九六の匣

さまざま詰めこんだ匣

九六の箱?

『九六の箱って?』『おもちゃ箱みたいだなぁ』

『おもちゃ箱みたいなぁものさ』

過去のガラクタを全部閉じこめた箱があった。箱は匣とも函ともいい空間と時間を詰め込んだ。ただ九六個になったらもう入らないとか‥。だから九六の匣の玩具匣は 愉しむための匣。

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『賢治の世界』1 「どこいくの?」

『賢治の世界』1 「どこいくの?」

『どこいくの?』


クランボン2

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『神々の塒』第拾七話 「出羽三山の聖なる水」 

『神々の塒(ねぐら)』 

第拾七話 「出羽三山の聖なる水」

『夔(キ)』なるモノ 夔


「両方に顔があるのね ひとつの体に二つの頭があるなんて 信じられないわ」
胴の太さをかえて、長く伸びることもできるようだ。
「どうして こんな生物が こんな東北の山の中にいるのよ?」
侃奈は 他の二人を庇いながら、十拳劔(とづかのつるぎ)を振り回して防戦するしかなかった。 


侃奈の後ろで、やっと梓乃(しの)が気をとりもどしていた。
「エッ なんなの この醜いイキモノ(『キ』)は?」
梓乃(しの)は前方にいる 『夔(キ)』とよぱれるモノに眼を見張った。
温水の脇に毬胡が倒れていた。その脇には 助役がふたつに裂かれて死んでいた。
「ウワッ助けてぇ  毬胡(まりこ)さん起きてよぅ!」
夢から覚めたような毬胡は
「‥‥‥ああ 梓乃ちゃん そこに父がいたのよ」
「しっかりして 侃奈が 怪物と闘っているのよ  死体もあるしぃ やだよぅ」
毬胡は梓乃の肩越しに 侃奈の息を弾ませている背をみた。

巨大な芋蟲のような『夔(キ)』は 侃奈と対峙したまま 眼をひからせている。
十拳劔(とづかのつるぎ)を肩に上に担ぎ上げて 侃奈はおおきく呼吸をしていた。
「私には 催眠術みたいなみのは 効かないわよ」
「ケヒケヒッ  ケェーッ」
甲高い叫びがして もう一つの頭が、侃奈の身體(からだ)に絡みつこうとして。

パシュっと 音がして 一本矢が 溶けている人面の顔に突き刺さった。
「キエェェェェーーッ クェックェッ」
『夔(キ)』は、口の穴のようなポッカリ開いたところから 苦しそうな悲鳴をあげた。

侃奈はこの時とばかり突き刺した。
黄色い硫黄のようなドロドロした熱い体液が噴出してた。ズルズルと引下がったのだが もう一つの牛顔がまわりこんで侃奈にふち当った。
「キャーア」
「侃奈ぁーー」
侃奈は数メートルも端まで飛ばされた。毬胡と梓乃はすぐさま侃奈に駆けよった。
「侃奈ぁ 大丈夫ぅ」
「アチッ 痛いっ 毬胡さん あんまり大丈夫じゃないけどっ あっ危ない」
毬胡は振返ると 迫り来る『夔(キ)』に瓶を投げつけた。

瓶は、牛顔の顔にあたって割れた。
「クワーーーーッッッッ  ギェッ」 っと『夔(キ)』が泣き叫んで悶えている。
毬胡のガラス瓶の液体は 出羽三山の羽黒山の聖(ひじりに調合された聖なる水だった。
効果があったのに 驚いたのは毬胡のほうだつた。
「やったわよ!父のノートに書いてあった水を作ってもらったのよ」

『夔(キ)』は眼が溶けているらしい。盲目になって 奇声をだし、身體(からだ)を振り回しながら三人に近寄ってきた。

三人は、立ち上がってすり鉢状の坂を、庇いながら登っていった。
「侃奈ちゃん 傷から血がでているわ」
「うん、梓乃ちゃん ありがとう 弓矢があたって助かったわ 毬胡さんの水も凄い効き目なのね」
「私だって あの水にびっくりしたわよ」 
「でも 異様のモノが こんなに大きいとは思わなかったわ 小猫くらいかと思っていたの」

荒鬼神社の摩羅丑神なる『夔(キ)』と云われる おぞましい姿の怪物は、三人が坂から転がした石音をかんじたのか 首だけを180度クルリと回転させると こちらに向って突進してきた。。

「こっちに向ってきたわよ」
「早くのぼって!!」

気配で、私たちを見つけたらしく 牛のような眼が怒りの形相で迫ってきた。

(拾八へ)

『夔(キ)』

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『神々の塒』 第拾六話 「双頭の神」 

『神々の塒(ねぐら)』 

第拾六話 「双頭の神『夔(キ)』」

湯気のせいか 数メートル先は 煙っていてみえないのだ。
バシャツ‥っと 水音がして 黄色い湯気のなかで 異様なものが 蠢いている。
次にバキバキと噛み砕き押し潰すような 音がして、ゆっくりと左右に影がゆれながら近づいてきた。

「きゃーあ  ねっ 見たでしょう なんか眼のようなものが二つひかっていたの!」
「すぐに戻ったほうがいいわよ 梓乃(しの)ちゃん 侃奈(かんな)ちゃん」

三人は後退りしながら 得体のしれないものから 遠ざかろうとしたが、異様なものは 回りこむみながら 大きな影は俊敏に移動てきた。淡い光から ストロボのように強い光が輝きはじめ、湯水の中を 蛇が這うようにズリズリと 気色の悪い音が間近でするのだ。
ひかりは 三人を包みこむように 湯気を揺らしたが 何故か取り囲まれた気分である。、
 
「エッ お父さん」毬胡(まりこ)が 突然 叫んだ。
ところが 梓乃(しの)は 違う言葉を吐いた。「ゆ・ゆうや 悠矢でしょう?」
どうやら 湯気の向こうに同じものを見ながら 二人は違う人間だと 感じているらしい。

侃奈は フラフラと それに歩み寄る毬胡と梓乃の手を握り 大声で言った。
「駄目よ あれを見ちゃあダメよ ふたりとも」-催眠効果があるのよ-

二人は未だ虚ろな状態で異様なものに引き寄せられて歩きはじめた。
侃奈は二人を腕を掴み 後ろに引き込んだ。
神社から持ってきた 奉納の剣を構えて斬りつけたが、幾度も空をきってしまった。

「クウーッ ゲヒゲヒーッ」

ぬうっと 侃奈の前に 湯気から姿を現したのは 異様に眼も鼻も耳も溶けた顔のようなものが、髪を揺らしながら スーッと現れた。まるで水死人のようにふやけた状態で 顔の下には どこまでも長い首が くねっていたのである。近づきながら 口とおもわれる場所から 異臭を放つのである。

今度は 逆の方から 牛のような顔で 口が耳まで裂けた異様な醜いいきものが侃奈に襲いかかってきた。侃奈は剣を振りまわすと 身體をくねらせて巧みに引下がるのである。
 
「なんなの 怪物は 二匹もいるの?二人とも早く正気にかえってよぅ!」 

怪物は 身體を持上げると 紛れもなく あの神社の奉納絵や毬胡の父の描いた絵に似た異様な『夔(キ)』とよばれた牛鬼だったのである。ただ違ったのは、頭は牛の怪物で 足の部分は 蛇のように一つの胴で繋がれて 人間の顔状のものが、うごめいていたのである。どちらも頭がと顔がついているのである。 

梓乃と毬胡がやっとのことで正気にかえったのだが 『鬼/キ』の姿をまともにみると、気を失いそうになった‥。

(拾七へ)

『夔(キ)』
『双頭の神』

『夔(キ)』
「キ」

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【歩句】580 『イリナ』

【歩句】580

『イリナ』

「埜の唄は もろてひろげて 奏でたる」
「嫁ぎ唄 母つくりし 緋の衣」
「箏を弾く しなやかなりし 春の宮」
「馬頭琴 モンゴルの穹 声をのせ」


『IRINA』

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【歩句】578-579

【歩句】578-579

【579】『花見』
「花の下 かをり頬張る さくら餅」

【578】『公園』
「子ら走る 風たわむれし さくら舞う」
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【歩句】576-577

【歩句】576-577

【577】『満開』
「桃色や 貧をわすれし 四方の春」

【576】『窓景色』
「ちりゆくか いまがさかりと 桜花」
四月二十七日の仕事場から外をみる
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『神々の塒』 第拾五話 「九泉に蠢く」

『神々の塒(ねぐら)』 

第拾五話 「九泉(きゅうせん)に蠢く」


摩羅丑神 (まらうしのかみ)夔(キ)が祀られている荒鬼(あらき)神社の裏は、小高い丘のような岩山になっている。その岩山には奥の宮から通じる洞窟があり 岩山の内部が空洞になっていた。

禰宜(ねぎ)の山田の松明を追っていくと 突然、松明が消えて 悲鳴がした。

「どうしたの?」
「まって なにか蠢(うごめ)いている気配がするの」
「松明を何本もつけて 早く!」
毬胡はそのうちの一本を闇の中に投げ込んだ。
「もっと いろんな方向に なげこんでみて」
松明を数本投げ込むと ホールみたいな大部屋が映しだされたのである。

照らし出されたのは 闇の奥に、とてつもない広間が現れた。
その広間は 体育館のホールのような奇妙な大部屋で形は算盤(そろばん)の珠のような、上下に円錐の形をしていたのである。
「山田さんは きっと ここから滑りおちたのよ」
下方を覗くと、緩やかな摺り鉢のような構造で、段差がつづいている。
仄かに明るい中心部分は 霞がかって 硫黄の匂いがたち昇ってくる。

「余りにも広すぎる空間は?」
「凄い 古墳じゃないわね 九天と九泉かもしれないわ」
「どういう意味なの?」
「つまり ここが 黄泉の國の世界なのかもしれないの」
「そんなぁ 山の地底にこんなに広い空間があるなんて 信じられない」

苦しげな 唸り声が聞こえてきた。
「山田さーん 大丈夫ですかぁ」
「降りて助けなきゃあ まってて 私 行ってくるから」
「侃奈ちゃん!独りでいっちゃあ駄目よ 私も行くわ」
「梓乃も侃奈も 危険なのよ うーん しかたないわ 私も一緒にいっちゃう!」

緩やかな摺り鉢の坂を三人は手を取り合って降りていった。
「生温いわよ 暖かいわ」
「これは温泉よ、硫黄の臭いが強くなってきた、歩くのが辛いよ」

摺り鉢の底に辿り着くと温泉水が溜まっている状態でヌルヌルしている。ただ この底部は不思議なことに 薄明かりで湯気が漂っているのだ。円をかくように小さな祠が湯気の中から現れてくる。祠の前に松明(たいまつ)がさしてある。灯をうつすと 辺り一面がもっと明るくなった。

「えっ!」 -【角髪(みずら)につけし 湯津津間櫛(ゆつつなくし)なる櫛の端の歯を折りて 火をともしたる しかして覗きみいる】-毬胡の頭を言葉が 過(よ)ぎった。

光が揺らめいて鉢の底は異様さを かもしだしているて、祠の中には護符が納められてあり、金色の『封』の字が書かれてある。

-確かに 人が訪れているわ これらは道切りの呪(まじな)いだわ-

浅く溜った泉と硫黄の異様な刺激臭でむせる程で なかなか前に進む事ができないのだ。

周りには 骨が散らかっている。おそらく動物の骨であろうか、かなり古い骨だろうか 積み重なっている、黄色い骨の中には ところどころが黒くずんでいるのがわかる。
「どうして こんなに骨があるの?」
「生贄?」
「こわいわ‥」

黄色い靄(もや)のなかに ぼんやりと現れでたのは紛れもなく祭壇であった。
バシャリと 湯水を叩く音が二三度した。
「ヒッ!」
「なんなの?」

靄の中から 二つの眩い眼のようなものが 揺れながら三人を見つめていたのだ。

(拾六へ)

蠢くもの

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【歩句】575

【歩句】575

【575】『あめ』
「あめの日は 手まくらしてみる 呆けさくら」
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『オルティン・ドー』

『オルティン・ドー』

【●】モンゴルの伝統音楽の様式「オルティン・ドー」を聴きにいく。

中国・内モンゴル出身のボルジギン・イリナさんのコンサート
イリナさんもいいけど イリナちゃんがあいそうだ。
七歳から民族の歌と踊りを学び、大学では声楽を専攻した。
1995年に内モンゴル声楽コンクールで1位。
地区代表として出場した中国全国大会でも優勝。
2000年10月に宮城教育大に留学生として来仙。

四月二十三日(日) 塩釜市遊ホール  午後2時開演
「草原の調べ~モンゴルの音楽と踊り~」と題したコンサートがあった。
フィナーレで、イリナさんの「オルティン・ドー」と、中国の古筝(和琴のルーツ)、津軽三味線、和太鼓(地元あかり太鼓)のコラボレーション。
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【歩句】 574

【歩句】 574

【574】『辛夷の白』
「風騒ぐ はらはらはらと こぶしおつ」
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【●】『桜の影ゑ』【轍-わだち-】

【●】『桜の影ゑ』【轍-わだち-】


※春を拾い集める日々--過去のさくらうた
今年のさくらは今が見頃だね

【○】『さくら』
『春よ、桜よ うたいたる』

【○】『花びら』
「散りてなを 七北田川を 駆けし春」 
「散りてなを 桃色染めたる かわ筏」
「さくら津波の 巡りたる 風の彩」

【333】『愛宕下』
「敷きつめた 鴨がわけいる 花いかだ」

【332】『上米内』
「やわらぎて しだれ桜が 風しらす」

【331】『種畜牧場』
「雪のこし さくら吹雪きて いわて山」

【330】『伊達』
「鮮やかに 菜の花眩し 伊達のみち」

【329】『ふたり』
「さくらさく ふうふふたりで みあげてる」
昨日、塩竈を夫婦で歩きました。
「おとこ坂 息をきらして 花めでる」
満開の路…

【328】『メール』
「花見しよ 五月のサクラ 北メール」
友人から一日に高松の池で花見の連絡あり。
とにかくいいね!

【327】『ベンチ』
「ただ独り  桜吹雪の 缶ビール」

【298】『さくら さくら‥』
「北國の 蕾を愛でて はなの宴」

【297】『電報』
キキオヨブ
ヒトモホホエム
サクラサク

ワレイマダ
サキシサクラノ
スガタミズ

レンラクヲ
スグトラレタシ
ハナイズコ

トドケタシ
ユクエフメイノ
サクラバナ

【296】『はなうた』
「さくら花 あふれるごとく 句がとどく」
「さくら咲く 一夜のときが みつる花」
【さの字】
「さくら咲く さくら咲き さくら咲き乱れて さくら咲く さくら吹雪のさくら舞い」

【285】『さ・く・ら』
「さいた さいた さくらが さいた みなみの風が ささやいた」
「きいた きいた さくらが くると つむじの風が つぶやいた」
「くるよ くるよ さくらが くるよ ふんわり曇が ひとりごと」
「きたよ きたよ さくらが きたよ わたしも窓を あけてみる」

【284】『加減』
「やあ元気 ことしの春を 味見する」
「ぬくもりも 指の加減で 四月馬鹿」

【283】『腹八分』
「おかわりと 息子の声に 春をみる」

【282】『春荒れ』
「突風に 白髪まじりの 春あらし」
「雪あらし 節目にあわせ ひらけごま」

【○】『しのびる』
「あと少し、はるが地面をかけ走る」

【059】『北上』
「ラジヲから 桜前線 花に酔う」

【058】『戦(そよ)ぐ』 
「古城の 花咲きほこる 利府の郷」
「風戦ぐ 宮城野原は ざわめきし」

【057】『さくら』    
「はる曇り やま群青に古桜」
「田舎より 携帯に写し はな一輪」

【056】『何色』   
「賑やかに 花満開の さくら色」
「あちこちの 桜あつめて 独り酒」
「田舎から 咲いたよって メールくる」

【055】        
「自転車で ニッキの飴と 春の風」

【054】        
「桜咲く 四月の風に 背をおされ」 .

【053】        
「恥ずかしげ さくらプチプチ 二分の咲き」

【052】        
「さくら咲く 五十路をかぞえ あらたなる」
「はな曇り 見上げる桜 ほんのりと」

【051】        
「ただひろく 水彩ごとき 宙の青」
「友からの メールに託し 花便り」
「辛夷咲く 微(かす)かに彩づく 山の際」

【○】『はないかだ』 
はないかだ なる言葉がいいなぁ っと川面をみる。
過去を振返ると‥。

【050】    
「開花前  霙(みぞれ)まじりの  春の雨」
「霙(みぞれ)おつ  仄(ほのか)にしろし 春の曇」
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『神々の塒』 第拾四話 「黄泉の戸喫」  

『神々の塒(ねぐら)』 

第拾四話 「黄泉の戸喫(へぐい)」


毬胡・侃奈・梓乃の三人は 何かに憑かれたように緩やかな坂の洞窟を下っていった。
松明の灯りに三人の影が異様に揺れ三人の周辺だけがてらされている。

「人間の手で作られたにしては あまりにも異様な環境だわ」
「なんか 唸り声みたいなものが聴こえない?」
「ほんと 聴こえるわ 臭いだって だんだん強くなってきたし」

闇の先に 神話通りであれば 出逢うのは 醜女(しこめ)達や雷神達なのだろうか、どんな形で現れてくるのだろうか 九年前に父も この洞窟を訪れたのだろうか。
もう少し準備をしてから来るべきだった、わたし達だけで 冒険をするのはやはり無謀かもしれないと毬胡は不安になり、反省をし始めていた。

やがて 大きな広間がでた。天井は高く、硫黄の靄(もや)がかかっていて吐き気をもよおした。-帰ろう-っと 他の二人に言おうとした時、侃奈が 広間の傍らに誰かがうずくまっているを見つけた。

「禰宜(ねぎ)の山田さんじゃない!」
「何故 ここに倒れてるのぅ」梓乃も駆けつけた。
「血がでているわ 怪我で気を失っているみたいね」

禰宜(ねぎ)は宮司(ぐうじ)の下の役職であるが 普通の神社であれば神主がひとりで兼任しているのだが 荒鬼神社には 禰宜(ねぎ)の職があり 他に見習いの主典(しゅてん)と呼ばれる職務もある。
その禰宜(ねぎ)の山本が 洞窟の広間に横たわっていたのだ。

「山田さん 大丈夫ですか」
暫らくすると 唸るように喚くと 眼を醒ました。
「山田さん どうしたんですかぁ」
「ああっ き・君たちか、さ・佐々木さんと 宗像さんが 奥に連れていかれたまま 戻ってこないんだ」
「えっ 誰に連れていかれたのぉ」
「お・おにが・鬼がやって来たんだ」
「おにぃ?」
「ふたりをくわえて 奥に行ってしまった」
「‥‥!」
「山田さん 大丈夫?」
「すまないが 先に行かないといけないんだ このままでは村が‥」
「怪我をしてるのよ 」
「わかっているが 宮司さんと 助役さんがどうなったかみておかないと‥君たちは危険だからもどりなさい!」
フラフラと松明をかざして 洞窟の奥に向って歩きはじめた。

「わたし達は 戻りたいけど とりあえず彼の後を もう少しだけ追ってみるわ」
「いつでも 逃げる準備はしてるよ」


毬胡は 奥に松明(たいまつ)をかざしたが 闇が蠢くだけであった。ただ洞窟の両側に
御弊を纏った大埴輪がならんでいる。
「なんなの?」
「結界よ つまり これも塞の神と同じなのよ‥奥の邪悪なるものを防ぐためきっとおいたのよ」
地面に注連縄がバラバラに散らかっている。
「結界が破られたのよ」

埴輪の先には 八っの石塔があった。塔は奇妙な形だが毬胡は言った。
「これも、何かを封じ込めている入れ物だとおもうわ、黄泉の雷神とか」
「貼ってある紙を読んでみて」
「大雷・火雷・黒雷・折雷・若雷・土雷・鳴雷・伏雷でしょう、
全部、古事記の伊邪那美をとり囲む黄泉の雷神たちの名前よ」

「山梨岡神社の『夔(キ)』は 雷神と云われているの だから ここの摩羅丑神の『キ』も同じかもしれないの」
「なんなの 全部が神話の魔物たちなの?」
「そうよ!摩羅丑神祭りの顔を黒く塗った八人の醜男は雷神の化身を意味しているの。だから金の稲妻を描いているんだわ」

「上を見て 多数の星座と 中国風の女官が天上の壁に描かれている」
女官達の頭上には、たわわに実った葡萄の房と蔦が描かれていた。
「女官は黄泉の醜女(しこめ)達だわ、ますます… これはもう冗談ではないの!」

通路には古い劔が散らばり、銅鏡や矛が片隅にある。勾玉が松明の光に鈍く反射した。
侃奈は勾玉をひとつ拾おうとすると、
「駄目よ 落ちていた物をひろうと祟(たた)られるわよ 黄泉の國のなかでは『戸喫(へぐい/竃食?)』をすれば 二度と地上には戻ることはできなくなるわ」
毬胡は声を荒げて言った。
梓乃は思わず手を引っ込めた。梓乃の眼は二・三歩 先に落とした。
「あっこれは‥」 
「梓乃ちゃん 何かあったの?」
「あっ侃奈ちゃん ううん なにも‥」
その時 梓乃は自分が悠矢の誕生日に贈った時計がキラリと光った。
たいして高価な時計ではなかったが ふたりの想い出の時計であったのだ。
梓乃は 時計をしっかり握り締めて ポケットに仕舞いこんだ。
「やっぱりこの奥にいるのね」

(拾五へ)

『キ』

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ねこのすず

猫の鈴

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【●】96番目の箱である。でもまだ遊びたりないよっ!
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『わっ!』

『わっ!』

『わっ!』

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『神々の塒』 第拾参話 「黄泉の風」  

『神々の塒(ねぐら)』 
 
第拾参話 「黄泉(よみ)の風」


インカ石組みに紙一枚も入らぬ岩の壁があるが それでも、つなぎめは見た目にわかる。ところが 眼の前にあるのは一枚岩をくりぬいたような石棺のような部屋である。神社の奥に岩をくりぬいた洞窟があり小さな祠があるだけで行き止まりになっているのだ。
途中までは蛍光灯が引かれていたが 松明を壁にあててよくみると正面と左右に 手の形が彫られてあったのである。

毬胡はひとつの手形に 自分の両手を合わせてみた。手形は大きく 毬胡の手は納まってもかなりの余裕がある。

「うーん 手を入れて 合わないってことね」
梓乃も同じように入れて
「うんともすんとも いわないよ (おーぷんザセサミ!)エヘッ やっぱり 開けごま!かなぁ」
侃奈は思いついたようにポツリと言った。
「どこかにも スイッチらしきものはないわよ それに壁の前の足跡は手形の前で 揃っているの」
「じゃあ 三人一緒に 手形に両手を入れてみましょうか」

祠の前にある小穴に松明を置き、三人一緒に両手を入れてみた。
「なんか 手が熱いわよ」
「手を入れた手形が 手を包んでくるようだわ」
「なんか いやーな感覚よ 手がすいこまれ‥」


ゴッ‥と音がしたような気分だったが 実際には三人の前の壁が 一瞬にとり払われて三方の石壁が広がったのである。今まで八畳位だった部屋が二十畳もの部屋になったと思えばいいのである。
正面の岩だけは 通路のように下りの坂道になって どこまでも闇が続いている。


「う・嘘っ!動いた‥なんなのよ」
「そ・そんなぁ どんな仕掛になっているの?」
「天岩戸みたいに手力雄命(タヂカラオノミコト)が 力ずくで開けるのかと思っていたら‥なんか あっけなく開いちゃったみたいね」

「壁に照明用の松明(たいまつ)がさしてあるわ 火を点けておくわね」
「侃奈ちゃん インディジョーンズみたいな気分よ」
「みて お祓いの幣がいっぱい あちこちに落ちてるの」

「ねっどうするの」
「ここまできたら 行くしかないじゃん」

「ほら、洞窟の壁を観てよ 木がそのまま化石になって、枝を広げているの」
「こっちにも別の種類の蔦みたいな木の化石みたのがあるわ」
「どうして こんな処に化石があるの 不思議な木なのかしら」

「もしかすると 最初の木は桃?次が山葡萄かしら?」

「桃なら桃源郷への入口って事も考えられるけど この場合は魔よけかしら でも神話では‥」
古来より 魔よけや厄払いは桃弧(桃の弓と棘の矢)をもちい追儺(おにやらい)では鬼を射るのは桃の弓と葦矢なのである

「とにかく 幣、桃、蔦 なにか意味があるのよ」

「あっ痛い!」
「どうしたの?」
「地面にひかる物があるの これは、大きな水晶よ」
洞窟の床は大小の水晶が筍のように生えていた。
「うわーっ とても綺麗よ 松明の光を反射して 洞窟のシャンデリアみたい」
「‥‥」
「毬胡さん 黙っちゃってどうしたの?」

「なんか 古事記の世界が再現されているような気がして 不気味だわ」
「前に話してくれた 黄泉の國を逃げた伊邪那伎(イザナギ)のことね」
「どうして‥」
「私たちは 伊邪那伎(イザナギ)と逆に黄泉の國に向っているのかも‥」
「じゃあ 私達は黄泉に向ってるのぉ?」
「この神社の 奥の宮は 磐の穴だけど この荒鬼神社の後ろの山は 古墳かなにか人工的な山かも しれない」

岩の通路はわずかながら空気が動いている 下方へ向う闇がどこまでも続いているのだ。奥から硫黄の匂いがして かなり強くなってきた。
この風は黄泉の風なのかもしれないと 毬胡はかんじていた。

(拾四へ)

巫女がゆく

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【歩句】『伊達桜』570-573

【歩句】『伊達桜』
やっと 桜が咲きだし もうすぐ 仙台は花だらけとなります

【573】『ページ』
「春めくる 歳の頁は うすくなり」

【572】『あんたが…』
「ぼんやりと 花見提灯 ひかえめに」
「子ら走る さくら古木を すりぬけて」

【571】『独り酒』
「かたて酒 横目で睨む 桜かな」

【570】『ほほそめし』
「辿りつけば 桜さきし 二分ばかり
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『神々の塒』 第拾弐話 「磐の手形」 

『神々の塒(ねぐら)』 
 
第拾弐話 「磐の手形」 


毬胡は新聞切抜きをとりだした。それは東北新聞の文化欄にのった10年前の記事であった。

※日本の祭【奇祭の旅シリーズ】その七 「荒鬼神社 摩羅丑神」

東北地方、宮城県志造郡 荒吐村 荒鬼神社 摩羅丑神(別名、九年様祭り)
夏から秋にかけて、月による潮の干満により 二十三夜月から新月までの、五日間(中三日)におこなわれる奇祭。篝火が社を照らし、闇と光が織りなす古代からの神を迎える祭りを演出している。

醜男(しこお)と呼ばれる男達が ゆっくりとした動きで体を揺らし踊る忌踊り。丑踊りとも鬼踊りとも伝わる。その数は20~30名が寝食をともに、神社の境内に篭り、祭りの間にやってくる神をたたえて祀る祭りである。低音で唸って 山鳴りをおこすほど共振させるのは 神の言葉なのだろう。唸り声は社とその後ろの奥の宮と山を守るがごとく響き渡り 古代の産土神の現れを呪うものであろうか、神とよばれる鬼への畏怖のあらわれなのだろう。
氏子の彼等は祭りの間、顔に墨(炭)を塗り、踊りつづける醜男達は 三人の巫女が依坐となり 突然 狂ったように奇声をあげ踊りはじめる。彼等の一ヶ所に金泥で 雷のような模様を秘す。摩羅丑神があらわす 異様な古代の神の存在をしらしめる世界なのです。
ただ残念なことに 氏子以外の一般の方は 鳥居から入ることはできないので、古式にのっとり【あくや/帷/とばり】を設けて参列人を招きいれているが実際にはみる事ができない謎の祭りである。
信仰の対象である 鬼が『キ』と呼ばれていますが 同じような事例で山梨岡神社の『夔(キ)』をあげることができます。 同じ『夔(キ)』をさしているのか 今後 検討していかなければならない。【東京皇(すめら)大学 民族学教授 藤原一樹 記】

「これって 毬胡さんのお父さんが書いたの?」
「只者じゃないわね やっぱり」
「でも この後 あの図を残して 行方不明になったのよ」
「なんか ぞーっとするわよ」
「そして、晦(つごもり)の闇の夜 すべての闇の中 三人巫女が踊る 九泉の闇 心の闇が 扉をひらく 巫女が 闇の千引磐 あけにやってくる‥で父のメモは終っているの」

この解説以外に下書きがあり、九年様とも云うとあるけど それに九泉よりいずるとなっているのだ。九泉は九重の地の底のことで、『黄泉』『よみじ』『墓場』の事をあらわす。ちなみに逆は九天という。

「金泥の模様だって不思議よね まあ雷神のせいかもね」

「毬胡さん あの神社の奉納絵をみた?なんか おかしな図が描いてあるの」
「…ああ 不思議な奉納絵ね。あの鬼と又 違うようないきものよ」
「これって 巫女が弓と剣で 鬼と闘っているみたいな絵よね」

「祭りの最終日だし 今夜は思いっきり冒険しちゃうわ」
「これから、奥の院まで行ってみるわよ?梓乃ちゃん怖くない?」
「うん 毬胡さん 侃奈さん 私も絶対にいく 行くわよ!」
「そうね 愛は永遠、盲目っていうからね、乗りかかった舟だしぃ」
「しかたない 学問的にも興味あるし 梓乃ちゃんに付き合ってあげるかな」
「毬胡さん、ありがとうございます。ぐすん」
「アハハハハッ」「シーッ」

「準備しようと思ったら 懐中電灯はなかったの」
「簡単な松明も持っていった方がいいわね ライターと灯油を小さなペットボトルにつめてきたわ」
「準備いいね梓乃ちゃん さて出発よ!」
「よーし いまいくわよ」

篝火が社を照らすなかを三人は、社務所の瑞垣(みずがき)の脇を抜けていくと、醜男達が相変わらず、ゆっくりとした動きで唸りながら 体を揺らしている。
「なんかサスペンス劇場みたいね」
「ほんとにドキドキするわ」
「えっ、侃奈さん!なにをしてるの」
「なんか武器が必要かと思って‥よいしょ」
「だって、それ飾りの神剣 十拳劔(とづかのつるぎ)よ」
「いがいに軽いわよ ないよりましよ」
「凄い!じゃ私も この小さい弓でも持っていこう エヘヘ」

三人は、瑞垣にひそんで辺りを見渡した。
「毬胡さんは 何を持ってるの」
「出羽三山の羽黒山の聖水よ 聖(ひじり)につくってもらったのをガラス瓶にいれてるの」
「なんか ドラキュラの吸血鬼ハンターの気分よね」

神社は舞い舞台があり、社は磐穴に入りこんでいる。

「奥の宮に何かありそうね」
「東北地方の神社には良くあるタイプよね」
「なんか怖いけどここまで来たらいくしかないわ」
「だけど 私たち三人だけでいいのかしら」
「とにかく入ろうよ!」

社に入ると 蛍光灯が点いており 岩穴の奥まで長い通路が続き、蝙蝠の糞で散らかっていた。突き当たりは、八畳ばかりの広さで天井も高いが 行き止まりであった。
「もう先はなにもないわ」
「ちょっと 待って」
「なにか、あるわよ 松明を近づけて!」
「岩面に手形の彫られた岩壁があるわよ」
「…こっちにもあるわ」
「ここにも」
ごつごつした岩肌に 肩の高さに手の形が三箇所に彫られてあった。

(拾参へ)

巫女たち

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『うさぎ』

『うさぎ』

「やーい でぶっちょ うさぎぃ」
「フン 怒るぞ!」20060415165005.jpg

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『珈琲タイム』玖絽

『珈琲タイム』玖絽
『珈琲タイム』

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『神々の塒』 第拾壱話 「『夔(キ)』の図」  

『神々の塒(ねぐら)』 
 
第拾壱話 「『夔(キ)』の図」 
 

「毬胡さんのお父さんの研究していた この神社のことは他になにか 残っているの」
「そうね 図があるの これよ」

『夔(キ)』


「なあに これは 本当に牛の形状だけど 足が一本だけなの」
「これね、『夔(キ)』とよばれる奇獣(?)なのね」
「身體は蒼く 角がない 雷神・水神風でね山海経にも記載ありなの」
「もう一枚が これよ  父が描いたものらしいの」

父の描いた『キ-丑鬼-』


「なんか 不気味だけど マスコットみたい」
「本当に 可愛いといいんだけどね」
「毬胡さん 侃奈さん 悠矢を探すんで怪獣探しじぁないのよ」
「ウフッ 言うわネェ」
「しかたないわね 今から彼氏を一緒に探してあげよう ねっ侃奈ちゃん」
「愛は強し!!っかぁ いいなぁ」

「梓乃(しの)ちゃん 梓巫女(あずさみこ)って知ってる?」
「青森のイタコなら知ってるけどなぁ」
「昔々、梓の丸木弓を持って、弦をたたいて、霊の口寄せや神降ろしする、神がかりの巫女がいたのよ」
「‥毬胡さんは やっぱり物知りなんですね」
「家族なんかで梓乃ちゃんと同じ能力を持っている人はいたのかなぁ」
「よくわからない でも能力の事は調べてみたの。透視、精神感応力かな それからぁ 念力とか 瞬間移動なんかできたら凄いよね」
「毬胡さんの能力は予知、千里眼ともいうのかしら」
「だれでも 強弱はあるけど 不思議な能力は きっとあるものなのよ」
「でもね 梓乃ちゃん、あなたの不思議な能力は注意してつかいなさいね」
「そうよ 相手は心の中を一部分でも知られたら恐怖を感じるものなのよ」
「はーい」

【荒鬼神社の文】抜粋
魂を結びたまいや比礼ふり、まじこる(蠱/災にあう)は、巫女のまじもの(蠱物/法術)なりて、まじわざ(蠱業/まじない)に益荒神(ますらかみ)を鎮めたる。これ、まじない(呪う)たり。鬼神に祈ることなり。さるめ(猿女・援女)のよびてささくれば(はしゃげば)、さばえ(五月蠅)し神のごとくなり。こり(垢離 けがれ)やはらえ木偶に依坐となし。あづさ(梓)の巫女の梓弓の弦をたたかむ。

「侃奈(かんな)さんは出身は 岩手なんでしょう?」
「そうよ ここと同じ山の中だから 自然がいっぱいよ、バイト終ったら二人とも遊びにおいでよ」
「ぜひいきたいわ」
「姓は安倍よね 珍しいもの」
「そうよ 安倍の清明と同じ苗字よ」
「そういえば 岩手の安倍って 貞任って歴史でならわなかった?」
「はい 毬胡さんさすがぁ 私の一族は家系は貞任までも遡るわよ」
「えぇーっ」

「だって家の社務所に 家系図が飾ってあるもの」
「侃奈の家って神社なの?」
「そうなの 安倍乃神社よ 言わなかったかなぁ」
「じゃあ巫女は本職じゃないのぅ」
「学生だから 家に帰るとたまにはね」

「本当に 特殊な能力があるんじゃないの?」
「前にも言ったけど 物をみつけたり カンがいいだけで些細な事ばかりよ!」

「そういえばあっ あった!」
「なによ」
「フフフッ実は剣道三段なの 凄いって言って!」
「それだけぇ」

「『かんなき』って言葉を知ってるう?巫子の事なのよ」
「そうか、名前は祖母がつけたのよ」
「フーン‥」

「とにかく これから神社の奥まで行ってみようよ!」
晦(つごもり)の闇が どこまでもひろがっていた。

(拾弐へ)
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『戦国外伝 馬借異聞』

『戦国外伝 馬借異聞』 佐々木慧氏の作品 

コミック乱ツインズ5月号(必殺 梅安の表紙)に佐々木慧の『戦国外伝 馬借異聞』が掲載されました。馬借シリーズ第二弾の読切作品なのです。
以前の作品『飛礫のヌルデ』『百姓刀』『JAPANESE RIDERS』『戦国外伝 家船のモズク』と歴史の中で虐げられた人々に焦点を絞り込み 物語を描き続けている漫画家ですね。今回の 『戦国外伝 馬借異聞』は 『JAPANESE RIDERS』に登場した馬借頭のジュンガが再登場である。

「戦国外伝 馬借異聞」
馬借異聞 佐々木慧


「いつでもいっしょ」
慧①


「クロース゜株式投資」
佐々木慧の本


「株トレード」「」「」
慧 漫画


「会社の真相」
慧④





☆彡
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『神々の塒』 第拾話 「鬼乃字」 

『神々の塒(ねぐら)』 
 
第拾話 「鬼(き)乃字」 


「ねえ きいてくれるぅ、一瞬の映像のなかなんだけどぉ‥」

梓乃(しの)の話では、この村では九年毎に ひとりの養子縁組が行われているというのだ。九歳になると お食いはじめという儀式をして 神饌を食すらしいのだ。そして十八歳になると依坐(よりまし)として神のもとにさし出されるというのだ。
祭儀は 神が新しき衣になるということ、犠(いけにえ)の儀式は巫女の三人が 神と共に九泉に住むことになるらしいのだ。

「九年ひと巡りで 何かの儀式をして、ふた巡りには神に供物として神に添えられるってことは 悠矢くんは帰ってこないのかしら」
「いまどき そんな事があるなんて ねぇ毬胡(まりこ)さん 他でもそうなのぉ」

「それから 巫女の三人って 私達のことよね」

悠矢の養父は宗像村長である。彼はこの神社の どこかに幽閉されて、得体のしれない神の供物で、悠矢は身體に異状をきたし 膨れ、四肢も異常に変化したと浮んだのである。悠矢は抜け出して宿舎の梓乃に逢いにきたというのだ。

「神社の神は摩羅丑神というのだけど、図があるらしいのです」
「それに 荒鬼神社の【鬼】の字も 【き】だけど 以前までは違う【キ(※①)】と書いてあったらしの」
「不思議な牛形の神なのだそうよ」
「【摩羅(まら)】は金勢さまの事で 【キ】は 一体なんなの?」 
「こんな字なんだけど 知ってるかしら」

【キ(※①)】「鬼乃字」
20060413235045.jpg

ここで毬胡は改めて二人に言った。
「前に言った 行方不明の民族学教授は 実は私の父なのよ」
「えっ じゃあ」
「そうなの この神社の産土の神は父の研究対象だったの」
「そうだったの」
「私の頭に現れる声は きっと父なのかもしれないわ」
「毬胡さん その通りだとおもうわよ」
侃奈は毅然と言った。

「そう言えば神社の軒の周りに奇妙な奉納絵がたくさんあったのよ」
「じゃ 今夜はちょと探検してみるかぁ」梓乃は気軽に言い放った。

(拾壱へ)

三人の巫女

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九六綺譚『天国と地獄』

九六綺譚『天国と地獄』

【①】

六月の晴れた日曜日、青空にふっくらした雲が浮かんでいる。
心地よい風がカーテンを僅に押しあげて、
妻は鼻唄交じりで洗濯物をたたみ、アイロンを脇においた。
私は煙草をふかしながら、新聞に眼をやる。
「あなた…」
妻の一言でおもわず煙草を押し消しながら
「なんだい?」っと答えた。

「今のテレビのニュースを聴いたぁ。なんかへんな事を言ってるのよ」
「どんな事だい?」
「あのねぇ、今週の地獄に落ちた方の人数がどうとか…」
「なんだってぇ」
「地獄に行ったって言ってるのよ」
「ふーん、じゃ天国の事も言ってないかな」
「ほら、新聞の題の下になんか書いてるわよ」
「うん、この街の、昨日の天国行きは、0人で地獄行きは7人だって」
「なんかの冗談よね」
「昨日の新聞を持ってこいよ」
「あなた、在るわよ、えっ!天国が二人って…」
「なんか気持ち悪いよなぁ」
「そう言えば昨日 隣の産院で、早産の赤ちゃんが
二人も亡くなったて言ってたわ」
「じゃ一昨日のあの自殺は地獄行きなのか!」
「誰が決めて新聞に載せているんだろう」
「いやだわぁ」

【②】

バタバタと妻がどかに携帯電話をかけはじめた。
「天国に行く資格は、条件はなんなのよ」
『…』
「キリスト教なの、仏教、それともイスラム教?なんなの教えなさいよ」
『…』
「おい、どこにかけているんだ?」
「エッ どこって新聞に書いてある お問い合わせ番号よ」
「でっなんて相手は言ってるんだ」
「死んだら判るって…それに、神に祈れって…」
「祈れって言ってもなぁ我々は結婚は教会だし、
親戚が死んだ時は曹洞宗だからなぁ」
「正月行事などは神式だし、
道教や儒教だって生活にとりいれているってテレビでみた事あるわ」
「おまえも 知識があるじゃん」
「今頃気付いたのぉ やだわぁ」
「祈るだけ、信じろ疑うな報酬を求めるな、自己をみつめろ」
「厳しい生活をしないと天国にはいけないのかしら」
「あれっ この記事をごらん、裏口があるらしいよ」
「なによ天国もお金次第なの」
「ランクがあるんだね」

【③】

「最低額は一人三千万円から地獄経由 天国行きだってさぁ」
「ふうっため息がでちゃうわ」
「一万円から体験ツアーができるそうだ、まるで住宅展示場巡りみたいだな」
「ますます眉唾みたいな話よね」
「でも何でもかんでも銭だなんて、まるで諺みたいだよ」
「地獄のさたも金次第ってやつね」
「うん、その内宝くじの特等当選が天国の椅子にご招待、行ったきり旅行だ」
「でも奇妙よね、この新聞記事はこの街の地方版だけよね」
「一部の特定地域の表示なんだろう」

「俺たちってどうしてこの街に住む事になったんだっけ」
「やだぁ貴方の会社が、この駅前だからよ」
「ああ、そうか」
「会社でこんな話はしないの?」
「こんな馬鹿げた話、誰もしないよ」

「ところで、やっぱりおかしいわぁ 思い出したわ、
 駅でみたけど隣町の名前は『あまのくに』手前が『つちのひとや』って
 漢字で書くと『天乃国と地乃獄』って書くのよ」
「こじつけじゃないのか」
「この町の名前は『亜野誉-あのほまれ-』って…あの世のことなの?」

「天国ならHEAVEN、地獄ならHELLなんでしょう」
「簡単に考えてごらん サッカーで日本が得点を入れたら天国気分だろう」
「そうよ もう最高よ」
「じゃあいては点を取られて 負けたら地獄だろう」
「ははあ 大体わかってきたわ」
「きっと 世の中そんなもんだよ」
「私達が天国なら どこかで不幸な地獄にいる人が いる訳ね」

「だけど こうも考えられる 人は原罪を背負い努力が必要だという事、
全員の幸せな天国へは 平等に行く権利があるってね」
「フウーン」
「それに 元々天国にいて 罪を重ねて地獄へ行くんだって事もある」
「難しいわよ」

「でも 日曜日の朝に こうやって君といて おかしな会話をしているのが 
最高の天国なのかもしれないね」
「思い出したわ、私たち、結婚を反対されたのよね 二人で この街に駆け落ちしたのよね」
「そうだよ、幸せを求めてね」
「だから 天国みたいな時間と場所だって訳だよね」
「うん幸せだわよ」

「だから、天国なんてものは どこでもあるものなんだ 隣街のようにね」
「そうね‥地獄もね」
「‥‥‥。」

(了)

『使者はやってくる』

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【●】『釧路恋唄十二景』

【●】『釧路恋唄十二景』風路

「海猫(ねこ)の鳴く 幣舞橋(ぬさまいばし)に 弧を描き」
「湿原に よりそいしつる 陽が翳る」
「陽をうけて こえあげし鶴 雪の舞い」
「鶴が舞う 羽根を広げて かろやかに」
「片足で 凍る雪野に 鶴がたつ」
「柳葉魚の 簾(すだれ)に飾る 路地の裏」
「おひょう釣 武勇を語る 酒炉端」
「地を這いし 全てを夢に 海霧の街」
「風花の 北の街角  舞いちらす」
「かぜが這い 声も凍るか 大楽毛」
「訪ぬれば 知人の浜は 海霧(ガス)けむる」
「河のぼる 燻しの色に シャケ群れる」
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『神々の塒』 第九話 「三人の魔女」

『神々の塒(ねぐら)』 
 
第九話 「三人の魔女」 

梓乃(しの)は ふたりに抱かれていた、
「毬胡(まり)さん、侃奈(かんな)さん、きっと この神社は呪われているのよ」
「たしかに おかしいわ だって 祭りの観光客なんてほんの一握りなのよ」
「そう これは外部に見せる祭りじゃないのよ 村の鎮守の儀式だわ」

祭りとはいえ 派手な出店などはなく これだけの格式ある神社にしては 控えめな奉納儀式である。総てに意味があるらしいのだが、あえて誰も口に出して説明しようとはしないのである。過去からの御作法(シキタリ)にのっとり 式次第通りに行われているのである。

「悠矢(ゆうや)が私に逢いにきたのよ ねっお願い 悠矢を探すのを手伝って!」
「でも一筋縄にはいきそうにないわよ 不安な未来がみえるの」っと毬胡が言う。
「毬胡さん すごいわ 本当に未来がわかるなんて」
「前にも言ったけど 確信のもてる映像はないのよ でも今まで結構当っているのよ」

「侃奈(かんな)ちゃんも お願い私を助けて!」
「梓乃(しの)ちゃん 私と毬胡さんを このバイトに参加させたのは あなたでしょう」
「どういうことなの?侃奈ちゃん、梓乃ちゃん」
「ごめん ばれちゃったみたい」
「梓乃ちゃんは バイトの応募者の選考員に 彼女の特殊な力で 私達を選ぶようにしたでしょう」
「そんなこと可能なの 梓乃ちゃん?」
「‥‥。」
梓乃は無言のまま コクリと頷いた。
「‥でも ただお願いしただけなのよ 信じて」

梓乃の能力は、触ると相手の考えている事がやや判る観能力と 思念を送り 相手の思考を多少 変えることができるのだ。ただ、常時できるわけではなく 能力に斑(むら)があるということらしい。

「梓乃ちゃんの独り言は 私には全部聞こえていたのよ」
侃奈は静かに答えた。
「侃奈さん やっぱりあなたって 本当の能力者なのかもしれないわね」
「わたしは 自分でも よくわからないの」
侃奈は不安げに言った。

「私が、毬胡さんの手に触って 予知能力のある方で大学の助教授をしているって 直ぐにわかったの」
「ふーん」
「でも侃奈さんは なんの感応がないほど強い念防御で 何も映らないのよ」

「ふたりとも すごのね 私なんか民族学に利用できればいいと思っていたのに まさか梓乃ちゃんに逆に選ばれていたなんて‥」
「ご免ね 私ひとりでは この神社の大きな得体の知れないものに対抗できなかったの」 
「とにかく 悠矢くんをさがさないとね」
「毬胡さん、侃奈さん ありがとう」

「ああ まるで 私達は巫女より 三人の魔女みたいね ビール呑んで一緒に寝ようよ」
「明日に 乾杯!」


三日目の朝、祭りの仕事の合間に 梓乃はある計画を実行した。遠くから、佐々木宮司が 安東助役とともに 村長宗像を案内してきた。相変わらず 佐々木宮司の馬鹿笑いが社務所に聞こえてきた。宮司等 三人は巫女役の私達を 舐(な)めるようにみていたが、視線あうと いかにも懐の深そうな顔に替えて 薄ら笑いをうかべた。

「きたわよ とにかく 握手のタッチね」
「ファイト 梓乃っ」
毬胡は奉納舞いの準備をしながら言った。

「おおう!可愛いい巫様じゃ、がはがははははっ」
っと宗像村長は 大声で笑いながら梓乃のちっちゃくて可愛いお尻に触った。
「きゃあ! 何をするんですかぁ」
「アハッ ごめん!ガハハ 手が当っただけだよ」

その時、梓乃は村長の手を払いながら 触ったが 思考の大半はいやらしい下劣なものだった。ただ 梓乃は逆毛がたち 気が遠くなるところだった。

-なんなの そんな?!悠矢は‥私達は‥-

(拾へ)

少女の夢

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『四っ目衆必殺!裏稼業』異聞

【物語設定の仕掛考】
『四っ目衆必殺!裏稼業』異聞

このような話があったら 面白いと‥。

【い】乃字

『楽々亭の幕引き』

さぁておたちあい。そこ行く兄さん寄っといで、小股の切れた姉さんもよろしかったら聴いといで‥。わたくし、講釈師の楽々亭と申しあげます。今後とも御贔屓にお願い奉ります。

講釈師は傲然(ごうぜん)な男がなりますな。何事も自分の考えを押しつけますな、おっと 私めだけだと言っておきませんと お叱りをうけましょうな。世には奇なることのみ多かりき‥。
暇をもてあましては、試案床。床だってぇ 五年ねかせりゃあ 黴(かび)もはえますなぁ。湿気、腫物、噂の話‥今回はていとぉ‥申しますと。
『四っ目衆必殺!裏稼業』てぇとこでしてなっ、なんてぇこった 設定をかって気侭に吹聴して み舛 (ます/舛は□に斜め棒)‥と。

アチキは必殺シリーズが大好きござんしてぇ 全部観てるかぁてぇと 刻の都合もありまして見逃しているのが大部分でアリンス。(吉原アリンス言葉じぁござんせんか)
シリーズ設定は先刻 承知の介でござんしてなぁ、梅安さんのピンから、中村主水さんのキリまで 楽しませて頂いておりやす。
四っ目屋なんてぇ商売は 元来 陰の商売 否 裏稼業でござんしてぇなぁ、表立ってする商売じゃござんせんなぁ。
まがいの薬から下の張りモノまでぇ おっとぉ言っちゃあいけねぇよ。四つ目の紋は伊達じゃあない、紀州の殿様 立ちしょんべんってぇくらあ。大江戸(穢土)八百八町の闇の奥‥まずは聴いておくんなましぃー。

【ろ】乃字

『四っ目衆裏稼業 口上』

チョーーーーン  
とざい  とぉーざい 
チョン チョン チョーーン

うつし世の
ひとの醜き
鬼の業
欲の絶えるはなし
恨みつらみの
ことなれど
仕置たまえや
四ッ目衆
三途の川の橋渡し
狂い奪衣婆
謡いたる
忌銭、悪銭、泡銭、
舞えや、踊れや、
欲の銭、
さては仕置の刻限じゃ
刻限じゃ
各々方

【は】乃字

『四っ目衆裏稼業 御紹介』

江戸には四ッ目衆という輩(やから)がおりましてな、
八百八町界隈 どこかで噂をお聞きになった事がござやしょう。

彼等(きゃつら)は、赤の斑蛇、青の蜘蛛辰、白の黄泉寅、 黒の毒甕。
なんと 衣装半纏 全てを揃いまして の仕置衆。

赤の斑蛇はふたつ名を朱雀と申しましてな、うなぎ屋を商っておりあす。
やさ男でしてな おなごがひっきりなしに通います。ほんまに惚れ惚れするいい男。
二挺短刀(どす)を巧みに操りますんでございます。短刀(どす)は鎖でつながれてぇ、ヌンチャクごときものなりーっ。

青の蜘蛛辰はと申しますとな、風呂屋でございましてな
世の垢すり 人の噂を壁一枚で 聴きまする。早い話が情報屋ですなぁ。
おとこ気の龍と申しましててな 特技の縄と網の術は見事でございますんで。
締め上げる縄術は 地獄極楽の責苦とか‥。

さて 三番目は白の黄泉寅と申して 坊主でございます。まぁ破壊僧であんす。
南無阿弥陀仏、なんと不思議な独鈷を使いますなぁ。とにかく色坊主でございましてな
艶街に 住んでおりましてなぁ そらぁ 精力絶倫と噂じゃ聞いておりやす。

そして最後(どんじり)の黒の毒甕は おなごでございますなぁ。
鳥兜、河豚毒、ありとあらゆる毒を いかようにも使いわけまする。
そりゃあ えろう別嬪でしてなぁ しかし そこはおなご、化粧の達人でござい。
化けたる顔は 数えちゃいねぇという 変幻自在の姉さまじゃーっ。

あとひとり 北斗の元締とか言われておりやすが これは内緒でしてな
よう判らんのです。易学や風水術にたけたお方らしく 
星神の黄金御霊符をとばしましてな
風砲筒なるものを操りますらしく ふたつ名を 七つ星の旦那とか‥。


【に】乃字

『四っ目衆裏稼業 仕事引き受け舛 (舛は□に斜め棒)』
江戸の北東に、鬼門目安箱なるものあり。眼が四つの絵がありましてなっ
願いたまえや 四ッ目衆てな具合に 絵馬に訳を書きまして入れて置きますと
四っ日後にやってまいりあす
御代は仕事の後で よござあんす ってな事はありません。


今回はこんなところでいかがざんしょうねぇ‥。ヘイ、楽々亭でござぁんした。


操木偶

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『神々の塒』 第八話 「闇の来訪者」

『神々の塒(ねぐら)』

第八話 「闇の来訪者」


バイトの内容は思ったより楽なものであったが、梓乃は仕事に慣れていないので疲れきっていた。
「侃奈(かんな)ちゃん ビールにしよう ビールぅ」
「梓乃ちゃん 昨日も呑んだんでしょう 又飲むのぉ」
「だってぇ 呑むと朝までぐっすりなんだものぉ」
「独りで呑んでいなさい 私達は風呂に行ってくるわ 鍵はかけておいてね」
「ハーイ、私は後からはいるわぁ」
「あれれっ梓乃(しの)ちゃん 二十歳過ぎてたっけ? まぁいいかぁ」

祭二日目の夜‥夜空には、いまにも消えそうな二十六夜を過ぎた三日月が弓のようにうかんでいる。
相変わらず 顔面黒塗った醜男達がゆっくりと 身體を揺すりながら、謡い続けているのが振動とともに響いてくる。明日は晦(つごもり/晦日)の闇月である。暗黒の闇夜を迎えることになるのだ。

夜は更けて、毬胡と侃奈は温泉に行ったので 梓乃は缶ビールを呑みながら部屋に独りになった。腹ばいになって 部屋にあった古い週刊誌をパラパラとめくっていたが なにげなく 窓の方に眼をやった。

突然、窓の外を奇妙な音と影がすぎていった。 
ガサッ ズルッr ズサーッ ずるる ずる
「えっ なんなの」
敏感に感じとった 梓乃(しの)は最初、逃げようと思ったが 恐る々窓ガラスに近づいた。
「なんだろう今のは 痴漢かしらぁ?私って魅力あるもんねぇ」

「‥‥!」
辺りを見わたして、ふと上をみた。
窓の外に 眼を瞑(つぶ)った男の顔が、逆さにうかんだ。
「きゃあーーっ」
思わず大声をあげて 口を自分で押えた。

「えっ!その顔は 悠矢(ゆうや)なのぅ!やっぱり悠矢ぁ 逢いたかったわ 心配したのよ」
梓乃(しの)は窓の外にうかんだ顔が 恋人だつた悠矢だと判ったが、その顔は以前より丸々と大きく歪んでいるいたのである。

「よぅるぅなぁぁぁ!しぃのぉぉ  くぅるぅなぁぁぁ かぇえれぇぇ‥」
声は醜男達と同じような 低音でガラスがびりびりと振動をくりかえしたのだ。

「だってぇ、梓乃は悠矢を探して ここに来たんだよ」
もう梓乃は涙声になっていた。

ずるずるる…ざっざっ‥‥ずるる ずる‥
二階の屋根から身體を擦る音がして 遠ざかっていく。

「どこにいくのぉ 悠矢ぁ!何故なの? その姿をみせてよぉ」
「‥しぃのぉぉぉぉ‥‥」

窓を開けて身をのりだしたが 姿はなく、気配だけが 宿舎の裏の岩場の方に 風ともに闇のなかに消えていった。


「どうして 行ってしまうの」
梓乃(しの)は、気が遠くなり倒れかけた。風呂から帰った侃奈(かんな)は窓際に倒れている梓乃をみつけてかけよった。
「どうしたの梓乃! 毬胡(まりこ)さん 水をお願い」
気をとりもどした梓は涙をぽろぽろと落としながら語った。
「悠矢が窓からやってきたのよ 本当よ」
「梓乃 ここの宿舎は二階よ 窓からどうやって これるの?」
「本当だってば 悠矢は きっとなんか言いにきたのよ」

窓を開けて上の付近を触ると 腐った硫黄の臭いとドロリとした液体が纏わりついてきた。
その時、毬胡(まりこ)はきっぱりと言った。
「ここの神は、魔物なの  きっと鬼だとおもうわ」
「エッ!」
夜は三人を 闇に包んでいった。

(九へ)
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【歩句】 566-569

【歩句】 566-569

【569】『桜の樹』
「いちどきに よろこばせんと 樹々染まる」
「春さきし 桜のいろの かわりめに‥ きみおもいつつ 日々たのしまん」

「初桜」「桜便り」「桜前線」「彼岸桜」「枝垂桜」「糸桜」
「山桜」「芝桜」「朝桜」「夕桜」「宵桜」「夜桜」「八重桜」
「遅桜」「桜吹雪」「桜狩」「寒桜」‥

「大山桜、霞桜、大島桜、豆桜、江戸彼岸、丁字桜、深山桜、峰桜」

桜は 「さ」は穀霊を表す古語なんだそうで、「くら」は神霊が鎮座する場所を意味するらしい、「さ+くら」で、穀霊の集まる依代(よりしろ)を表すという説があると聞いた事があります。


【568】『雨桜』
「かすみ雨 桜ぼかして めをこらす」

【567】『桜(はな)』
「このはなの さくやめでるか ひとり酒」
「はなやはな はなにうもれし はなめでる」
「早くこい 来ないと独り 飲んじゃうぞ」

【566】『桜々』
春娘から、田舎は雪がふってるよってメールある。
まだふるのかな 春待ち娘は困惑しております。
仙台はやはり寒いが、もう直 桜が咲きそうです。

「待てども咲かぬ花なれど みつめて紅く 頬そめて うなだれし刻を待つもよし」
字あまり‥
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『神々の塒』 第七話 「塞の神」

『神々の塒(ねぐら)』

第七話 「塞(サイ)の神」


宿舎は最近建設されたばかりの二階建ての真新しいクアハウスであった。
おそらく温泉をメインにした村おこしの一環なのだろう。そしてこの奇異な風習を持つ神社の祭りを宣伝する為に 九年祭に併せて急ピッチで施工されたのだろう。真新しい匂いが各所からするのだ。現在は道路を建設中であるらしい。

「部屋は別々なのね」
「はぁーつかれたよ」
「ちょっと 確認しておきたいの ちょっと座って 二人とも」

「ふたりとも 神道(しんとう)について 何も知らないんでしょう?」
「うーん 毬胡(まりこ)さん 結婚式は神式だよね?私は教会がいいんけどなぁ(笑)」
「梓乃ちゃんらしいね ほらほら 大晦日の【鬼遺(おにやらい)・追儺(ついな)】や節分の豆撒きなんかも神社系よね」
侃奈もそんなに詳しい程ではないが毬胡の話を聞きながら幼い頃を思い出していた。

「そうね、まぁ 神式による民間の結婚式は 明治後期に日比谷大神宮で、某男爵の媒酌による神前結婚式が行われて以来、一般にも神前婚がひろまったのよ」
「すると一般には そんなに古い神前結婚式はないのね」
「日本って いろんな物がごちゃ混ぜなのよね」
「そうなの 葬儀は現在はごちゃごちゃよね 神道(しんとう)の忌中、忌引、喪中があるでしょう」
「ふーん」

「神道(しんとう)の 不浄というものの考えかたなの 邪悪や疫病や死を恐れて忌み嫌い、それらから身を守るってことよ」
「つまり、死者が祟(たた)るっていうことなの?」
「ある期間かもね、不浄には二種類あるの、ひとつは【赤不浄】と言うもので『血』を忌み嫌うよ 女性の月の忌みも不浄といわれたの。もうひとつは、『死』の【黒不浄】と言われるものなの」

「不浄から逃れるために隔離したり 線引きをしたのね」
「そうなの、その線が【結界】なのね」

「鬼の扱いも 古い中国では死者の霊であって祟(たた)る存在なのよ 赤鬼や青鬼は仏教思想の羅刹や夜叉の考え方が加わった以降なの」
「ここの神社は荒鬼神社って 鬼を鎮めるための神社でしょう」
「そうなんだけど、前から ここの神社に目をつけて 研究していた教授がいたの。その方の考え方は、ここの【鬼】は 普通の【鬼】じゃないって言ってたのよ」
「じゃあ なんなの ここに祀られている神様みたいな【鬼】は?」

「実は‥、その教授は九年前にこの神社を訪ねてきたらしの」
「それで どうなったのぉ」
「行方不明で 未だに 見つからないの」
「怖ーいわよ 毬胡さん おどかしてだめよ」

まず【塞の神(※①)】の事も教えておくわね。
「塞の神って‥」
「まずは 日本神話の黄泉枚(平)坂の事は‥」
「よもつひらさか?」
「知らないかぁ 社会や歴史は勉強していないのかなぁ」

「奥さんの伊邪那美(イザナミ)が亡くなって 毎日泣く暮れていた夫の伊邪那伎(イザナギ)が、彼女にもう一度 逢いたくて、黄泉の国(根の國)に行くの。ところが、彼女と出会い連れて帰ろうと思ったけど、黄泉の王にお願いしてみるので 夫に待ってるように 言ったが待ちきれない伊邪那伎(イザナギ)は妻の後を追って次の部屋にいった。すると伊邪那美(イザナミ)の体は腐りはてて蛆まみれて恐ろしいものに変わり果てていた。恐怖を感じて逃げだした夫に、妻は面子を潰され 裏切られたと逆上して 醜女や八雷神に追えと命令して、追跡させるのよ。いろいろな物を捨てて 黄泉平坂(よもつひらさか)までなんとか逃げてきて 岩を閉じた。それでやっと逃れる事ができたのよ。その岩が【さえ(塞)の神】なの、逃れる為 路をふさいだ岩なのよ」

「ふーう 頭が蒟蒻(こんにゃく)になりそう」
「なんか 本当に歴史の授業を受けているかんじね(汗っ)」
「今はもう止めよう 後でまた続きを放すわ 早くご飯にして 温泉に皆ではいろうよ」
「賛成よ うわーっ 侃奈ちゃん すごいバストねぇ」
「うーん もう!」

夜になって 毬胡は侃奈と梓乃に言った。
「何故 私がこんな話をするのか 不思議でしょうけど、聞いておいてね。そうしろって 頭の中で誰かが言ってるのよ お願い 予感がするのよ」

「梓乃ちゃん あれっもう寝ているのぅ」

(八へ)
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