九六の匣

さまざま詰めこんだ匣

九六式落語風『与太郎の意気地/大江戸人情噺』

九六式落語風『与太郎の意気地/大江戸人情噺』



当節、落語に登場する人物…ってほどじゃありませんが、
こんな方(キャラクター)がいたら面白いと云われますのが、
与太郎さんでございます。

でぇ皆々様は与太郎ってのはある程度ご存じでしょうけど、
どうもどこか一本抜けてるというか、意気地がない方ですなぁ
だらしのない或いは気概のないフニャラカなひとを指しますんで。
でも、はっきり言って傍にいたら迷惑、戸惑いますなぁ。
今でいいますとチャラチャラしてますからチャラボンですかね。
それに何事にも熱くならず夢中にもならない、つまりのところ幸せなんですな

場所はどこでもいいんですがぁ、
取敢えずぅど真中は日本橋の外れ小網町、与太郎がヘラヘラ・アヘラヘラとやって参ります。
まあ決して身分格式は卑しからず、とある由緒ある店(タナ)のボンボン、つまり若旦那ですな。

銭には困らない。それに絡むのが銭に不自由な…ら・落語家…あらら、指さしちゃいけませんよ。
そうそう 貴方、そのしたたり顔で頷いた方、頷きかたが与太郎が得意とするかたちなんですなぁ。

まあお聴きなさいよ。
朝も早よから夜半まで、白塗り人形町置屋の芸者衆を引連れては大騒ぎ。
でも江戸気質の芸者衆てえと、ずばりとした啖呵をきる…ところなんですが、
金があるから寄ってくる訳でないんです。

♪どこぞの殿も鐘(金)に言わせるぅ刻の鳥、音(値)のはるひと夜も愛しけり♪
字あまり♪
即興でつくってみましたが、

つまり与太郎が愛しくてたまらない。ご当地のアイドルですな。
ひとを恨んだりせずに、なにをされても根にもたず 金払いは良い、我が世の春と能天気。

親の傘下、日焼けはせぬが せんなりの瓢箪 色はしろくて ぶら下がり 

「おい与太ぅ!与太ぅ」
「わちきの渾名を呼ぶそなたは、タレかいなぁ」
「おいおい、俺だよぅ、幼馴染の俺様だぁ」
「アララ、留さぁん、留吉さんでないかいなぁ」
そもそもこのふたり、長屋に住むところの留吉は大棚の泣き虫与太郎を昔から兄のように庇ってきたと思いねェ

「あら留さ~ん、お久ぁし…ワカシ?イナダ?ワラサ?鰤! そうよ鰤(ぶり)よ」
「鰤かいそろそろ味がおちらぁ、なんだなぁ、四六時中オメッチは元気だなぁ。」
「なによ、あたいは何時も元気ですよっ」
「いいなぁお前は、意気地なしは治ったのかい」

「どうしたのさぁ為吉さん、肩が地面におちてるよ」
与太郎が、拾う真似して耳に息を吹きかける。
「ぬあんだ、陰間(男色)じゃぁねえんだぞ、よしなって、擽(くすぐ)ってえよ」

ところが留吉、なにか事情があるらしく言葉の割にしょ気ている。
「留さあん、どうしたのさ、おかしいよ」
「なぁに、馴染みの女郎と朝までしっぽりと…はぁ~」
「紙風船でもあるまいし、萎んでるよ このひと」
きゅっと握ったが、嫌な顔もせず
「実はよぅお前、いや与太郎さんに頼みがあるんだ」

襟をかえして頼みごとぉ
「頼み事と言われちゃ聴きずてないわねぇ で何のこと」
「お・女ができてな。照れちゃうぜ」と小指をたてて
「あらら、いいんじゃない」
「吉原の手前の安女郎をさぁ…いや~照れちまうねぇどうも」
「なんだよぅ、そこまで言って止めちゃいやだよ」
「……身請けをしようと金算段、賭場に運をかけてみたんだ」

ここで噺が重くなったというか、永くなるなと
与太郎は芸者たちに中村座に先に行くようにかたる。
当然 太鼓持ちの輩も一緒で賑やかに去っていきますんです

二人きりになりまして、朝からやっております不動稲荷の茶屋にはいります。

「それは難儀ですね、惚れた弱みに起請文、二の腕刺青ぃ、なんて書いてるの?」
「これかい、お松命っなんでぇ。俺は文字が読めねぇが」
「う~ん…でも賭場はどうなったのさぁ」

「へじめはついてたんだ、これで手付も払えるなんてね」
「それでぇ」
「憑きの神様に見放されてぇ尻の毛まで抜かれ、下手をこくと海苔巻、太巻き、簀巻(すまき)になっちまう」
与太郎も合鎚をうって身をのりだす
「それから…最後の勝負と親方から預かった一両」
「丁?半? どっちよ」
「なんでぇそんな噺じゃぁねぇよ、白山稲荷の境内からとびおりたぁ」
「なんだぁ負けちまったのかい」
「いやいやぁ、あたったね、倍の二両になった」
「なぁん~だ、じゃぁ しょげることないじゃぁん」
「ただよ、人間というもの欲がでる。もすこしあれば新所帯の家具一式ぃ」
「またやったのかい丁半博打ぉ」
首を横にふりふり
「三十両もあれば、あいつを足抜けしてせずとも身請けができらぁ」
「なんだよ、風のふくままぁ、宵越の銭は…なんてことじぁなぃね」

「実はよぅ、くじ…」
「クジラ? 鯨がどうしたの 汐でもふいたかい」
「籤だよ、富籤ぃ」

噺はこうなんです。二両もってホットして帰路についた為吉が境内で売られている富籤に目がいった。当たれは百両、おれはついてるとばかりに一両を富札にかえ,すでに壱百両が当たった気分。最初はうかれていたが、やがて、止めりゃあよかったと足元トボトボときたところに与太郎に出逢ったとい訳なんですなぁ。

「みせてご覧よう、なになに…へ組の九千三百十四…」
「与太郎、どうだい当たるかなぁ」
「当たるも八卦、当たらぬも富籤。でもねぇ への九三一四とは屁の臭いよだよ」
「臭いよだってぇ、消えて無くなる屁のようだぁってかぁ」
「あたってくんなきぁ困るんだよ。厠にいっても屁しかでねぇ、運は残ってる」

「それでいつ籤のお披露目なのさ」
「もうすぐでぇ、今に大太鼓が刻を打つ、するっていと俺は金持ち」
「あらいいねぇ」
「そんでオイラ様子を伺いにいってくるんだが、お前も一緒に来てほしい」
「なんだぁ、そんなお願いかい」
「ひとりじゃとても心細くていけねぇ。なんとか…ひとつ」
「銭の無心かとおもいきゃあ、いいよいってあげる。あたいも一度いっみたかったのさあ」
「へへっわるいねぇ」
いくら幼馴染の為吉に、銭を貸してくれといわれても、おとっつあんに頼まれた支払いの懐の金子、頼まれても貸すことはできぁせん。こんどのこんどは本当に勘当されちまうに違いない。

留吉が与太郎と共に境内に踏み込むと、なんとひとひとひとが蟻のように群がっているんですなぁ。
強欲というか、銭に目がくらみ 人というものは難儀なものです。
与太郎にしてみれば銭の苦労はしたことがないからひょうひょうとしている。

あまりの混みように、留吉はまえにもまして自信を失して
「いやーいるところには いるもんだなぁ」
「地獄の亡者さまさまですね」
暫くしますと太鼓の音色がかわりましてな、
トントコ、トントコ…次に大きくドォーンとばかりに鳴り響く。
願う者あり踊りだすものありでお祭り騒ぎ。

さても口上が述べられると、急に静まって各人々が一点みつめぇてぇ札を握りしめぇ

杖の先に尖がった錐が籤箱の中へグサッとばかりに突き刺して
番号の書いた札を天高く…読み上げがはじまります。
どどどーとばかりに駆け寄って血走る眼(まなこ)。
『へ組のぉー♪』
   「へだってよう」
『九千とぉ♪』
   「おい、なんてった、九千だとよ」
   「ほんと」
『三百ぅ♪』
   「おれっち、もう駄目。息がとまる…」
   「ほら拾だして」
『拾ぅ♪…とぉ♪』
   「死んだ、もう死んだ。これまで同じだな」
   「嗚呼、への、くさい…」
『七番ぁーーーん♪』
   「へのくさいな! な・な・七番????!!!!」

辺りはどよめき、おろおろ泣くは叫ぶはの阿鼻叫喚のありさまぁ。

ふたりとも上気して熱くなったはいいけれど
留吉はへなへなと座り込むみ 口をあけたまま動けない、

「な・な・七番、なんだって四番じゃあねぇの」

「嗚呼ぁ為さん、元気だしなよ」
「………」
もう一言(いちごん)もない、どうせなら全部がはずれりゃ諦めもつくがぁ
最後のさいごのいたちっぺ

もうアイツと手をとり逃げるしかねぇ
そこまで追い込まれて与太郎の顔をみあげりゃ

「ねぇ、あたいもそうだったけど、世の中、捨てた神ありゃあ拾う神。その空籤をあたいに売っておくれでないか」
と上気かげんの清まし顔。
誰も見向きもしねぇ外れ札を売ってくれといわれりゃあ、そりゃあ驚くわな。

「…な・なんだって、一文にもならねぇ籤札を」
「おっと、ここに、おっとつあんに預かった…それは内緒だよ、三十両があるんだけど…」
「おいおい馬鹿なこといっちゃあいけねえよ、そんな銭ぃ」
「どうせ、おとっつぁんから いつかは追い出される身、為吉兄さんのためになるなら本望だよ」
「おいおい…何をとち狂って…なっ、おちつけ」言ってる本人が落着きがない。

与太郎、為吉の口に指あて
「転がり込むのはどうせ兄さんの処、賃料の前払いなら御の字」
「与太郎、いや与太郎様よー」
「さあこれを持ってお松さんを迎えいっておくれでないか」
涙の為吉、言葉を返すこともできない。

一度だした銭、買う買わないの一悶着。
最後はおれましたねぇ為吉っあん

まあ、いいことはやっておくもんですなぁ
どこかのお偉いさんじぁありませんが
「わくわくどきどき感動したっ」ってね

「わたしゃあ生まれて初めて興奮したよ、良い夢みさせてもらったからね。ほんと感動したわいな」

感動どころか、勘当されるやもしれぬ、初めての与太郎の意気地


という大江戸人情噺の一席でございました。




なげーや。
おもろくねぇ…かいちまったもん 仕方あんめい。筆がおれちまったよぉ

そぞろ歩きも 独りじゃいやよ みちゆきの 好いた惚れたは 柳かぜ

長屋の春はちこうござんす。

九六

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  • 2012/04/04(水) 10:44:08 |
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