九六の匣

さまざま詰めこんだ匣

【歩句】『はなさかり』(2012-04-29)

【歩句】『はなさかり』(2012-04-29)


ひとり占め ウメやサクラや レンギョウや



うめ01

さくら01

連翹01

つばき01


わが庭の花は盛りでございます。



九六





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【蔵書の旅】『ふたつの雑誌/家の光』(10年の変遷)

【蔵書の旅】『ふたつの雑誌/家の光』(10年の変遷)


 今、手元にふたつの『家の光』があります。

ひとつは昭和22年1月1日発行とありますが、1・2月合併号です。
そしてふたつ目が約10年後の昭和31年12月1日発行の12月号になります。

戦後間も無く発行された21年12月号は71ページ。31年11月号は250ページで大きさは同じですが、厚さが違い、ページ数は約3.5倍にも増えています。では定価はというと5円で、10年後は65円で付録つきですが13倍となっているのです。表紙は写真をみてくださいね。

家の光01-家の光02

◎昭和22年1・2月合併号(上の左)をみてみましましょう。

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【記事】

「世界農業と日本」「自由の民」「女ばかりの酪農組合」「平和な年を迎えて/武者小路実篤/河端龍子・画」「たくましき農村の建設」「新憲法と共同組合」「座談会/正しい日本の歴史」「時局の動き」「蓄力ムギ踏機の作り方」「ニワトリ一羽の無駄なし利用で美しい新春料理」「赤ちゃんと子供用重宝衣類の作り方」「希望探訪記/あなたの知りたい事は明るみに出された」
「たのしいギニヨール(指人形)のつくり方」「ABCカルタ」
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【小説】

「愛/第1回/堤千代/三芳悌吉・画」
「蝶々/三条草雨/霜乃二一・画」入選新人小説
「れんさい童話/よいお友達/第三回」
「グリム原作/金色のガチョウ/神保光太郎/小松崎茂・画」★小松崎茂が2点描いています
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【漫画】

「キナ子ちゅん/都会の巻/杉浦幸雄」
「弥兵衛どん初姿/松下井知夫」
「笑う農民会館/小川哲夫」
「コドモ家の光/冬ノオ山/和田義三」

記事をみても、戦地から帰国しない男たちもいるのか、婦人たちの労働力が農業にも求められた。自由・平和などの言葉が紙面におどっている。敵性語の英語も自由に使える時代がやってきたのである。
なかでも「ニワトリ一羽の無駄なし利用で美しい新春料理」は凄い。わが家にも鶏がいて調理した記憶がある。鳥の調理バリエーションが面白い。なにかやっと取り戻した平和を戸惑いながらも前向きに生きていこうという気概がみえている。
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◎昭和31年12月1日発行の12月号
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【記事】

「二、三男がひらいた理想郷」大分 呉崎干拓地
「年忘れ爆笑コンクール」夢路いとし・喜味こいし・ミスワカサ・島ひろし
「評判娘ばかりの農協よもやま話」
「貯金はどんな方法がよいか」
「家の光愛唱歌⑫」私やお山の樵の甚兵衛・橇の歌
「あすの農協発展のために」
「カメラルポ 農村工業」
「バタリー養鶏成功の秘訣」
「物の選び方 買い方の心得」

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【小説】

「山は大きい。」牧野吉春/栗林正幸 画
「ああ、無情」貴司山治/向井潤吉 画
「若殿ばんざい」山手樹一郎/岩田専太郎 絵
「母」川口松太郎/田代光エ 画

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【漫画 他】

「マンガの楽園」金親堅太郎
「冬に備える」森吉正照・ツヅキ敏・佐川美代太郎・吉崎耕一・矢崎武子・内山卓三
「きよー子さんとどー太さん」杉浦幸雄
「轟先生/人妻サロン」秋好馨
「1956年さよならクイズ」独立マンガ派同人・
「漫画自慢展」岩本武雄・中村ススム・阿部昌太郎・羽生六男・小松勅之助
「川柳アルバム」細木原青 画
「座談会/新日本見て歩き記総まくり」林唯一/川原久仁於・細木原青・阪本牙城・宮尾しげお・森熊猛・金親堅太郎・石川進介--角巻/三階節/飯鮓/キクザコ(キビナゴ)/川海苔/ラーメン50円、支那ソバ60円/太閤にらみ松/竹酒/目無馬/米検査/

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「挿絵」
 
中村伊助・阪口茂雄・土端一美・土井栄・伊藤静夫・沢田重隆・
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【映画記事 他】

「流れる」成瀬巳喜男
「蜘蛛巣城」黒沢明
「空飛ぶ円盤・恐怖の襲撃」新東宝/地球あやうし--
「乳母車」田坂具隆
「米」今井正
「四十八才の抵抗」

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この二冊いかがでしたか。
映画案内記事にしても豊かさが滲みでてきてます。それでもまだ余裕のあるところまではきていないのかもしれません。この後の10年後、20年後の記事や色々の変遷もみてみたい気がする。それは又あとのお話しですね。


九六
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【蔵書の旅】『住 彦次郎/狼を使ふ女』(1947)

【蔵書の旅】『住 彦次郎/狼を使ふ女』(昭和22年8月15日刊)


 漫画でも映画でもそうなのだが、筋立てをこと細かく書いてもなにもならないと思っている。この小説にしても私が読んでも、他の人が読んでいない場合、そんなことを書かれては興ざめだと 立場を逆にすれば思うからである。
ただ背景は、時代は、そしてなんという人物が登場するのかはいいと思う。互いに読み終わっているなら、それはもう自由に話せばいい。でもこの作品は私自身は本当のところ知らなかった。きっと知らないのは本人だけであろうと、どんな作家なのか興味が湧きつつ蔵書探索の棚に載せることにしました。

副題『鍔鳴三四郎捕物帖 第一話』といいますから第二話、三話もでているのでしょうね。知ってる人はよほどの時代劇マニアか、推理小説の好きなひとかもしれない。昭和22年といえば戦後まもない時期です。それはそれとして、当時のこの本の値段は四拾円は一般の本と差はあるのでしょうか。とても奇麗な和紙に版画刷りのような雰囲気があります。戦後の製本にしては、染みはあるものの美しくて良いですねぇ。誰の絵なのかも不明です。

住 彦次郎01-住 彦次郎/狼を使ふ女02

気になったので、古書店検索をしてみました。すると
住彦次郎の著作本は

『古沼の秘密』昭和18年刊 怪奇探偵叢書

『切支丹追放/天正奇聞』昭和18年10月刊  大衆文藝社

『悲願治水観音』 昭和18年刊 大衆文藝社

『三矢戦国魂』昭和18年刊 大衆文藝社
 
以上がありました。昭和18年刊行の戦中本がおおいですね。

『住 彦次郎/狼を使ふ女/鍔鳴三四郎捕物帖 第一話』
 関西図書出版社 昭和22年8月15日刊 
上記の本は、私の手元に来たのは奇妙な偶然でしたね。
実は本の間に挟まっていたのです、まるで付録のようにですね。

おそらく、私があの古本の山をまとめ買い求めをしなかったら、きっと焼却の運命だったと思いますと何かしら本との縁のような心持になりました。きっと日本の半分の距離を経て、北の果てにくるなんて、呼んでいたんでしょうか。まあこんな楽しみ方もあっていいのではないでしょうか。きっとそのうち…。
とにかく一度私のもとへきたものはでていきません。わたしゃあ本屋でもなく古本の売人でもない、ただの趣味のひとなのですから。

【蔵書の旅】九六



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『奇妙な落款』(12)

『奇妙な落款』(12)


「お~い」
口腔が乾き、干からびた声で子供を呼んだ。
意識だけははっきりとしているが、なにか言葉の勢いを失っているようだ。
儂は何日も眠っていたのだろうか…皮膚が弛んでいる。

何度か声を掛けると裸の子供はやっと立ち止まった。こちらを振り向いた子供は儂を警戒するでもなく目の前にやってきて膝を押え屈んだ。

「お前さんの名はなんというんだ?」
本当はお前は何者だと問い糺したかったがそうもいくまいと優しく声をかけた。
やっと傍にやって来た子供をまじまじとみることができた。

「有難うよ、俺を助けてくれたんだろう」
声を更に柔めて手を伸ばした。すると急に後ずさりして顔を強張らせた。
やはり、子供は言葉ひとつとして発する事はなかった。
こいつとどうやって意志疎通を図ろうか暫し考え、右手を自分の口にあてていかにも空腹だという仕種をしてみた。

すると、首を傾げ、そのあとに笑ったかのようにな仕草をした。
「な・なんだぁ」
子供の唇は大きく歪んで、まるで耳の近くまで三日月状に広がったのだ。
この子供の屈託ない表現なのだろうか、
でも、それはまるでいい伝えに聴くところの河童のような顔立ちではないかと思うほどの変容であった。


---------------- 

「そ・それじゃあ!もしかすると…」
噺の腰を折らんでくれ…とばかりに私の眼をみつめ、いかにもまだ話の途中だというかのように睨んだ。

彼の話の続きを聴いて、喉の奥に呑みこむ唾が店内に響くかと感じた。
それは、
「なぜ儂が子供という言葉をつかっているか判るかな。普通なら子供といわず、男の子とか女の子と表現するだろう…」

---------------- 

子供は茸の中心に指を突然探るようにいれて、ひかる胞子と一緒に乳白色の肉塊状のものをさしだした。
儂は受取ながらこれは食べ物だと理解して、恐る恐る口に放り込んだ。
その発酵した甘酸っぱい味が舌を擽(くすぐ)る…牛の乳を発酵させたものより濃く、とにかく美味なのだ。
子供に食べ物を貰った感謝の言葉を返そうとした。

…その時、儂は初めて子供の不思議な特徴に気づいた。
なにか普通でないカタチ

奴は…
両○具有だった…。

それからもうひとつ、あの茸の事だが見た目は人間の皮膚のように湿潤で柔らかそうに見えるのだが、実は思ったより硬質であること、襞(ひだ)はなく上部中心部に5センチ程度の四角形紋様が刻まれている。
紋様の周りには、ミミズがのたくった文字状のモノが描かれている。
胞子は子供が指をいれた四角形の中心の切れ目からだけ放散しているようだ。その度に微妙に収縮するため文字が変化していて連続して文字が読めるようにみえる。しかし、よくみると四角形は濃い朱色に染まり、書画や掛軸などにみられる大印を捺した『落款』にも似ている気がしてきた。

この茸と子供の正体はなんなのだろう、そして周りの木乃伊、疑問だけが頭の中を駆け廻った。


【つづく】九六

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『奇妙な落款』(11)

『奇妙な落款』(11)


 儂は子供に近づいて驚いた。何故かといえば行燈の灯りだと思ったのが違っていたからだ。両手に抱えたものは大きな茸であり、それが発光しているだ。

茸が光るといえば、儂が幼い頃に母方の田舎に行ったときのことじゃ。外にある厠に向った時にな、夜の山が青白く発光している不可思議な現象を見たことがある。それはこの世のものとは思えない、死人(しびと)の魂が集まり演舞しているように感じた。
朝になってな、それを言うと 婆があそこに行ってはなんねぇぞ、仏の『オワタリ(和太利)様』じゃと諭されたが、好奇心から独りで山に分け入った、するとそこには毒をあるツキヨダケ(月夜茸)の群生が辺り一面に広がって真昼の陰のような状態で緑白色に発光していたのである。
毒茸の香りが自分を惑わすほど強烈で衝撃的な事で、魂の逝く彼岸とはこのようなものだと思った。その後の記憶はなく、探索にきた若者にフラフラと歩いていたのを発見されたんだ。

この茸は巨大なサルノコシカケのような
カサから乳白色の淡い光源を発する茸をかざして、裸の子供が儂を導いているらしいのだ。蔵の中は茸の胞子が気儘に浮遊しはじめて飛びかい、明るさを増すと半闇の中に奇々怪々な物が氾濫しているらしいのが判りはじめた。
「なんだ、この黒い干(ひ)からびたものは……、うわっ…」
突然、何かを踏みつけてしまった。

眼を近づけて凝視すると、
それはなにか獣の燻製みたいなものだが、おそらく猿が寝そべったような木乃伊(ミイラ)化した物体であった。それが何体も重なってある訳だから驚くのはあたりまえだろう。

何がなんだか理解できない事が続くと、人間というものは自然と口が歪み笑ってしまのだろうか、おそらくよそ様がみていたら狂ったような顔に思うはずじゃ。へなへなと蔵の床にへたばったように腰が砕けおちた。

裸体の子供は更に跳ねては光の胞子を撒き散らしている。

両手の肘を後ろ側の床につき、半身が寝そべった形で子供の踊るような仕種を幻想のように見詰めた。そうそれはまるで蛾が行先を決めずにフワ~っと鱗粉を撒散らしているようだった。

頭の中で「蛾っ?」という漢字がうかんだのだった。迷う蛾、舞う蛾……マヨイガ…
その言葉は地図の地名にも確かあったぞ、あれは『マイガ岳』だったな。
それにこの地方には奇妙な言い伝えやが民話が数多いなかで『マヨイガ』というものがある。

『マヨイガ』とは…人里離れた山中に在りて立派な家のことなり。訪ねても人の気配なし、問うても誰もおらず。だからといって家財などを欲にかられて持出しすれば祟るべし。かかわることあたわずこと。
以前に土地の婆さまから聴いて、それに係わった者のことなどもノートに書き記していた。

もしかすると、儂の顔を被っていたのもこの茸なのだろうか。






【つづく】九六
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【駱駝博物誌】『長禅寺 三世堂 水鏡』()

【駱駝博物誌】『長禅寺 三世堂 水鏡』()


長禅寺 03-01

長禅寺 02++

長禅寺 三世堂 00

長禅寺 三世堂 01

長禅寺 三世堂 03

長禅寺 三世堂 04

長禅寺 三世堂 05

長禅寺 三世堂 07

長禅寺 三世堂 山門01

長禅寺 三世堂 山門01-01

長禅寺 三世堂 山門01-02

長禅寺 三世堂 山門02

長禅寺 三世堂 山門03 (1)

長禅寺 三世堂 水鏡01

長禅寺 三世堂 水鏡02

長禅寺 三世堂 水鏡03

長禅寺 三世堂 水鏡04

長禅寺 三世堂 水鏡05

長禅寺 三世堂 水鏡06

長禅寺 三世堂 水鏡07

長禅寺 三世堂 水鏡08

長禅寺01


【駱駝博物誌】写真


水ぬるむこころ何処ぞ独りみち

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【駱駝博物誌】『桜の苑』()

【駱駝博物誌】『桜の苑』()

岸辺に春の花が咲き、辺り一面に微笑みがこぼれる
桜の苑00
木々のもと我ともにうつろう日々
桜の苑01
枝もたわわに花が群れ
桜の苑02
みあぐればすべてをつつみ
桜の苑03
今年もまたあえた悦びは
桜の苑04
なににたとえようか
桜の苑05
川をめぐり
桜の苑06
あゆみて又あゆみ
桜の苑07
路は花にうもれ
桜の苑08
我もまた花にうもれ
桜の苑09
この一瞬に身をあずけ
桜の苑10
花の筏にこころをよせる
桜の苑11


駱駝博物誌 写真


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【蔵書の旅】『本草綱目』

【蔵書の旅】『本草綱目ほんぞうこうもく)』

本草綱目001①-本草綱目006

本草綱目002②

菅江真澄が東北に来たのは江戸時代後期1800年あたりで彼の専門は薬草学でもありました。各藩を訪ね、秋田、津軽の未踏の山野を巡りてその土地特有の薬剤になる様々なものを探索し試しただろうことはいうまでもない。

本草綱目を学び、おそらく治療もして、あらゆる物に興味を持ちつづけ、書画を愉しみ後世に遺した人でもあります。

その本草綱目なる本は中国に始まり、わが国にも多大な知識をもたらした。一般にはあまり親しみがないという理由もありますが、高価なこともあり、なかなか手に入らないものです。
先日、古本屋でみつけると他の本をさし措いても欲しかったが、あたかも残り物みたいな口調で手に入れてしまった。あまりの安さにこの連作書物を束で買いたかったがそれでは愉しみが減ってしまうという事で取り敢えず一冊を購入しました。今思うとかなりあさましいことです。

つまり、四冊のうちのの一冊がこの本ということになる。詳しくは以前の「古書店のすすめ」をご覧ください。三冊は「少年倶楽部」で復刻版?であることは紹介済みですがどうしても欲しい一冊、いやもっと重ねてあるのです。
本草綱目003-本草綱目004

図版が多いのもこの本の特徴ですが、実際はもっと大きかったのではなかろうかと思う。言葉を補う図が医薬のない地方に伝わり、簡単に比較参照が可能になった。特に私ごときのつたない知識だけで何を語っても伝わらず、一目瞭然のこの本には及ばないということです。

本草綱目005-本草綱目007

とにかく、一度はどこかで聞いたり見たりしているはずですよね。

とにかく楽しもうと思っています。

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【歩句】『水仙』

【歩句】『水仙』

すいせん01



軒下や飾り詣でか黄水仙



水仙は冬の季語ですが
北の地は今が盛りと愛でる花


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【漫画玉手匣】『少国民新聞』(昭和16年1月 4枚の漫画)

【漫画玉手匣】『少国民新聞』(昭和16年1月 4枚の漫画)
(昭和16年1月16・17・18・23日)


西暦1941年つまり昭和16年の1月に発行された『少国民新聞』の4枚から漫画と記事をご紹介します。
いまでいうと当時の子供新聞ですね

少国民新聞00昭和16年1月18日

四枚の第1面です。上-1月16・17日、下-18・23日
少国民新聞19410116-00-少国民新聞19410117

少国民新聞19410118-00-少国民新聞19410123-00

でも漫画も載っています。作者は少年倶楽部連載をお描きになった『日の丸旗之助』の中島菊夫氏です。
丸い優しい漫画のタッチですね。これも猫がとても良くて見いってしまいました。1935.1 - 1941.9)
少国民新聞19410116-99-少国民新聞19410117-99-少国民新聞19410118-99-

少国民新聞19410123-99-少年倶楽部16.8月号-日の丸旗の助少年倶楽部16-8
少年倶楽部 昭和18年8月号掲載『日の丸旗之助』4頁


記事にも面白いものがある。新種の蟹、自転車改造、昆虫の歴史
相撲の記事などバラエティーにとんでいる。しかし背後から軍事色がせりだしています。

少国民新聞19410116-04-少国民新聞19410117-02

少国民新聞19410118-09-少国民新聞19410123-04

少国民新聞19410117-03-少国民新聞19410117-00

この新聞が発行された年は日本と世界にとって激変の年となる。
参考資料をてらすと、まずドレミ音階がイロハ音階となる。だからこの時代の少年少女は現在でも諳んじる。

北アフリカではロンメル将軍が戦車による機動部隊で侵攻。
燃料封鎖など日本の資産凍結。首相交代があり、ハル米国務長官の名前をとったハルノート要求案を拒否。さらに戦艦大和も完成し12月8日米英宣戦布告することになる。

黒く大きな波が心定まらぬ子供たちを呑みこんでいったはずです。
ハーモニカをこよなく愛した亡くなった父がよく言っていたが、反対とか抵抗なんてできる考える状態ではなかったと。心とは裏腹に時代はウネリを増して、凡てを巻き込んで濁流となりうごきだした。

その約11ヶ月前の少国民新聞です。まだここには、なにかしらゆとりがみえるといえるかもしれない。
しかしそれは束の間にすぎなかった。

九六


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【漫画蟲蔵】『かわぐちかいじ乃棚』(1)

【漫画蟲蔵】『かわぐちかいじ乃棚』(1)激動の軌跡


彼は漫画という表現で、歴史の点と点を繋げているのではないか、
そう思う時がある。
時間の経過は別としても過去・現在、そして未来へと続く縦軸に、人間の生きる証しという横軸を絡ませ布を噤みそして織り上げている。

ただそれには始まりがあり、創作の原点がある。
黒の闇世界、そこかに身を置くもの足掻きともとれる人間模様が彼の手にかかると鮮烈に血の気をおびてくるのです。
ただ読者にとっては、荒削りともいえる人間の息吹というものが受け入れがたい時期の作品群である。しかし同時にその鮮烈な生き様をもろに受け入れた読者としての私がここにいる。

初期の作品とは
デビュー作『夜が明けたら』()や
それ以前の『はずれた…ナットのバラード』()
その作品を掲載した、『けんか葉隠 原作宮田雪)』()である。

北冬書房の2作品
『風狂えれじい 』(1968)と
『死風街』()--そのうち手に入る予定。予告のみ掲載。
かわぐちかいじ00-
かわぐちかいじ01-かわぐちかいじ02+

かわぐちかいじ03-かわぐちかいじ04

『テロルの系譜』()---蔵にあったか未定 未読
『テロルの箱船 原作宮田雪』()
かわぐちかいじ20 テロルの箱舟

『黒い太陽』(4巻)
黒い太陽01-黒い太陽02

黒い太陽03-黒い太陽04

『私設探偵 赤い牙 原作勝目梓』()
かわぐちかいじ15-かわぐちかいじ16

『赤い野獣 原作勝目梓』()--これも蔵にあったかどうか、未読
『牙拳 原作東史朗』()
『猛者連ブギ 原作東史朗』()
『黒旗水滸伝 大正地獄編 原作竹中労』()残念ながら未読

かわぐちかいじ06-かわぐちかいじ10-

かわぐちかいじ14-かわぐちかいじ13-

かわぐちかいじ12-かわぐちかいじ11

かわぐちかいじ17-かわぐちかいじ18

かわぐちかいじ19
『襲名せず シナリオ関川夏央』()
『銀狼に孤独をみた 原作久保田太郎』()④のみ
『悪党商会』()
『悪人喰い』()
『蛮族警察 作-セルジオ関』()
『バクダン 極道疾風伝』()
『軍靴の響き 半村良』()--みているが蔵にはない
『唐獅子警察 滝沢解』()--みているが蔵にはない

もちろん完全ではないが初期の作品を掲載してみた。

次回は麻雀と探偵が待っている、この後を掲載する予定ですが、あり過ぎてすすまない。気の向くまま再度読みかえすのも一考かと…

沈黙は全巻大判だよ ハァー

浅川マキでもきくかぁ

九六


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『奇妙な落款』(10)

『奇妙な落款』(10)


「…、…、」
「………すぅぐわーっ」
人間が目覚めるという事は、浮遊する上下感のない死の淵から抜け出すようなもので、暗い海の中から海面を目指して出たとたんおもいっきり息を吸い込む瞬間ににている。それは解き放たれた充足感というよりは新鮮な空気を補給できずにいた切迫感ともいえるかもしれない。
記憶はないが母体から生を受けたあの泣き声こそが生存への執着する目覚めなのだ。

儂があの地で目覚めたのも、何故かそのような感覚だった。

ただ体が異様に重い、ひとつとして自由が効かなかった。
理由はすぐにも理解できた。なんと首から下は土中に仰向けのまま埋まっていたのだからである。唇と鼻穴以外、顔面には不思議な布のようなものが覆ってあるのだ。

目がみえない、首を振る、指が微妙に動く、足先は無感覚か…
声を唸るように喉から絞り出す、これらが頭の中で緩やかに連動する。
とにかく動かねばならないという思考がはたらく、何度も筋肉の収縮をかさねた末に隙間ができた。これだけでこの状況下では重労働だと知った。

今度は血液が緩やかに循環し始め、思考回路が活性化する。
この状態は自ら望んではいないもので普通に考えると土葬に近いのかもしれない。

気配がする。あの子供だ。何をする気だ。
突然顔面を被ったものが取りはずされた。
「い・いきて・生きてるんだぞ」
眩い光が眼底まで届く。

儂を覗き込んだ子供が微笑んでいる。

暫らく経つと子供は儂を覆った土を取り払っている。やっと体の自由がきくようになった。実際に儂の体を覆った土がそれほどではない量であり、それが不思議なもので土圧と体力が落ちたせいか簡単に抜け出せなかったのだろうと悟る。

よくみてみると、足の腫れはなくなっていた。
ということは何日間かはこの状態だったということになり、この子供は土中に埋めるという何かしらの民間治療で儂を助けたことになる。

ふらつきながら、子供の跡を前のめりで歩いていくと、小走りに蔵の中に消えていった。開けっぱなしの蔵の入口で扉に両手を圧し掛かるようにつき、中を窺ったが暗すぎて何もみえてこない。どうしてものかと横木に腰をかけていると中から行燈の灯のようなものが揺らめいてこちらにやってくる。

「うーうー」妙な声だけが聞えてくる。
「なんだ、入ってこいというのか」
重い尻をなんとかあげて一歩づつ蔵の内部へとあゆんだ。

入ると外部とは違う冷気が首筋にかかってくる。
蔵というものは一旦もぐり込むとその大きさに驚くものだと思い、行燈の灯りの方向へ数歩すすんでは、立ち止まると、灯りは奥の方へと進んでいく。足元も覚束ないのは病み上りだからだが、やけに照明が暗いせいもある。自分の居場所さえ何も見えない闇が周りから這いずってくる気がする。

「おい、いい加減にしてくれよ、体がまだ回復していないんだ」
だが何の返答もないまま灯りが動くのをやめた。

しかしぼんやりとだが、眼が闇に慣れてきたのか周りが見えてきた。


【つづく】九六



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花吹雪

花吹雪


花見とは風情がありますなぁ
それも花吹雪を期待していったとやら…
こちらは芽がふくらみかけてきたところ
空気が覇気をもち、香りも春の気分です
当然ながら写真は撮ってきましたね

期待しております。

あの女史のことは了解。
でも読むと はまり過ぎるのでちょっとねぇ
というところか、



花吹雪、花筏とかわりゆく季節を楽しんでください。

九乃字

花ともにゆくかわが身の忙しき
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『奇妙な落款』(9)

『奇妙な落款』(9)



 縄に吊り下げられた篭が地面に降りると子供はその中に入ったものを取り出し始めた。
私はそれを横目で見ながらも、上空に向かって
「おーい、そこの人を~」
と大声で再び叫んだがなんの反応もない。
もしかすれば儂をみかけた里人が心配して縄をおろしてきたのかもしれないと感じたからだ。しかしこの縄は私の体を引き上げるには心もとない。この子だって途中で千切れてしまうに違いない縄なのだ。もし引き上げるために使用するなら縄ではなく、綱でなくては適わない。それにあの篭に入っていたものをみると食料みたいなものだ。
その食料を貪り食う子供をみると、お盆の中に三角錐に盛られた飯と干からびた魚が数本入っており、脇に神社などにみられる幣があり護符のような文字が書かれてある。
「なんだこのお供えみたいな妙な御膳は…」
何故上の人間は儂の問いにこたえようとしないのだ。

おもいっきり縄を引張った。反応はなく、手から3メートルあたりでブチッとばかりに切れた。もともと切れるように細工してあったのではないかという疑問が湧いてきた。
子供を引き揚げるのでもなく、私を助ける訳でもない。強いていえばここから出さない工夫ではないかと結論づけた。

この子供は一体いつからここにいるのだ。まるでこの状態は、岩穴に幽閉されているのではないだろうか。
暫くすると縄はスルスルと切れたまま引き揚げられていく。

「助けてくれ~、お~い。誰かきこえないのか~」
言葉は空しく岩肌に吸い込まれていく。

子供はひとしきり食べ終わるや、飯を両手ですくい無表情のまま儂にさしだした。
目でこれを食べろと言っているようだ。

そういえば儂も昨日から何も口にしていない。両手を差し出すと飯粒を擦り付けるように手にのせた。
もち米が交っているらしく甘い味が口中にひろがった。米の色と味が、炊くときに醤油を垂らしているらい香り飯で、地方で不祝儀にだされるもののようである。小豆の入ったオコワ、つまり赤米などを使用した祝い膳とは違っている。
次に干した魚を差した出された。
よくみると海でとれるグロテスクな表情のオコゼ(虎魚)というものにちがいない。形は鮟鱇にも似ているが背びれに毒針を有している。こちらではカジカと云われるものだろう。だからといって海が近いという事でもないはずだ。この魚を奉納する習わしは、よく『山神信仰』にあるのを思い出した。

魚を口で噛み解しながら、民間の聴取り調査に常時持ち歩いている簡易地図を胸ポケットから取り出し広げる。
当時の地図は地図と言っても名前だけで、それほどまともな地名が詳しく記されてあるものではない。それにこの辺りは森林のような地図上の標記なのである。

主だった地名や山の名前がカタカナで表記されている地図の中に、『マイガ岳』という文字がなぜか気になった。どうみても北西に進路をとっていたのでこの辺りが現在地になるだろうと鉛筆で標をつける。
もしこの地図の地点であるなら、入ってきた裂け目から脱出して坂をのぼれば帰路につくことができるだろぅ。

しかし儂は、息が荒くなり、額から脂汗が浮き出て滴りおちる状態だった。
子供が怪訝そうな顔で儂を方をみている。

原因が捻挫だけでなく、傷口から侵入した雑菌に侵され、足全体が真っ赤に腫れあがってせいだろう。

意識が薄れていく中、これでは暫くは歩行困難になるだろうし、いまいる場所が正確に判断できなければそう易々と人家まで辿りつく事は無理だろう。

とにかく、今は体を休めることが肝心なのだ。
危険を犯すくらいならここにいた方が懸命だろうと自分に言いきかせようとした。

意識が遠くなるなかで、何故あの子供は裂け目を独りで抜けていかなかったのだろう…等々、懐疑的になった自分がいた。

高熱のためか、グルグルと景色がプリズムのように発光しまわりはじめた。
意識がとおのいていく…
このまま眼が…覚めないかも…

子供が奇声を発して蔵のほうへと駆けだした映像を最後に糸がきれた…。




【つづく】九六


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『奇妙な落款』(8)

『奇妙な落款』(8)



さて、突然だが
男の名は安倍というらしい。敢えて聴かなかったのには理由がある。
それは、こちらから聞きだした訳ではないが、古書店の名前が『安倍光源堂』となっていたからで、まったくの当てずっぽうでもなかったのだ。

それに、この男は今ここで私と向き合って酒を呑んではいるが、それほど知人というほどの深い関係ではないのは判って頂けるとおもう。それに客である私の名前だって知るはずがないだろう。

つい先ほどまでは古書店の店主と本が好きな客の関係に過ぎなかった。それが、古書店に主と同居している謎の痩せた男が原因で、ここでこの男の話を神妙な気分で拝聴しているのは、間違いない事実なのだから…。

男は額に手をあて
「儂が原因なんだろう…」
これからここで話すことは口外しないと念をいれて言葉をつよくした。

さて男の噺の続きだが…。
磐の裂け目から入った彼は朝になるまで垂直にそそり立つ磐を背に眠ったという。

相も変わらずゆっくりと過去を思い出すかのように語りだした。


儂は眼が覚めて、この場所の状況をなんとか把握しようとした。
三十メートルもありそうな岩壁の遥か上方から、いまいる場所の周辺に大きなおぼろげな輪をつくっている。だが暗いわけでもなく霞がかった風情まである。
秋も深く、この季節は厳しいはずなのだが、まるで春の陽光につつまれて生暖かい心地よさが伝わってくる。

ここは縦穴の中だと自分に言いきかせ、よろけながらも背筋を伸ばした。やはりあの斜面を転がったせいで節々が悲鳴をあげはじめる。
立った位置から土蔵に目をやれば、緑の水藻がゆっくりうねる小さな川があり、軽やかな水音さえ聴こえ、その向こうの蔵は一段高く土盛りがされて建っていらしい。周りを溝に囲まれ清水がめぐらされている。

手で水をすくい口に含むと妙に甘く冷たい。頬に水をかけながら顔をあげると、何かがいるのに気付いた。
「誰かいるのか?」
眼をこすりながら蔵の端をみると…、そこには茶色の髪が肩まである子供らしきものが、こちらを見詰めているのだ。


どうしてこんな洞穴に子供がいるのか理解に苦しむが、おそらく土地の子供が遊び場にしていたのかもしれないと、手をふり声をかけた。
「おーい、君~」
何故か怯えているのか怪訝そうな顔つきで見詰めている。
儂が足を引き摺りながら一歩前にでると、今度は怯えたのかのように物陰に隠れる。
辺りを見渡しても、どうも彼ひとりだけらしい。
何も怖がることはないと諭すように言うが一向に埒があかない。

まあ人がいるという事は近くに人里があるに違いないと安堵したせいもあり、腫れて膨らんだ足を労りながらゆっくりと石に腰をおろした。
やっとというか、自分が泥にまみれで擦り傷から血が滲んでいるのに気付く。これでは子供からみたら鬼のような形相だと、驚くのはあたり前だろう。
移動して小川に入り、水に体をなげだした。

衣服を脱いで水で浸し、裸になって体も同時に洗い流した。
服を絞っていると、背後でケラケラと笑う声がしたので振り返ると、いつまにか子供が手の届く傍まできていたのだ。めをあわせてじっくり観察すると、その子供も裸で、髪は上空の光を浴びて金色に輝いている。

この地方には河童という伝説の生き物がいると云われているが別に甲羅を背負っている訳でもない。痩せこけたようにも見えるが普通の子供の顔立ちをしている。河童というよりは、天使とか強いていうなら、座敷童といった表現が正しいかもしれないと思えた。

「なにをしているんだい」
という問いかけにも返ってくる言葉はない、首を傾(かし)げたり、頷いたりまるで儂を弄んでいるかのようだ。ただ時折みせる鋭くなる目付がかなり気になった程度である。

突然、子供が走り始めた。磐穴の上空を見詰めて何かを待っているようにもみえる。そして暫くすると、両手を高く掲げたその先にスルスルと縄状のものが降りてくるのがみえてきた。

どうやら縄の先には竹で編んだ篭が結んであるらしい…。

儂は駆けより大声で叫んだ。



【つづく】九六
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『奇妙な落款』(7)

『奇妙な落款』(7)



ガラス戸を開けると客はなく
居酒屋のカウンターの一番奥になだれ込んだ。

「いらっしゃい、風ぇすごいねぇ」
焼き鳥屋の店主は型通り挨拶をするものの二人の来客に怪訝そうな素振りであった。
「ビールをくれっ」
どうも私たちの様子がいつもとは違ってみえたのだろう。コップを差し出しながら
「なにかあったのかい?」
コップを持つ手が震えている。
私は苛(いら)つきながら
「おやじ、包帯かサラシはないかい。この人が転んじゃてぇさ」
「そいつはてぃへんだ、まっとくれ」
事の次第を店には告げるつもりはもうとうないし、この古本屋の男だってのぞまないだろう。

壁際の板は焼き鳥の脂で変色してベトついてくいる。
まったく衛生的とはいえないが先ほどまでの恐怖とまったく違う次元に飛び込んだみたいだ。

「角の街灯が切れちまったから、隣組の班長さんに替えるように言っとくから。
足元を気をつけないとな」と言いながらサラシを差し出した。

「あれっあんたあそこの本屋じぁねぇか」
男の口は重かった。
黙ったまま顔を伏せて私の治療とはいえぬ処置を受け入れている。

「ひとつ聴いていいかい」
「……」
「あの男とあんたの関係は親子じぁないのか」
「…男じぁねぇ、それに親子でもねぇ」
「一体、あいつは…」
私の言葉を閉ざすように呟くように語りだした。
「まず聴け……」次に
ビールをひと口含むと感がきわまったのか
「…嗚呼、何十年ぶりの酒だぁ」
「何十年って、なにか酒は止めていたのか」

つづけて硝子コップの麦汁をイッキに呑み干し唇と喉が潤うと、言葉がではじめた。



これから話す奇妙なことは、彼の言葉で記述することになる。

…そうだな…あれはもう数十年も前になるかな。
もともと民族学に傾斜し、学問に没頭していた時期がずっと続いていてな、
東京の偉い先生の指導もあって、東北地方の言葉や風習・伝説などを調査する事になり、儂も同行することになった。
仕事といえば、いった矢先の部落などで聞き取り調査をし、筆で書取りしてまとまると東京へ手紙で送る。
そんなところだ。

場所はといえば、宮城県を過ぎて岩手県にはいり、沿岸部から虱潰しに調査を開始した。
最初は学芸員もいてかなりの員数だったなぁ。血気盛んだったしなぁ。

ところが一年も過ぎて、ひとり減りふたり減りして最後には儂ひとりになってしまった。まあ家族持ちや病に倒れたものもいたが、給金が少ないのが困りもので、生活もままならなかったんだろうね。

儂は独りになっても山林を抜け、険しき山々を探索して周っていたが、冬が近くなったころでまだ紅葉は終わっていなかったなぁ。
郷からかなりの山奥で夜になり迷ってしまったのだよ。こんなところじゃ山犬か狼にでも出逢ったら大変だと、沢に沿って歩くのを止めて岳に登れば郷灯りも拝めるだろうと、急な斜面を何度も転げながら尾根に向かったんじゃ。

しかし何度目かの挑戦で力果ててしまい、藪の中を落ちてしまった。
折ってはいなかったが捻挫のような痛みがでて、それでも這いずりながら一夜を過ごせる岩窟を探した。火だけはおこせたが寒さを凌ぐにはきついものがあった。

ところがだな、岩窟の奥から妙に微かだが生暖かい風がやってくる。温泉かなにか湧いているのかと思い中に岩壁に寄りかかりながら、狭い裂け目を二十メートルほど潜り込んで…。やっとくぐり終えたら、突然ひらかれた場所におどりでたのだよ。

…お前は、六甲山にある『石の宝殿』というのを知っているか。周囲が岩の壁で真ん中に四角い大磐があるやつだよ。
ただ『石の宝殿』と違うのは、中央に巨大な磐でなくお宮みたいな土蔵があったということなんだ。

当然、自分の眼を疑ったさぁ。
儂は暫く痛さをを忘れ、その蔵と四角く囲まれた岩天井の星々を見ていたのを想い出す。



彼の不思議な話はそれだけでは終わらなかったのだ。


【つづく】九六
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九六綺譚 改定版『俄雨の鬼』

九六綺譚 改定版『俄雨の鬼』



「そうさねぇ‥鳩渓(きゅうけい)さん」

と口火をきったこの男、御殿医でもござんしてな、ちょいと年下ですが俗にいうところの刎頚の友でありまして、なかなの才のある奴なんでございます。

誘って立話もなんだということで、まずは眞昼間から何か肴に一杯ひっかけましょうやと書上げた浄瑠璃の戯作を片手に ちょいと立寄った茶屋のこと…。

「あっしはね、あんたの鳩渓の鳩(きゅう)の左を戴いて号を九(く)何がしと将来は名乗ろうと思ってやすよ。つまり一字拝領、もしくは偏諱(へんき)ってやつですよ」

おやおやいいのかい、あっしみたいなモノの名をつかって、などと思うが素っ気なく
「勝手につかったらいいやねぇ。そんなモンでよけりゃあ熨斗つけてぇもってきなぁ‥」

「じゃあ、これから九っの幸せって事で、幸をつけて号を九幸(くさち)呼んでくださいなぁ」
「おっと九幸ねぇ、いいんじぁないか がってん承知の助」

ところで、あとで九幸(くさち)とは何かと問いますと、
こんな平和な日本という江戸に住み、色々な人々と長く付合い、まあ程々の銭、飢えもせず、できればぁチョイト名を残し錦を飾り、子をなしてねぇ 日々元気に余生を暮らしたいなぁってことだなんていいやがる。

まったく欲だらけじゃねえのか、煩悩を捨てな-っなんて、ひとの事を言える身分でもねぇか。
でもなんですよ、私を慕い持ち上げてくれる可愛い奴なんですよ。

「田沼の旦那は口ばっかしですねぇ」
「金は渋るが口は出す、世の中そんなもんだよ」
「しかしですよ鳩渓さん、湯島の万物薬品会の見世物屋はけっこうお金が懸かるんでしょうね」
「そりゃあいっちゃーおしめいよ。かかるもなにも出ていく一方さぁ。…それからよぅ佐竹の殿さんが招いて下さるって山師みたいな話もあってね。えーなんだっけ、く・九幸(くさち)さんよ。この浄瑠璃本が売れりゃあ幾らかの足しになるってことだよ」

九幸(くさち)はそれを聴きまして小指と親指を振り回し、
「あれれ、またあの方に貢ぐなんてぇことに‥」
「そりゃあ、俺の甲斐性だ、男好きなのはしかたねぇ 性(さが)なんだよぅ昔から」
「あの歌舞伎役者との仲はどうなるんですかねぇ?」
「金の切れ目が! なんとやらぁってこともあらーな」

暫し噺が弾みまして
九幸はしゃわしゃわと扇子の香を振りまきます。
こんな勝手なことをぬかしていますと、やおら空がかき曇りましてな、
途端にザァーザーとばかりに俄雨ぇ。

「おやおや 降り出しましたね、これじゃあ動きがとれませんよねぇ」
「困ったねぇ、戯作綴りを入れるあぶら紙を携えてこなかったよ」
ふたりが互いに顔を見合わせていますと、

茶屋前の通りから、体ひとつで前裾を押え、我々ふたりのいる格子前の軒下におなごが駆け込んできた。
俄雨にそれほど慌てる様子でももなく
「ちょいと、失礼して暫し軒下をお借りいたしますよ」
とばかりに店の亭主に声をとばす。

-いいねぇ、歳の頃30歳(みそじ)すぎ、女(おなご)の濡れ姿は-

鬼も十八、番茶も出花と申しますが、この歳辺りが膏のってなんとも言えません。

なんとも小粋な身なり、ほれ、どこそこの清元か常磐津のお師匠さんじぁねえのかい。
ほれほれ肩から湯気がたってるじぁありませんか、ちょいとばっかしさぁ雨の滴が浴衣をぬらし肌の白き温もりがほどよく伝わってきます。

ピカッ…!!

雷光が煌き、ごろごろ‥どぉーん っとおちますと、首あたりや襟足のおくり毛が光の中で金色に耀いていたとおもいねぇ。きょうび江戸の鳥居一門の錦絵を思い出してごらんなさいよ、いいもんだねぇ。

一杯ひっかけたふたりが、おなご談議に鶯泊まりてさかせぇ華ぁ‥という具合‥

小粋につんとした鼻筋、楳(梅)の紅さす唇、頬白粉にあの黒子、喉もとから首筋にそっと押さえた手拭(てぬぐい)の指がキュッとしなりましてな、
男というものはそんな些細な仕種に艶気を感じ、よからぬことをしでかすもんでしょうなぁ。

まあ普段なら、ちょっいとした思わせ振りな仕種なんかで男衆の気をそそられる、まあ、どちらにせよ男衆を誘う手練手管でもあることにちげえねえ‥
などと思いつつもみてしまいます。
浴衣にしたり落ちる滴、下駄を片足あげて、小粋に濡れ手拭の艶っぽい事といったらたまりませんでなぁ。

「鳩渓(きゅうけい)さん。いいね、果報は寝て待て、格子冥利につきますなぁ」
九幸(くさち)は扇子をパチリと立てて声まで潜めては向かってにんまりとする。

「ちょいと艶っぽ過ぎやしないかい」

店の主人が我々ふたりとおなごを見渡しながら
「そこの方、軒下じゃあなんだから、戸が開いておりやすよ。中におへんなせぇ」
女はその声が聞えたのか膝を斜めにおり、小首やや傾げては
「ありがとうござます。ここで結構でございます」
ってなことをいいましてな、なかなか奥までへぇてこねんでございます。

すると九幸(くさち)が身を乗り出して
「格子越しとは逆でございやすが、そこなるは破れ店(たな)の軒、滴がかかっておりますよ」

九幸(くさち)とて、難儀をしているおなごが雨の餌食ではと言葉をかけたのだが、
この男はどうも人間の骨格とか肉付きに興味があるらしく…。

それじゃあ九幸(くさち)に恩でも売って加勢しておくかと、
「どうか中に入っておくれでないか、そこじゃ撥ねた雨が浴衣(べべ)にも下駄にもかかりあすよ」

「‥そこまで言って頂けるのなら、ひと雨の間だけお邪魔させていただきます」と
か細い声が どこかがキュットなるんですなぁ。
ついでに九幸(くさち)がもう一押し、
「まあ何にもねえ店(たな)ですがねぇ下駄を脱ぎ拭いて乾かしたらよろしいかと‥」

ここまで言ったらおいおい店の主人(おやじ)がいやな顔をするんじぁねえの。

「九幸(くさち)さん、あんたもなかなかのご気遣いでございますね」
「鳩渓(きゅうけい)さん雨が悪(あ)しですよ、わたしゃあ変な心根はこれっぽっちもありゃしません」

堅物の九幸(くさち)の変わり様に、ちょいとからかい半分、やっかみ半分。

鳩渓(きゅうけい)の言葉に
「私は、怒りますよ‥」っとムッとした顔の九幸(くさち)に、おなごが
「私のことで喧嘩なさっては困りますょ」っと出て行こうとしたが雨は一段と強くなる。

私も大人気ないと
「すまないね、謝りますんで許してくれんかのう、悪気はないのじゃが」
「‥‥」
「雨が止まぬなら傘などお貸ししようが、もう暫く様子をみてはいかがでしょう」
おなごは軽く唇を小さく噤むと紅き口端が愛想笑いにもみえた。



鳩渓(きゅうけい)と九幸(くさち)は雨が音する路をおなご越にみやっていると
「やまぬ雨はないももの、売り子泣かせの雨乃滴ですなぁ」
「まだまだ止みそうにないですなぁ、我々閑人には酒でも貰ってぇ‥」
「いよーっ越後やぁ、お大尽、おい主人(おやじ)升をふたつ、いやみっつもらおうか。それから鰻(うの字)の白焼きもかるく炙っておくれ」

当時の鰻はぶつ切りの串にさして炙り垂れで食していたそうであるが、ここでは鰻をひらき串を打つという今様なものであります。

「ただ酒に鰻かい困った奴だぁ、こんなに陽気な九幸(やつ)をみたことねぇ」
九幸(くさち)は酒には弱く、酒巡りてはややほろ酔い加減 口もまわればくどくなる。

「昔の事はくよくよせずに、先の事も悩まねば、ほど良く飲みて又食べ」
私も続けて
「其の後っ‥、食いつけねぇものは避けてぇ、薬に頼らず、欲に惑わされぬ、とにかく良く遊びて学べっとくる あんたの口癖だね」
「そうそう、七つの戒ってこと‥ヒック」

「ところでそこな方、失礼だが、酔ったついでとはなんだが、お名前を聴いてもよかろうか ヒック」
「‥‥」
「失敬、わし等は怪しいものでないぞぅ、そちらが鳩渓(きゅうけい)先生といって蘭学の大家、拙者が医者の‥今付けたのだが く・九幸(くさち)と申すが…ヒック」

おなごはサッと顔色が変わる。
「鳩渓先生と申されますと、もしかすると平賀の源内さまでございますか」
「おっとと、知っていなさいますか、世の中狭い。じゃあこの酔払いをご存知かな?」
「えー、ただいまご紹介にあずかりましたぁ九幸(くさち)こと、玄白と申す。ヒック」
「私は ウキと申します。まさかこの様な処で御逢いできるとは思いもしませんでした」
「ほう、世は狭い、わしらも顔が売れてきたぞ、のう」
「なにか訳がありそうだが」
「父が所持しております家宝に‥エレキテルなるものがご在まして、さる偉い方より拝領しましたが動かないのでございます」

なんと、エレキテルだと、噺がとたんにおかしな方向へと進んで参りますなぁ

「うーん、エレキテルとは、確か和蘭本で図を見たある気がするがぁ」
「なんじぁ、そのエレキテルテルとは、食べたことはないぞ ヒック」

-玄白は後に腑分け本にて一名をなすのでありますが酔ってはだらしない-

「源内さまに一度診ていただきたく願っておりました」
「私もいろいろ忙しいが、そのエレキテルには気をそそられる。その物は確か徳川さまの所持品ではなかったかと記憶しているがなぁ」
「それはこの口からは申し上げられません」
「まあそんな事は良いとして、ここに私の居場所を書いておくから届けておきなさいなぁ」
懐から和紙と筆を出すと、サラサラと鰻の如く書き連ねてはおなごに手渡した。


とっ、脇を見ると玄白こと九幸(くさち)が眼を丸くしておなごをまじまじとみている。
「どうしたい?九幸さん」
「えっ、そのう、ウキさんとやら、あんたの髪の間に黒いものが二本あるようだがぁ」
私もその異様なものが気にはなっていたが、問うのもおかしいとはばかっていた。

ウキは慌てて手拭を被り、
「簪ですよ」と答えた。

戸口の外の雨はピタリと止んでいる。

「じゃあ、雨も上がったようだし、先生方また御逢いしましょう。源内さま後でエレキテルを診てもらいに伺いますよ、よろしくお願いしますぅ」
ウキというおなごは、しなをつくり軽く会釈すると、我々二人を残して表に駆け出していったのである。

二人とも口をあけたまま浴衣の女を見送って顔を見合わせた。
「見たかい、今のは簪(かんざし)かい? 角(ツノ)じゃねぇのかい」
「ああ、確かに見ましたよ、鳩渓(きゅうけい)さん、黒い艶のある角でした‥」
「もしかして 鬼なんて事はありはしないよなぁ」
「ウキっていいましたね、雨と鬼でウキ(雨鬼)ってことかい」

さてはエレキテルに雷神、雨鬼(うき)とは得てして面白い。

「俄雨に出逢う艶っぽい女は気をつけなくちゃあいけねぇなぁ」
「左様で‥」
改めて源内と玄白はふたりで見合うと大笑いした。



何年かのちエレキテルのおなごは、源内の許に再び現れたという。当然の如く角は無かったのだが、エレキテルを渡すと二度と源内の前には現れなかった。それを直した源内はたちまち江戸中の評判となったという。

ところで、あの鰻屋で勘定がおわり店の主人(あるじ)にあまりにも客が少なかったのを按じて、「本日土用丑の日」と張り紙をださせたとある。何故かその店は江戸の庶民の注目をあびて鰻の売れ行きが上がったのである。又、源内はこの後に号を福内鬼外(ふくうちきがい)としたともあるが‥‥。


了   





九六

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『奇妙な落款』(6)

『奇妙な落款』(6)


突然、野良犬が唸るような声がした。

しかし背後から聞えたのは低い男の息づかいと喚くような言争いだとわかった。
「やめてくれぇ」
「ゔぅ~ぐぁ」
しかしもうひとつは声ともならない唸り声なのだ、
点滅する光線の闇に眼を凝らしてみると姿恰好から古本屋の主人なのだが、もう片方はストロボ効果のせいか獣たのように三日月に裂けた口、その口中に複数の牙のようなものが異様にひかり、乱反射してみえた。
また主人が叫ぶ
「なっ、やめろ!!」

もの凄く素早い動きなのか、影だけが俊敏に位置を変えている。。
ただこの気配は…あの男のものなのだ。
いま路地の隙間に何かがいる…

おもわず私は片方の靴をぬぎさると、塀の隙間の闇におもいっきり投げこんだ。
靴は当たったような音もなく、ただなにもない闇の空間に黄金の眼のようなものがこちらを窺っている。
もうひとつの靴を持ち替えて身構えた。

ここはまだ未舗装なので、ときおり風が渦まくように土が舞い上げる。
土煙が近づいたと気づいた瞬間、
私に体ごと覆うように主人が抱きついてきた。

「やめろ!離せ、何をする気だ」
あとから考えると私を自らの体で庇ったのだろう。しかしその時は恐怖で混乱していた。
もがき手で相手の首を押返した
すると
「こ・これを持っていろ」
わたしの胸に風呂敷包みを無理矢理おし付けると、両腕で抱きしめるように交差させた。

「こんな時になにを血迷っているんだ!あいつの眼をみただろう」
「…もうすぐ止む、そのままじっとしていればな」
 
街灯の電球がいつの間にかきれたのだろう。
路地の暗闇にだまったまま寄りかかるように立ち尽くしていた。

闇が揺らめくと、浪が寄せては引くような気配だけがする。
そしてふたりの前後を、まるでマントが風を切り裂いてはためく音が遠のき、風の音だけになった。

だが風下にいる我々の辺りには、あの男の吐き出す醜悪な息とゼイゼイと喉を擦る微音がまだ聴こえているようだ。


「もう離せ!あの男が襲いかかろうとしたんだぞ」
「いいや…恐怖のあまりそう見えたんだ」
「なんであの男が俺を襲うんだぁ、理由を教えてくれ!!」
「ああ、解った…」
黙ったまま手を解くと疲れ果てたように崩れた。

「とにかく、そこの居酒屋へいこう」
店主は再び傷口がひらいたのか呻いた。


【つづく】九六
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九六式落語風『あるよ!』

九六式落語風『あるよ!』



毎度のおはこびをありがとうごさいます。

さて落語家というものは何が大事たってぇいいますとな

そりゃあ噺家ですから、口からでる計算された出任せ、つまり笑わせるコツといいますかツボをいかに巧みに騙(かた)るかってとこです。でもねぇ経験もねぇ、しらねぇ事はいくら落語家でも騙るにオチですなぁ。

まあ、そんなところを捏(こ)ねくり、かき混ぜて皆さんにいかにもぉ知ったかぶりの如く発表…いけねぇや学会じゃねぇや、ご披露するんでございます。

でもねぇ落語家にとって、もっと大事(でぃじ)なことがござます。あげれば錐がない、鉋がない、槌がねぇ…大工(でぃく)やってるみたいだね。どうも噺がすすまねぇ。

友達、仲間 大事ですよ。
師匠 もっと大事
お客さま 嗚呼 もっともっと大事!!
 うけた、うけましたか。煽ってどうするぅ。でもハイ次に進みます。

これらをさしおいても大事なのが~かみさんですなぁ。漢字でかくと女将さん。
おや意外な顔をしてらっしゃる。でもねぇホントなんですよ。

某噺家はカミさんの唄まで作ってご披露していますなぁ。
ほら、「よしこさ~ん♪」ってね。おー、解っていらっしゃる。旧い方ですねぇ。
愉快で、快活、明朗、穏かでぇ…ど~も結婚式のひととなりを話してるみたいだね。

「愛してるよ~♪」。知ってる方だけお笑いくださいなぁ。(※①)

あの女将さん、惜しいことをしましたなぁ。ぇっ まだご健在。あとで付届けをしておかないと大変~な事になります。これは大事の上の大事なことですよ。御綺麗でいらっしゃいます。ホローになってない。
あたしゃ~テレビでしかみたことがない、有名な匣いり女房でいらっしゃる。
もっとホローしないとぉ?


ひと様の事はようござぁんす。
あっしの女房ですがぁ。そりゃあ凄い方(?)でぇ、ひと様には決してお見せできない顔(つら)なんです。う・嘘じゃないんですよ、今度おみせします。
若い頃はそりゃあ とって食いたいくらいの可愛さで、食っときゃよかったなぁ。

幾年も暮らしてますとぉ、あんな方でも情が湧いてまいります、見慣れたというか…。

長屋でいいますと、お鶴、お花、お松、最後にお亀!するってぃと私はヒョットコ野郎ですなぁ。

「けえったよ、お亀」っと熊五郎が狭い長屋に戻ってきた。

「あら、旦那様ぁお帰りなさいませ」
「な・なんだよ、そのものい・いいようは」
「なに言ってのさぁ、たまには…こんな言葉もぉつかって…」
「おいおい、だれかぁ味噌の蓋をしめてくんなぁ」
「なんだこの野暮でノータクリンの阿呆亭主ぅ」
「そー、それでなくちゃあいけねぇや、そんで何か嬉しい事でもあったのかい?」
「あらら、そうそう、今日はいい肴の出物があってねぇ」

「そうかい、なんだなぁ たまにお頭付ってぇのが食べたいねぇ」
 「あるよ!」------(※②)
「じゃあ、三寸を…」
 「あるよ!」
「御造りを…」
 「あるよ!」
「焼き魚はぁ」
 「あるよ!」
「酢の物も」
 「あるよ!」
「澄まし汁なんてぇ」
 「あるよ!」

「…いいねぇ、なんでも…」
 「あるわよ~はい、お酒ぇ」
「おいおい、何の魚なんでぇ」
「イ・ワ・シ、鰯よ」
「な・なんでぇ、鰯ぃ、全部が鰯、お前が小遣い稼ぎに売ってるヤツだろう」
「残ったのよう、それも大量にぃ」
「ああっ、頭が痛てぇ、それが余って調理したぁ」

「まだあるわよ。竜田揚げ、スリ身の甘酢餡かけ、それからー」
「わかった、わかったよ。おめぇなんか魂胆あるだろう」
「フフッ…、わかるぅ」
「なんだよ気色の悪い」
「で・で・できちゃった」
「何ぃできたぁ」
「へへへっ、や…だぁ」
「や・やだぁ」
「なによ、ややこだよぉ」
「……や・や・ややこぉ」
「………」
「そりゃあ、めでてぇ 目出度いや。おいらも親父、父親ってぇことだな」

長年連れ添って子供ができねえと諦めかけていた矢先のこと
夫婦(めおと)揃ってその晩は歌舞狂乱、酒池肉林

突然に天下に照り輝く天照、巌谷の発光のごとく
はたまた、辺り一面、花咲き乱れては迦陵頻伽(かりょうびんが)が舞うがごとし
お亀さんの声は仏が如く妙音鳥にもにたり。

まあ難しいことを言えばなんとかなるもんですが。

十月十日が過ぎまして、産み月となります。
熊五郎はてぃと
娘がいいとか、でぃく(大工)の二代目を継がせたいから息子がいいと祈るは祈る。
でも最後は五体満足であれば関係ないと、願を掛け、お百度参りや滝修行
はたまた長屋の入口には鰯の頭とくれば完璧。

さてさて産声があがり、産婆がとりますなぁ
心配なのは熊五郎ですなぁ
大丈夫かぁと襖を開けるとぉ

奥からお亀が
「あんた~ぁ あ・る・よ」
「なにがぁ」



え~ 九六式落語風『あるよ』…の一席でございました。
お後がよろしいようで

夫婦と云うものは、これがあるからやめられない。




夫婦みち いるよでいない 背を併せ あれのこと あああれね



九六



あれれ、あれは
(※①)は、「いつもどうもすいやせん」のポーズ
(※②)は、木村拓哉主演『ヒーロー』にバーテンダー役で出演の田中要次が使う言葉。最近は『ストロベリーナイト』の「お譲ちゃん、吐くなよ」がいい。ちょっとしか出ないが存在感がたまらない。


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九六式落語風 『馬霊玉』

九六式落語風 『馬霊玉(ましょうぎょく)』



 えー世に好き物は多くいらっしゃいますわなぁ

清次郎なる骨董に滅法こだわりを持つ男がいましてな
ある時、呑み友達の助六に
「あしゃあ、このかた世の珍品を集めてきた」と蒐集の自慢噺をしております。
「清さんの事だから 相当値の張る珍しいモノや噺があるんだろうね」
「まあ聴いてくれよ助さん、この間、旧家の蔵にあったモノだが…」
「なんだよ、勿体ぶるなよ。そんでその蔵から何が…」
「待て待て、誰が聞いてるやもしれねぇ。もっと寄りなさい」
「……」
「うげぇ、そりゃあ凄い」
「まだ言ってねぇよ」
「そうか早合点だったね」

「…蔵の奥からぁ…珍しい石がでてきたんだよ」
「石ーぃ、石がそんなに凄いのかい」
「そうだなぁ、その大きさは手毬の如く、丸くて、しかし重い」
「そりゃぁこんなもんだろう」と両手を回す仕草。

「その輝きは七色の虹が浮き出ていてね」
「それは舶来物なのかねぇ」
「それがよく聴いてみるとぉ、元々カミさんの実家にあったらしい」
「その奥方は金持ちなんだねぇ」
「いやいや、新宿村の農家の出だよ」
「ほぉ新宿村といぁ街道沿いの…そいで地面からでも掘り当てた。そうだろう?」
「まぁ似ても異なる処、ある時にぃ働きものの馬が死んだそうだ」
「ほう、う・馬ぁねぇ」
「可愛がっていたんで、食う訳にもいかねぇと馬頭観音よろしく簡素な棺桶をつくって塚に埋めた」
「俺なら馬刺しで一杯でぇ、勿体ない」
「おいおい、恨まれるよう」

「七日、つまり初七日、初午の日ぃ」
「馬にも初七日ってのがあるのかい」
「娘のおみよ坊が花を手向けに塚にいった…」
「良く聞く名前だねぇ、もしかすると馬の名はアオかい」
「その通りだが話の腰をおっちゃあいけねぇよ」
「娘が塚の場所が光輝いているのでぇ、腰ぬけた」
「おーそれでぇ」

塚によってひと掻き、ふた掻き
するってぃと土中から出たのがこの玉(ギョク)だという。

お和尚に知らせると、これは俗に世にいわれる『馬霊玉』ではないかと大騒ぎ。
拝み讃えて仏壇に供え、毎日念仏など唱えた…。

がぁ、通りかかった高齢の山伏が
「これなる玉は奇妙奇天烈、怪異怪変 魔性の玉 伝々とばかりに言ったそうでぇ」
「するとなにかい、その玉はタタリでもあるのかい」
「その通り、災いがあり、呪いがあるとね」
「けっ、しんじねぇよ。その山伏が妖しいね」
「そうはいうものの、なにか起こったらいけねぇと」
「一度拝見したいねぇその石玉、たまげるほどかい」
「まぁ聴いちくれ、五色の布に包んでぇ桐の箱にいれ遠い縁者の蔵にしまいこんだぁ」
「ほう、やっと新宿から浅草にやってきた」

清次郎は なんとか譲って欲しいと頼んだが、子々孫々まで蔵表に出してはいけねぇと言われたが諦めきれない。一度だけなんとか拝ませて欲しいと懇願してやっとの事でみせてもらったが、なんとその石玉の美しさといったら、この世のものでない。七宝七光の虹が周りにのぼるってなもんだね。

なんとか手に入れたいと思案するが盗人はご法度、
そうか自分でつくりゃあいいのかと思いつきまして

早速、あの新宿村の農家に赴いて粘ること四十九日、馬に食わせた草とか飲み水、土までも調べ上げて帰りぎわ 目白の何がしで馬を買いまして意気揚々戻ります。

たまには助六が様子を見物に参りますが、馬と同じものを食べて試して研究熱心でございますなぁ。
やがて一年も過ぎて清次郎が助六を訪ねて参りまして、もうすぐできそうだ。後は馬が死んだら埋めるだけとのたまいます。

ところが、精も根もつかい果たした当の清次郎がポックリ逝っちまいましてねぇ。

助六も呆れるやら残念がるやら、惜しい呑み友達をなくしたと嘆く嘆く。
初七日になりまして、清次郎の墓前に訪れたところ
「なんだなぁ、清さんお馬は元気だよ、親はなくても仔馬はそだつ…
 おやぁ!ひかるものがあるよ
 おおー、小さいけれど、馬霊玉じゃなく人霊玉だ~。素晴らしい黄金色」

よくよくみると、
「うん!?  なんだぁ!ふたつもあるよ。ふたつぅ?黄金?」



馬霊玉の一席でございました。お後がよろしいようでぇ


  
ゆく春の いろ艶やかに 衣きて 酔いてみやるか ひとの襟足

うら若きおなごはえーですな   はしたないぞぇ


九六
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【第五列】『秘密基地』(67号暗号連絡)

【第五列】『秘密基地連絡』(67号暗号指令)

作戦コード:JBKの逆襲

96号「67号定時連絡せよ」
67号「すぐ攻撃していいか」
96号「反撃していないのか」
67号「ここから転進するぞ」
96号「特殊任務を実行せよ」
67号「無理だぞ包囲された」
96号「貴殿の成就を祈願す」
67号「どうしても即実行か」
96号「聞こえない通じない」
67号「ただちに本部へ向う」
96号「どうした応答をせよ」
67号「こちらは聴こえるぞ」
96号「おかしい雑音が入る」
67号「通じないぞ本部本部」
96号「攻撃なのか応答せよ」
67号「嘘だろう。わーーつ」
96号「全通信が途絶えたぞ」
67号「ザーーーーーーーつ」
96号「67号現在地を連絡」
67号「後ろにいるんだけど」
96号「危ない敵の総攻撃だ」
67号「おいここにいるんだ」
96号「残念だ全滅したのか」
67号「なんでみえないのか」
96号「時間だ朝飯にしよう」
67号「なんだそんな時間か」
96号「…………………旨い」
67号「俺の立場はどうなる」
96号「………67号は何処」
67号「誰の話をしてるんだ」
96号「仕方がない総員撤退」
67号「全員帰っちゃったよ」
96号「惜しい奴をなくした」
67号「俺は存在しないのか」
96号「わっ敵が侵入したぞ」
67号「…………………ツー」

今後の活躍を祈願する。定時連絡終了。



九六


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『奇妙な落款』(5)

『奇妙な落款』(5)


 店主は手当が終わると、体を揺り動かす仕草をはじめた。暫くすると勝手口に向かい私のために茶をいれはじめ、こちらを振り返りながら
この前の本が盤台したに風呂敷で包まっていると告げ、勝手にみるようにとボソリと告げた。
私は丁寧に風呂敷を解き、油紙のようなものに包まれた本をとりだしてじっくりとみつめた。

くすんだ色は白熱灯の光線を浴びて、艶やかな光沢をおびた肌の色のようだ。ハードカバーより厚い表紙を開くと活版印刷の文字が浮き上がるように頁をうめつくしている。内容は自分が東北の出身で常に旅をつづけていたという散文的なものだった。しかし待てよこれは彼の処女作だときいている。読み続けるとここ最近の情景が綴られているような気がしてきた。
過去と現在が入り混じった筋書きは不自然だが、妙に納得して状況を脳に浮かびあがらせるのだ。
その時気づいたのだが、捲った頁の随所になにか黒い滲みが点在している。

硝子戸が春の風でガタガタ音をたてる。
突然、本に影がおちる。
「まあ一気に読みたいだろうが、今夜はけえった方がいい」
いつのまにか主人が横にたち、傘電球の光をさえぎったのだ。
「すいません、夢中になってしまい…」
「そろそろアイツが帰ってくる時間だからなぁ」
「もう大丈夫なんですか」
「ああ、迷惑をかけたなぁ」

いとまの挨拶をして、古書店をでたのは夜の8時をまわっていた。

相変わらず風が通りを唸りをたててかけはしっていく。
この前の居酒屋に今夜も寄ってみようかと遠くの角をみやりながら背広の襟をたてた。

街灯が切れかかっているのか明暗を交互に点滅を繰り返しクマ蝉のような音をたてている。映画のワンシーンのように、誘われ引き込まれるよな気分になった。
あの先の角を曲がれば赤い居酒屋の提灯がみえるはずである。

足早になる…。数時間前のあの異様な気配がまた再びおきつつある予感がする。

自分の体全体が明暗が交互に写しだされ、まるでストップモーションのように影が飛び跳ねる・
もう後悔している隙はない。右手の塀に寄りかかり闇の先へとすすむしかない。

通りの角はもうすぐだ。片手をのばせばいいのだ…。
耳の後ろから鼓膜に響く鼓動音は溢れんばかりのリズムを打っているに、ひと足が磐に根がはえたようにゆっくりともちあがる。

…ついた。やっと赤提灯が一陣の風で千切れんばかりに動作しているのがみえた。大きく深呼吸をして、襟を正し、やっと自分を取り戻した。自分がわけの判らない何を恐れているのさえ理解できないまま空笑いをしたのだった。あとは居酒屋で取り繕った笑いをおとせばいい…。

「お前…」
「えっ」
「…ジジジジ…ジジジジ…」
何か聴こえた。雑音の合間に本当に聴こえた。
背後に何かでない、アイツがいる。

足がツルのはよくあるが、初めて言葉が思うようにでない。
恐怖とはそんなものかもしれない。大体ここは街ではないが普通の町の住宅地だ。
それに、私自身 ひとに貶(おとし)められるほどの云われはない。

平静を取り戻すために自問自答の呟きを繰り返し、
それとは反対に
両こぶしを力任せに固くさせた。



【つづく】九六

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Author:九六
好きなものを自由に書く、読む、観る、描く。そして遊び愉しむ。
【※】【玖絽・by96・九六・九路・KURO・物部黒彦】【96猫國から発信】
【※】-半世紀分の散らばした気侭綴ゑ-

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