九六の匣

さまざま詰めこんだ匣

【九六式落語風】『三途午』

【九六式落語風】『三途午』


えー落語ってものは聴いた噺を大袈裟にかたるもんでしてな、
怖いと思えば本当に怖くなるし恐ろしくもなるんですなぁ。

われわれ業界では、饅頭という噺が有名ですがぁ、
まぁ知らない方は、これからずっーとこちらに寄席(よせ)て…頂いて…、
  笑いどころなんですよ。

そのぅなんですなぁ、幽霊てのはご存じですよね。
えっ食ったことがないから判らねぇですか。
困った御仁ですなぁ。まぁひとをくったぁ噺ではございます。
ハイ笑ってぇ。

早いはなしがぁ、早くもねぇんですがネェ
ひとが亡くなってぇですな、未練がましく逢いたやもう一度とかぁ、
恨んでおりますぅっていと、出てまいります。

月に一度じゃござんせんよ。
前の方、そちらさんはおわったんですか。
ご愁傷様、ナンマンダブ、はんにゃはらみた、ついでに南無阿弥陀仏ぅ…あ~めん
本当に不粋な噺家でしてぇ。

カミさんのお糸が突然の病でポックリと逝ってしまった与乃助は
独りしんみり手酌酒、そんなところに薄戸を叩く音が
トン、トン
「すいません、戻ってまいりました。生前はお世話になりましてぇ」
「なんでぃ、誰かと思えばお糸じゃあねえか。
 入れ入れ遠慮はいらねぇ。でぇどうしたんだ?」
「お前さんに逢いたくて、やもたてもたまらず 訪ねて参りました」
「それにしても随分と遅せいじゃぁないか」
「はい、なにぶん夜路なもので、迷いましてねぇ」
「そうかい、まぁ立ち話もなんだ、ゆっくりしてけるんだろぅ」
「慣れたる家でも閾(しきい)がたかくて…」
「カシコばるんじぁねぇよ、膝を崩してくんなぁ」
「有難いことで、わたしゃあ追い出されるかと気がかりでねぇ」
「何をほざいてるんだ、長年寄り添った仲じゃあねぇか」
「嬉しいねぇ」
「それで、何か用があるのかい」
「…実は」
「なんだなんだ新婚初夜じゃあるめいし 気兼ね無しで言ってくれよ」
「そこまで言ってもらえるなら甘えさせてもらうよ」
「なんだろね、崩した素足がみえねぇよ、足がないのは本当なんだ」

「そのぉ お前さんの仕立てた白装束で三途の河原まで参りました」
「そりぁご苦労なこった」
「そこで爺婆のふたりに呼止められたんですよ」
「ほうほう、和尚に聴いたことがある。確か懸衣翁と奪衣婆とかいったような」
「そうなんですよ。着物は全部奪われ、河船頭の前に参ったら」
「なんか悪さでもされたのか」
「ニターっと笑って」
「それでぇ」
「銭を出せ、渡り賃をよこせと言うんですよ」
「なんと卑しい奴だなぁ」
「だから首から下げた袋から銭を出そうとしたら、あんたぁ それが無いのよ」
「エーッ ぜ・銭がないとどうなるんだ」
「あのふたり、私に戻って持ってこい、じゃなければ舟には乗せないって仁王立ち」
「す・すまねぇ お糸 許してくれー」
「なにかい、最初から持たせなかったのかい」
「悪気はなかったぞ。そのー酒がよ、どうしても淋しくてよぅ」
「そうかい、わたしゃあ幽霊だけど、金も酒に化けちまったかい」
「勘弁しちくれー。朝になったらよ、大家に掛合って借りてくるからよ」
「あんたぁ、それじゃあ遅いんだよ、みて御覧よ 付け馬みたいにさぁ」
「なんだい、あいつらも一緒かい」
「あんたも一緒に三途まで来ておくれよ、私ひとりじゃあ心細いからさぁ」
「そ・そんな阿漕なぁ」
「後生だよ」
「あのふたりを説得してみようか」
「うん」
「おーい、外の方々ぁ」
「おふたりさん、ちょいとぉ…」
「……」「……」
「ところで船賃は幾らだい。6文?モノは相談だが朝まで待ってくれたら倍、いや三倍はらいます」
「……」「……」
「返事がないねぇあんた」
「よし、じゃあ覚悟を決めた。よしゃあ、一年待ってくれたら一両、一両でどうだい」
「…」「…」
「わかったよ。俺も男だ、清水寺から飛び降りよう、十年待ってくれたら十両」
「・」「・」
「けっ、商売人だなぁ。最後だよ、いいかい、死ぬまで待ってくれたら百両でどうだ」
「……い」「……よしのった」
「さすがだね、三途の河を仕切ってるだけあるね」
「あんたぁ、死ぬまでって私もかい」
「こいつとふたりで二百両、いいね」

「うーん、良しとするか、なぁお婆」
「与乃助とお糸はおいておくじゃ、のう爺さま」

「よかったねぇ、あんたぁ」
「三途のおふたりさん、じゃあいいね。俺っち夫婦は律儀なんだ。
 金は死んだ時、持っていくからね。じゃあ ありがとうよ」



「なんかいっちまったよ。また来たらどうするの」
「決まってらい、また値上げして化けるんだよ」

え~三途午という一席でございました。
おあとがよろしいようで。

太鼓、笛~っ お囃子ぃ

九六


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【※】-半世紀分の散らばした気侭綴ゑ-

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