九六の匣

さまざま詰めこんだ匣

『奇妙な落款』(6)

『奇妙な落款』(6)


突然、野良犬が唸るような声がした。

しかし背後から聞えたのは低い男の息づかいと喚くような言争いだとわかった。
「やめてくれぇ」
「ゔぅ~ぐぁ」
しかしもうひとつは声ともならない唸り声なのだ、
点滅する光線の闇に眼を凝らしてみると姿恰好から古本屋の主人なのだが、もう片方はストロボ効果のせいか獣たのように三日月に裂けた口、その口中に複数の牙のようなものが異様にひかり、乱反射してみえた。
また主人が叫ぶ
「なっ、やめろ!!」

もの凄く素早い動きなのか、影だけが俊敏に位置を変えている。。
ただこの気配は…あの男のものなのだ。
いま路地の隙間に何かがいる…

おもわず私は片方の靴をぬぎさると、塀の隙間の闇におもいっきり投げこんだ。
靴は当たったような音もなく、ただなにもない闇の空間に黄金の眼のようなものがこちらを窺っている。
もうひとつの靴を持ち替えて身構えた。

ここはまだ未舗装なので、ときおり風が渦まくように土が舞い上げる。
土煙が近づいたと気づいた瞬間、
私に体ごと覆うように主人が抱きついてきた。

「やめろ!離せ、何をする気だ」
あとから考えると私を自らの体で庇ったのだろう。しかしその時は恐怖で混乱していた。
もがき手で相手の首を押返した
すると
「こ・これを持っていろ」
わたしの胸に風呂敷包みを無理矢理おし付けると、両腕で抱きしめるように交差させた。

「こんな時になにを血迷っているんだ!あいつの眼をみただろう」
「…もうすぐ止む、そのままじっとしていればな」
 
街灯の電球がいつの間にかきれたのだろう。
路地の暗闇にだまったまま寄りかかるように立ち尽くしていた。

闇が揺らめくと、浪が寄せては引くような気配だけがする。
そしてふたりの前後を、まるでマントが風を切り裂いてはためく音が遠のき、風の音だけになった。

だが風下にいる我々の辺りには、あの男の吐き出す醜悪な息とゼイゼイと喉を擦る微音がまだ聴こえているようだ。


「もう離せ!あの男が襲いかかろうとしたんだぞ」
「いいや…恐怖のあまりそう見えたんだ」
「なんであの男が俺を襲うんだぁ、理由を教えてくれ!!」
「ああ、解った…」
黙ったまま手を解くと疲れ果てたように崩れた。

「とにかく、そこの居酒屋へいこう」
店主は再び傷口がひらいたのか呻いた。


【つづく】九六

勢いで直がきすると、誤字や乱れが多い…。
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好きなものを自由に書く、読む、観る、描く。そして遊び愉しむ。
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【※】-半世紀分の散らばした気侭綴ゑ-

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