなものだが、おそらく猿が寝そべったような木乃伊(ミイラ)化した物体であった。それが何体も重なってある訳だから驚くのはあたりまえだろう。

何がなんだか理解できない事が続くと、人間というものは自然と口が歪み笑ってしまのだろうか、おそらくよそ様がみていたら狂ったような顔に思うはずじゃ。へなへなと蔵の床にへたばったように腰が砕けおちた。

裸体の子供は更に跳ねては光の胞子を撒き散らしている。

両手の肘を後ろ側の床につき、半身が寝そべった形で子供の踊るような仕種を幻想のように見詰めた。そうそれはまるで蛾が行先を決めずにフワ~っと鱗粉を撒散らしているようだった。

頭の中で「蛾っ?」という漢字がうかんだのだった。迷う蛾、舞う蛾……マヨイガ…
その言葉は地図の地名にも確かあったぞ、あれは『マイガ岳』だったな。
それにこの地方には奇妙な言い伝えやが民話が数多いなかで『マヨイガ』というものがある。

『マヨイガ』とは…人里離れた山中に在りて立派な家のことなり。訪ねても人の気配なし、問うても誰もおらず。だからといって家財などを欲にかられて持出しすれば祟るべし。かかわることあたわずこと。
以前に土地の婆さまから聴いて、それに係わった者のことなどもノートに書き記していた。

もしかすると、儂の顔を被っていたのもこの茸なのだろうか。






【つづく】九六
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  • 2012/04/24(火) 14:28:15 |
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