九六の匣

さまざま詰めこんだ匣

『はーどぼいるどな夜』

『はーどぼいるどな夜』玖絽

『ハードボイルドの卵を 殻をむいたのか 或は 絶対に掻き混ぜるな!』

子供時代から 父親の書斎で色々な物をかいまみてきた。
父親は工学系で土木屋でありましたが、アマの文学青年だった。
小説や俳句・詩・絵を好み、
部屋には、種々様々の 面白げな 雑誌や本が存在していた。
月刊誌宝石、少年倶楽部 世界の脅威・不思議シリーズ、
訳本エラリー・クィーン、マンハント、文学小説からなどなど
俺は ベッド(布団)の中に雑誌を持ち込み、懐中電灯で隠れて見ていたひとりだ。
こうして、いやがおうにも ハードボイルドに はまっていった。

シガーのヤニと男臭さがまんえんして、ショットグラスと鉛弾が飛び交う エロチックなサロン。
そんな中で、どこまでも女は 艶っぽく しなだれかかり、思わせぶりな 熱い吐息が 俺をくすぐる。
はちきれんばかりの豊満な肢体と、可愛い口で 狂わんばかりに 悩ませるのだ。
そうなると 男は不死身のヒーローとなれたのだから…。クール。

今夜もバーボンで酔いしれて、どぶ板通りに頭からつんのめって 気を失なっているいるだろう。
しかし、ベルトに差しこんだ リボルバーがやけに腹を冷やしてくれるじゃねぇか。
ゆるりと起きあがる。泥も払わずに 髪をバックにキメル。
男は自分に呟くのが好きなナルシスト、
暴力がうずまき 支配するセックスアンドシティ、
あぶれた紳士淑女の塵匣(ゴミタメ)、柔なやつは生き残れない。

そんな街、シン・シティ(罪の街)の映画をみた。
なんか 今夜はハードな男に酔いそうだ。
「正義、悪人 くそったれぇだぜ」
「ヘッ 食えねえ奴だぜ おめぇは‥」
【96】
「シンシティ」を観た夜に記す‥

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九六綺譚『emo -えも-』

九六綺譚『emo -えも-』 

 最近は体調をくずして 検診でドクターストップがかかっていたが
上京してきた 後輩がどうしても会いたいと 電話を入れてきた。
適当に二 三杯呑んで昔話などをして さらりと別れようと思っていたが、
話に弾んで夜中にになった。
 とにかく 面白い奴で 最近東南アジアに会社仲間で 出かけた失敗談などを
てにとるように聴かせてくれたのだった。そして 土産だといって可愛いリボンの
ついた蒼い小ビンを手渡された。

「えっ これは?」
「宮沢先輩っ 向こうで老婆に売りつけられたんだけど 秘薬だってことですよ」
「ほう 秘薬っか」
書いてある文字をよもうと 眼鏡を取り出しかけたが 
「向こうは 俺たち日本人をみると バクシーシって子供が集って大変でしたよ 」
後輩の矢継ぎ早の攻勢に 眼鏡を服におしこんだ。

そう 私にも学生時代に一度だけ行った 異国の町で、小銭を求める物乞いたちが
群がられ バクシーシ と騒がれた。
はたまた、チップを求める運転手が、そう言いながら手のひらをつきだしてきたのだ。
迫られて路地に入った。 
そして 路の奥まったところに 座り込んだ老婆に呼びとめられた事を思い出した。
そのときに 私もたしかこれと同じ蒼いビンらしきものを 友人三人で買ったのだ。

 いつのまにか 私の横に痩せこけた若者が座っていた。
後輩と話しに夢中になっていた私は その後輩に言われるまで 気配をまったく 
かんじていなかった。ちょっと寒気がしたが 気にもしなかったのだ。

「今回 ツアーに一緒に来た 会社の若い者ですよ」
隣り同士で挨拶をするのは 狭く首を傾いで顔を見合わせて 息を呑んだ。

「emoっ!!」
言葉にはならない 声で 自分の口を押さえた。 

その男は 恥ずかしげに 俯(うつむ)きながら いかにも はにかんだ彼の言葉は
「‥‥です」
としか 聞こえなかった。
「えっ いまなんと言ったんだ」
次の 言葉が出てこない 思考能力が停止したのか‥
 
なんでここにいるのか 理解できないのだ
「お おまえ 確か‥し・死ん‥」
何故あいつが少しも歳もとらずに 私の隣りにいるのだろう‥。


私とあいつの別れは突然だった。
傷つけあった言葉の刃は 二人とも互いに傷つき血を流したのだった
ある時期を境に 言葉もかけぬ間柄になり 永遠の岐路を 別々に歩きはじめてしまったからだ。

あいつと連絡がとれて 電話で話したのは 死の連絡の少し前であった。
当然 死ぬほどの病気とはしらなかったが あの時 駆けつけていれば顔をみながら 言葉を交わせたかもしれない と悔やんだりした。
電話のさきの声は あの頃と違い 辛そうな声を絞りだしているようだ
「おれっ だめだナァ 宮沢(ミヤ)ぁ」
私の名前を 擦れた声が 尾をひく
そんなに ひどい状態とはしらなかった 心にない言葉をえらんだ
「なにいってるんなだ emo 」
「‥‥でもね ミヤ ほんとなんだ もう いっぱいいっぱいなんだ」
もう 何十年も空白があり 相手の状態もわからず あれ以来逢っていないのだから
顔を想像しようにも どうにも あの頃の輪郭しか思い出せないのだ。

あの頃は、背か高く 痩せていて どういうわけか母性本能をくすぐるというか 女には不自由しないタイプだったはずだ。病気をしてから どのような顔をしているのか 電話では判らない。

「本当にひどそうだね」
「ゲヘッ 喰えないんだょ‥ゲホッ」
「オイ 大丈夫かっ」
「ハーッ ハーッ あんまりなぁ」
辛そうに会話をするために たじろいでしまい
「一回 切るぞ emo! またな‥」

次に電話をかけた時には やつは この世にもういなかった。
電話の相手は奴の息子だと名乗った。
親子だから声も似ていてあたりまえだ 最初は本人だと思い 
間違えて 名前を呼んでしまったからだ。

なんで あの時 もっと昔の話や 友達の事を話しておかなかったのかと思う。
いちばん血気盛んな頃に、ただ熱気に任せ 互いに汚く罵った言葉が虚しい。
言い放った言葉を取り消して すぐにでも謝りたかった。
あいつは 体力がないから 酒に浸り 常に飲んでは酔い 悪態をついた
しかし それも できないのだ  あいつは旅たったのだ。

仕事の忙しさにかまけて すぐには法事に駆けつける事ができなかった。
言い訳がましく 時だけが駆けていった。 

同期の二人に声をかけて 位牌の前に座ったのは 一年も経ってからであり、
彼の遺品の中に 当時の一緒に聴いたLPレコードが横になったまま
無造作に 幾重にも置かれてあったのが とても悲しかった。

末っ子の奴は 甘えん坊であったのだろう 
公務員の両親は 好きな物は買って与えていたのだろうか 
昔に 私が訪ねていくと みた事もないオーディオ装置で 
ロック喫茶やジャズ喫茶でしか聴いたことのないLPレコードを
目の前に並べて自慢げに 盤にのせ針をおとした記憶が鮮やかにうかぶ。

30年も埃を被ったまま、遺品の数々は 片田舎に葬られた。
‥‥はずであった。

五年後の 2005年9月の今までは そう思っていた‥からだ。
突然 目の前に 逝ったはずの男が 出逢った若い頃の容姿で
現れたのは 何故なんだろう。

これはなんかの冗談だろう。
俺だけが何十年も歳をとり 禿げて 太り 醜い体を晒(さら)しているのだ。

「‥なんか 顔についてますか?」
かぼそい声が 騒音の中で やっと聴こえた。
ドギマギしなが 顔の汗を お搾りで拭きながら
「いや はぁ き 君は‥な 名前を‥」
こう言ったつもりだったが またもや店の騒音にかき消された。

昔々、学生運動が華やかりし頃 我々は 完全にセクト闘争の渦の中にいた。
彼の性格では ひとを蹴落としてまで
言葉で罵声して勝つことはできないだろう。
それほど優しい男だったのだ。しかし時代は彼の手を離さなかった。
東大闘争がおわり 浅野山荘事件 よど号旅客機乗取り事件が
テレビをとおして 目の前を過ぎさっていった。

奴の消息は 千葉の成田へいった聞いたが その後一度も逢う事はなかったのだ。
結婚して 子供が二人いるとも 人づてにながれてきた
私も転勤がかさなり 地方都市へと赴任して 年が過ぎていったのである。

目の前の この男は emo以外の 誰でもない
そんな訳があるわけがない 悪酔いだろう すごく気分が悪い
血圧があがって 首がおもい 
五十を過ぎて薬の世話になってしまった自分がうざったいのだ。
きっと この男の存在も 酔いのせいだろう。 
「そうだ もう帰ろう‥」
フラフラと、人を振り払って 出口に向う。

よろけて 片手を誰かに掛けてしまった
「悪いなぁ ごめん」
「いいえ 呑みすぎですね  ミヤっ」
確かに 俺の名を あの頃と同じように呼びすてて 耳元で囁いた。

「ああ‥」
「君は あのパンドラと書かれた瓶の中味を まだ呑んでいないんだね」
「‥」
「僕は 呑んでしまったのさぁ」
「そうか、あの旅で 出会った老女に貰った瓶を 呑んだのか」
「フフフッ 君も呑んだらいいのさ 信じた者は 歳を遡る事ができるのさぁ」
「俺は捨てたよ あんな気味の悪いしろものを 呑めないよ」
「そうか 残念だね」
「あの時 老女の あの瓶から小さなビンに分けたんだだよね」
「そうさ 3人で貰ったよな」
「じゃ 吉田はどうしたんだ」
「吉田か ほら 君の後ろで こっちを見てるだろう」
「‥よ・吉田ぁ お前は とっくに逝ったと聞いてたぞぅ」
吉田は右手を軽く上げて微笑み返した。
「どうなって いるんだ この店は‥俺は帰るぞ」
「ああ もしパンドラがあるなら 助からないとわかった時に呑むといい」
「‥」
背後に あの男が 笑いながら 私をみて昔と同じように指で髪をはねあげた。

俺はドアをあけて 転がるように外にでた。
店の外の闇は 冷たく どこまでも続く 街灯の色さえ 惚けてしまうような霧
じっとりした重い空気は もがいても 俺を包みこんでくる。

学生時代に三人で東南アジアに旅をして、
その時 僅かな金で 老女から 蒼い小さなビンに入った液体を買ったのだ。
想い出に どこかにかざったままである、棄ててなどいないし いままたもう一個ある。
その名はパンドラ、彼等は呑んでしまったのだ。
そして 私に会いに来たのかもしれない。

「 emo  懐かしき友‥‥また どこかでな けどいまは‥」
霧が 私を過去におし戻すかのように まとわりついてきた。 

(了)


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『歩句集-轍』50-100

『歩句集-轍』50-100



【100】【百】「梅雨まえ」      
「咲きほこれ 若葉は萌えて 夏よこい」
「けだるくも 梅雨の雫が夏を呼ぶ」
去年は梅雨が永かったなぁ

【099】【白】「夏かな」       
「夏らしくゆめの戯(たわむ)れ 雲は湧き」

【098】【日】「あやめ 花菖蒲」 
「風わたる 青紫の 浄土かな」
「あゆめ咲く 夏のいりぐち 鎮まりて」

【097】【口】「島崎藤村の宿」  
「チャペルから 教師の足音 杜の宿」

【096】【匚】「晩翠碑」       
「子を詠い いにしえ人の 寺の石」

【095】【丁】「けやき路」     
「鳩が舞い 欅トンネル 杜の路」

【094】「まちびと橋」     
「まてど来ぬ 萩のぬくもり 梅雨の橋」

【093】「万華鏡」       
「眼にうつし 二度は逢えない 万華鏡」

【092】「窓景色」       
「ぼんやりと 窓の景色を 眼にうつす」

【091】「鉄塔」        
「鉄塔が コバルト空に 胸を張るん」

【090】「影」          
「明暗の 区切りをつけて 夏ひざし」

【089】「魚輪」        
「音みえし 七北田川に 魚跳ねる」
「音もなく 油の河は 夜の魚」

【088】「○高校蹴球場」  
「蹴球の ライトが照らす 夜の芝」
「掛け声が 芝を蹴り上げ 草香る」

【087】「古本屋」       
「戸口まで 積まれし雑誌 汗を拭く」

【086】「夏パズル」     
「天(そら)の青 見上げてパズル あて嵌める」
「両手に 欠片(かけら)集めて 夏がくる」

【シーツの海】
「新しい大きなシーツが宙を舞い低い曇のごとく、下から見上げたシーツは
海の底から波を見ている、ブクブクと泡の立ち上がる 波の底 淡き光の世界
周辺の蒼黒き恐怖も連れてくる、仰向けになり斑な波の反射角度を知る、
シーツの曇と波がが頭の上で泳いでいる」

【085】「台風のち晴れ野菜」
「足とめて 五月八百屋の 花揶菜」
「あざやかに春玉葱の 並びの棚」

【084】「カーテン」     
「風に舞い 思わせぶりの 初夏の彩(いろ)」

【083】「ビッグフイッシュ」  
「夢おわり 父を重ねる キネマ館」

【082】「束の間の翳り」 
  
岩肌の雲母が鈍くギラリと乱反射 
突然の雨に濡れ 蛇紋岩の閑さは 
夏草のを与えし季節

集めし鉱物は匣に並べ 彩の渋きに心を奪われし 
不透明なる 不純物で練りこまれたる時間を 
ただ眺め溜息を吐く

【081】「雀踊り」        
ざわめきも 青葉の風に 伊達すずめ

【080】「薄暑」      
「けだるに 眠り促す 温(ぬる)き窓」
「垂れさがる 高電線の 清和なり」
「山おぼろ 滴る汗と 青嵐」

【079】「淡き紫」    
「フジ棚の 淡紫に 飾りたる」
「路地にいり うす紫を 見上げ藤」

【078】「コバルトブルー」   
「一条の 蒼々の宙 飛行機雲」

【077】「五月さつき皋月」  
「田の水の あおぞら写し 皋月(さつき)かな」
「食玩の 懐かしき小品 集まりし」
「メールうつ 窓から外に 眼をほそめ」

【076】『五月の旅』      
五月の風が 眩く 私の前を通り過ぎていく風に
巻き込まれたまま不思議の邦へと旅だつのだ

【075】『五月空』
    
朝から雨 じとじとじとと 締りがわるい 毎年同じ時期
眠気を催す五月空 今年も又やってきたようだ

「春がゆき 潤滑油の 夏てまえ」

【074】『三・四・五日』  

なか四日は雨  母の誕生日を祝う
「なに食べる? 家族つどいし 祝い膳」
あとの二日は移動 景色の変化のない高速道路は使わずに
史跡を立ち寄り 巡る帰り旅」連休の旅は終わった

「路いりて 名もなき祠 探したる」

【073】『五月のアリス』
「誘われし 五月の空に 水彩画」
「路はぐれ ここはどこかと うさぎ穴」
「五月路 浮かれ気分で 旅をいく」

【072】『そらもよう』   
「土手の芝 青さをまして 水緩む」

【071】『しずかな雨』  
「雨宿り いろもかすみて おそ桜」
「雨そそぐ 土筆の傘の 列並び」

【070】『桜雪』    
「ふりしきる 今年のなごり 桜雪」
田舎は雪景色だったとメールくる。

【069】『おじゃもち』 
  
おじゃもち(※)の 擂り胡麻まぶした餅を 喰らう
味も捨てがたい むかしはキョウギに包んでくれたなぁ
相撲の行司の軍配に似てる。 良く買いに走らされた。

「風を切り おじゃ餅 買う 春荒れし」
「蕎麦餅の 黒蜜あまき 葉のあおし」

【068】「仙台玻璃」  
「すれちがう 香りのこして 昼さがり」
「ほんのりと紅をさし 襟もと涼し 少女の横顔 春あさく」

きっと生きたいように 生きているんだろうねって言われた
結果的にそれが全てをまどわす原因なのだから

「音もたてずに 降る雨の 窓に写る いぶかしげなわたし」

【067】『みどり』   
「誰がゆかん 春の広野に 身を沈め」
「仕事場の 窓に肘あて 若葉燃ゆ」
「葉桜の 古木の下で  きりせんしょ」

【066】        
「暖かき四月風に 身を任せ」
「突風に吹かれて終る桜花」

【065】        
「夜桜の 散り逝く花の 哀れさに」
「花吹雪 風にこわれて つむじ巻く」
「後輩に 背中を押されて 日和山」

【064】          
「捻れても 時は儚く 因り戻し」
「風上の 時は異次元 すまし顔」
「足跡は 時に七色 音がする」

【063】          
「彼方より 君は訪れ 足速に」

【062】『マント』     
「かぜ強く 桜をちらす 又三郎」

【061】『石巻日和山』 
「色を舞い春をかみしめ 酔いしれる」
「彼方より 君は訪れ 足速に」
「捻れても 時は儚く 因り戻し」
「風上の 時は異次元 すまし顔」
「足跡は 時に七色 音がする」
「夜桜の 散り逝く花の 哀れさに」
「花吹雪 風にこわれて つむじ巻く」
「後輩に 背中を押されて 日和山」

【060】『花びら』     
「枝豆と片手にビール 舞う桜」
「ほどよくて泡に舞い込む 花一輪」

【059】『北上』    
「ラジヲから 桜前線 花に酔う」

【058】『戦(そよ)ぐ』 
「古城の 花咲きほこる 利府の郷」
「風戦ぐ 宮城野原は ざわめきし」

【057】『さくら』    
「はる曇り やま群青に古桜」
「田舎より 携帯に写し はな一輪」

【056】『何色』    
「賑やかに 花満開の さくら色」
「あちこちの 桜あつめて 独り酒」
「田舎から 咲いたよって メールくる」

【055】        
「自転車で ニッキの飴と 春の風」

【054】        
「桜咲く 四月の風に 背をおされ」 .
4.7開花宣言発令

【053】        
「恥ずかしげ さくらプチプチ 二分の咲き」

【052】        
「さくら咲く 五十路をかぞえ あらたなる」
「はな曇り 見上げる桜 ほんのりと」

【051】        
「ただひろく 水彩ごとき 宙の青」
「友からの メールに託し 花便り」
「辛夷咲く 微(かす)かに彩づく 山の際」

【はないかだ】 なる言葉がいいなぁ っと川面をみる。
過去を振返ると‥。






☆彡
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九六綺譚『たび々っと』

九六綺譚『たび々っと』 

「やあ!おはようございます」
跳ね橋の門番はニコニコ笑って帽子に手をかけて軽く会釈した。
「あっ はい おはようございます」
少年は一瞬ドギマギしながら手をそろえて大きく腰を曲げました。
あんまり曲げたので「ゴキっ!」と音がなって、門番に聞こえた気がしました。
でも聞こえなかったらしく 意気揚々跳ね橋を渡ってしまいました。

こうして 少年は 「たび々っと」になりました。

時はたち、杖をついた老人が病に冒され辛そうに歩いている
いろいろ経験をかさね ある時は悪事にも手を染め この年になった
「私の寿命もそろそろかな、もう一度若いあの頃に戻ってみたいものだ‥‥」

路の先に、かなり昔にみた跳ね橋がみえてきました。
あの門番は、姿形変わる事なく あの時と同じ笑顔で帽子に手をかけ会釈した。

「おかえりなさい。長いようで早かったですね」
「はいな、また通りますよ。門番さんは少しもお歳をめさずに若いままですね」
「なにを言ってなさる、あなた様は昨日ここを通ったばかりですよ、
腰を鳴らしていった人だよね 一晩しか経っていませんよ」

老人は やっぱり聞こえていたんだと顔をあからめながら
「はてな、一晩しか経っていないってのは、惚けてしまったかな。
もう何十年も経ったのにのう、ハハハッ」
老人は 訳がわからなかったので 笑って別れた。

跳ね橋を渡りおえて暫くすると、なんか体が急に軽くなった。
手の皺が消えて ドンドン若くなって力が満ちてくるのをいくのを感じた。
近くの泉でひざまつき 水に顔を写すと 老人は少年になっていた。
「どうした事だろう まるでここを出て行った時と同じだ」
病の苦しみはなく、息も楽になった。

少年になった男は木に登り、遠く跳ね橋を見た
そこには 大きな虹が 金銀交えて光り輝いているのが見えた。
「ありがとう 門番さん」
私はおもいっきり腰を曲げてお礼を言った とたん
「ゴキッ!」と腰がなった。 
そして男は顔をあからめた、
少年になった男は 息をしなくとも ひとつも苦しくない事に気づいた。

(了)

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九六綺譚『兎螢-とけい-』

九六綺譚『兎螢-とけい-』



鏡をくぐって入って行くと、
兎が店をひらいてなにかを売っていた。
最初、なにがあるのかなと近づくと、
どうやら色々な時計を陳列して売っているようでした。

遠巻きに近づくと売り物の懐中時計が目についた。
誰かにやっても喜ばれそうなので、一個 買う事にした。

全部の時計が、1個1万ラビなのですが、
1個が未来琉璃時計、あとは・・んん・・エレキテル雷神時計?
それから、機巧發条時計だ?宇宙テレビ時計?
光ファイバー青水晶時計??妙な取り合わせである。

以前から、文字盤などの絵柄の違う不思議時計がでまわるようになり、
使い方が解らないが、珍しくて買ってしまう。
世界の謎が解る伝説時計類はなかなか人気があり、
今まで何個か買ってしまいました。
マヤ髑髏時計やインカ黄金時計はヨダレがでてしまうほど稀少価値があります。
この等の時計は不思議な国の仲間に贈ったりしますが、
なかでも電子妖怪時計は、そう手に入るものではなく、
かなり多くののコレクターが狙っております。

以上のような時計は 「兎蛍」と称されて いるのです
近くにお越しさいはお立ち寄り下さい。お待ちしております。

他にもいろいろ不思議な兎蛍を お見せしましょう‥。
(了)

20060415165005.jpg

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九六綺譚『憑きもの』

九六綺譚『憑きもの』

『眼の魚』

今までなにも気にしなかっただけかもしれない。
私の体のなかに魚が住んでいる
かなり前から知っていた気がする
誰かに話すと逃げてしまいそうな気がするし
別に好んで飼っている訳でもない
こんな話しをよそ(他人)の人に言えば 
変人扱いをうけるだろうと思って躊躇していたし 話した事はない

こんな事を改めて思い出したのは へんな漫画をみた時に
同じ様な事を描く作家がいるんだと感じたからである。

どのような魚といっても 簡単に表現できない
眼の中で泳いでいるのを 尾びれの動きで確認できる
かなり速い動きをする きっと 小さな魚なんだろう
一度、見るとしばらくいるが そのうちどこかに消えてしまう
今度はいつ逢えるのだろうか
ただ 魚のせいかどうか知らないが 
他人(ほか)の人のみえない物が みえてしまうのである

『三番目の腕』
ある時、高校時代の友人Wに久しぶりに逢ったのだが
ボソボソと変な事を言いはじめた
されは異様な話しであり Wは悲し眼をして私に言った
「北田さん 私の体の脇に もう一つ腕があるんですよ」
「エッ」
「他人には見えないけどね」
「写真には 時折写ったりしてね 心霊写真みたいな感じだよ」
「本当かよ 信じられないなぁ」
「そりゃあそうだよ 普通の人には見えないのだから当然だよ」
「でも 感触はどうなっているんだ?」
「時折、実態があるように思えるときもる
ただね 面白い事に 眼を凝らしてみていると 指を指すんだよな」
と低い声で笑いだした。
「それでサァ その指がさす方向にいた人は知ってる限り
必ずといっていいほど不幸に陥(おちい)るんだよね」 

「思い出した 高校時代に一緒に ランニングシャツで運動していた時に
お前だけがジット俺をみて その腕どうしたんだと 聞かれた事があるよね」
「そんな 遠い昔話 判らないよ」と必死で否定した

そう 私には いまでも 彼のその腕と手が見えるのだ。
だから彼と逢うのを遠ざけていたのだが 
彼とあった事で昔を再認識してしまった

「そうか 俺の思い過しか 笑い話だよ 忘れてよ」
と友人は言葉を噤んでしまった。

去っていく 彼の後姿を見送り 
私は腕から伸びた手の指先が 友人の頭を指しているのがみえた。

(了)





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九六綺譚『ビック・フィッシュ』

九六綺譚『ビック・フィッシュ』

「この世には 実際に眼で見ないと信じられない事があるじゃよ」と、
村一番の もの知り爺さまが唾をとばしながら自慢気で言った。

「じっちゃん!今まで見たもので一番でっけぇのはなんだべ?」
と いっぺいいたワラシの中のカモイが鼻をホジクリながら聞いた。

「ほんだなぁ、裏の池に釣り竿を垂れたら魚が釣れた」
「うんうん、ほいな」
「魚があんまり大きすぎて 池の縁から でてこんじゃった」
「ふぇー、そんたな魚みたことねぇじゃ」
「ほんでな、池の周りをほって掘って掘りおこしたんじゃ」
「ふんふんふーん」
「やっと魚の頭が半分でたんじゃ、ほんで はたと困ったじゃ」
「なして?」
「んーん、魚が重くてそれ以上あがらねぇんじゃ」
「んだべ」
「あたまっこ悩ましてきめたんじゃ」
「なにをじゃ」
「口から入って後ろから押し出してやった、けんどうまくいがねぇ、だからわしゃ言った」
「ほな?」
「魚の腹の中にうつるべってな」
「へー」
「ほんでの 食い物はこまらねし、雨も漏らないし」
「すっと じっちゃ、ここは魚の腹の中ってェか、ほだから生臭いんだ」
「んだ、だども でっけぇぞ」
「んだ んだ」
そのとき 大きな魚はクシャミをした‥‥‥。

(了)

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【九六式落語風】『うちの宿六』

【九六式落語風】『うちの宿六』

えー、夫婦は似たもの同志と申しますが、

女は夜半に目覚めた。
「エッ…いやだぁ」
っと語ると、ヒョロりと顔をあげて、自分の体を探しはじめた。
「あら やだよぉ わたしゃあ なんて寝相が悪いでございあんしょうね」
っと言いつつ
女は体が、夫の隣の布団に寝ているのを、納得したんですなぁ
布団から蛇のように、だらしなく伸びた自分の首をシュルルと縮めて、元の通りにした。

「あぁあ、ちょっと気が緩むと すぐ伸びて 大変な事になああぁるぅぅ
 亭主にみられなくて よかったわ ふぁ…眠いわょ…」

横にいびきをかいて寝込んでいる宿六をみながら
「なんだよぅ、うちの亭主は自分の女房が ろくろっ首だって事
 気付いてないんだわいなぁ」
まぁっ、女房族は亭主に知られちゃいけねぇものを、二・三は持っててるもんでしてなぁ

女房がウトウトし始めると、隣で寝ていた夫がガサゴソと起きてましてな
厠に行ったらしく、暫くして帰ってきた。

うろうろして 床を探しながらポツリと言った。
「アリリャあ 又、眼鼻口を落としてしまったぜ」

それを聞いた女房は布団から顔出して薄暗いなかで夫の顔をみた。
「なによ、あんたぁ のっぺら坊だったのぉ」
「わりい わりい ごめんなさいよ それにしても お前は余り驚かないねぇ」
「あたしかい なぁに似たようなもんだからね」
っと言ったまま 首を掻きながら 寝てしまった とさ。


おあとがよろしいようで



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【十二の箱】

【十二の箱】玖絽

【①】『‥って』

「春小僧って知ってるかい」
「ほらほら 見たことないかな」
「ずーとさぁ 空をみてると 雲のあいまを跳んでいるやつだよ」
「えーーっ そ・そ・そんな奴 いたっけ」
「ときたま 鼻をほじくっているんだけどなぁ」
「そんな奴 そういえば‥」

「春だぞって オイラが思ったら ここは春」
「もう一回 なごりおしいねって 雪さんきたる」
「梅桃桜菜の花が 順番待ちで キチンと並んでる」
「遊びにおいでって みんなに声をかけ
ひっこみじあんの春が  最後にボソボソってやってきた」
「かくれんぼ オイラ以外はみんな鬼」

【②】『くろすろーど』

秋が四つ角に立っている。
私はおもわずぺコリと会釈をした。
秋も照れているのか恥ずかしそうに顔を赤らめて
頭をふかぶかと下げた。
「やあ 久しぶりだね」
「ハイ!夏を追って南に行く途中だから」
「じゃあ 大変だね」
「いやぁ毎年の事だから 慣れちゃってね」
「うん また面白い話を聴きたいなぁ」
「あっごめん!もう行かないと」
「そっかじゃあ又ね」「じゃあ」と言って風と一緒に旅立った。

【③】『夢を食む 虫食いごとき うしろ路』

『ふりかえっちゃ駄目だよ、まだ早すぎる』
あいつは、いつも隣にいて おいらをみつめていた。
眼を凝らしてみると、やっぱり 
あいつはニコニコ笑って 後ろにいたり前にきてみたり、
時折悲しげな顔もするが、やはり陽気に語りかけてくる。
『気楽にな』
『あせらずにね』って。

【④】『からっと』

からっと晴れた
唐揚げみたいな日
仕事場の窓から
太陽光線が くっきりと
影をみせつけている景色を
左斜めにみて確認する
夏の復活だ 太陽が輝いている
とりあえず今日だけは
太陽の自由にさせてやるか などと思う

【⑤】『夏じゃあ!』

入道曇は、いつも夏の穹。
沸きあがる白く、押し潰そうと迫るおおきな入道曇。
眩しき光、白い曇、モノクロ写真ごとき空は色を失いかける。
湧く曇は形を変えて とどまる事はしない。
雲オヤジはどんどん膨らむ 穹いっぱいの恐怖。
今年の入道曇は台風のせいだろうか
とても大きな入道曇が眼の前で 語りかけてきた。
「夏じゃあ」

【⑥】『夏の入口』 

『葉だけのぶどう棚 バケツに汲みし水 ポンプ井戸 冷たき雫
使い古された硝子コップ 井戸の底 たらい 西瓜を覆う手拭い 
幼き日々の夏景色 ぶどうの小さな実 日射しはさらにます
影におつる汗 突然の夕立 すぎれば蒸す夏 夏扉を開けて駆け出す 
木漏れ日の下 路地裏の猫路』

【⑦】『チャイナティー』

「雨さりて ジャスミン茶の かぜかおる」
源句は「さりて」だが「さそう」もいいなぁ
「雨さそう ジャスミン茶の かぜかおる」
雨のふるまえに風がスワーッと吹く 
そんな時に ジャスミンが香った気分になる

【⑧】『嵐』

『千切れよと 草木がうねり 嵐まえ』
台風がきた。
幼い頃、父が釘と金槌で雨戸を打ち付けている場面を思い出す。

「入ってこれないよねぇ」
「でてもいけないよ」
「こわいよね」
「なんだ 弱虫じゃん」
「弱虫じゃないもん」
「じぁ 泣虫だぁ」
「違うもん じぁあ あんちゃん 怖くないのぅ?」
「ああ ぜんぜん 怖くないぞ」
突然 窓ガラスがおおきな音をたてて 震えだした。
「きたぞ きたぞ わぁーっ」
「だいじょうぶだよね」
「‥‥っ」
夜中まで「きたぞ!」って家を揺らす。
僕等はいつのまにか寝てしまった。
寝てるまに 台風は「せっかく遊ぼうと思ったのに‥」
と言って通り過ぎていった。

【⑨】『翳る』

灰色の空く 遥かをみる 山々の狭間を探す
仄かに かすみて 鉄塔は姿を隠し
宮城野原は灰色の世界に 塗りこめられる
ただ 芒の穂が 風に戦ぐばかり

【⑩】『雨の街』

『暗褐色の大地に 雨が降る 
音もたてずに 墨汁を水で薄めた 灰色の途切れのない曇  
滴り墜ちた粒は 寂しげな肩に溜り じわりと拡がる 
いたたまれぬ 虚ろなパーツの隙間に滑りこむ 
僅かだが こころの痛みが楽になる 雨がふる ふりつづく』

【⑪】『笑ったべ』

どこ見ても 青ー空。
「すげぇ良い天気だぞう」と地蔵さまが 呟いた。
長いおっぽの猫も陽気につられて
「今年の冬は終わったみたいな青空だべ」
すると☆鳥(ほしどり)たちが
「冬さんに悪いけんど後は来年にして☆いなぁ、雪っこもまだあるしなぁ」
「あれっ!ちっちゃいあんちゃんこ おめはん 誰だんべ」
「へへッ オイラは小春だよ」鼻をこすりながら小僧が言った。
「ああ、春の吉っあんとこの鼻たれ坊主だな」
「そのポケットに入ってるのはなんだい」
ポケットをまさぐりながら
「土筆、ばっけ(蕗のとう)、蕨、薇、こごみ、
まだまだあるよ、もっと見るかい」
「いっぺぇあるべ」
次から次と出てくる不思議なポッケ。
「ハハハッ」誰かが笑っうと
「ホッホッホ」
「フフフゥ」
「エッへへへ」みんな大笑い。
山も川も谷も林も森もみんな笑ったぞ。
その楽しそうな笑いを聞いて、
冬さんが様子を見にきた。
ほしたら、あたり一面、白くなったと。
どっとな。

【⑫】『風のゆくえ 夢異国』

はるかシベリアーナの彼方から 穹(そら)駆けし君は
み知らぬ異国を旅し続けているのだろうか
羽根をひろげたる 人馬は 諸人を欺き 
彩とりどりの 夢の中の迷路へと誘(いざな)う
バビロニアの空中都市は華が咲きみだれ
衣まとわぬ乙女たちが無邪気に笑顔と花をふりまく
曇をかきわけ駆けぬけていった者達よ
刻を経つ 我もまた 不可思議の異国へ参らん
手をかざして楽隊に併せて 踊り狂わん
帆に くろき大きな風塊を十分にうけて 異国へと旅たつのだ

(了)

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『歩句集-轍』001-050

『歩句集-轍』001-050



【歩句】『霙(みぞれ)』050  
開花前  霙(みぞれ)まじりの  春の雨      -050-1
霙(みぞれ)おつ  仄(ほのか)にしろし 春の曇  -050-2


【歩句】『ドライブ』049
風まかせ その場しのぎに アクセルふんで


【歩句】『春霞』048    
ほうけても あおきおおぞら はなもよう


【歩句】『隣花』047-0

手をかざし彼方上方をみる碧き宙か深淵の彩体を浮かしてみる
仙台はまだ梅がもう少しだろう。
アパートの隣は鉢を並べて春模様、白、黄、赤と飾っている。
我家は花はおかず
花が「観に来なくていいのかな」と脅かすのだ。
「今しかないぞ」なんて顔をおもいっきり いたぶるのだ。
さぁ でけてやるか、明日は休みだね。

 
【歩句】『落ちゆく』046-0
落ちていく どこまでも あてはない どこまでも
眼が縫われたように はなれない 落ちていく

※アリスの不思議な国はどこにあるのか

【歩句】『片思い』045
春よこい 風にせかされ 猫のあし     045-1
早くこい 蕾がパチンと 弾けとぶ      045-2
あゆみたる こころの準備 みすかされ   045-3

【歩句】『れいくんへ』044
急ぎゆく 春には春の 事情(わけ)ありて

※R君からメールあり
父の入院を見舞いに盛岡⇔大船渡を1~2月に繰り返しました。
お父上は大丈夫なのかな?
いろんなものが見えます、環境が変わると五感が鋭くなりますよね。
また逢いましょう いつか酒を一緒に呑めるといいね


【歩句】『ぬくたまる』043
寒もどし珈琲一杯ぬくもりて

【歩句】『院内』042-0

異様な臭い 多く並ぶ人 声を抑え ため息の音 高い看護婦の繰返しの声
虚ろな眼 足早い音 遠くに子供の愚ずる声 泣き声 又救急車のサイレン
怒りを抑えたヒソヒソ話し オロオロする老人 ゆっくりと医師がいく
通路が待合い室 沈んだ空気がゆっくり動く
我は佇む


【歩句】『編句』041-0
陰に影あり 烏自身の 翳のいろ

足太の鴉、三本足の烏、黄金のカラス、白いからす、板硝子
烏の足跡、のお灸、の行水、瓜、貝、口、金、天狗、麦、鳴き


【歩句】『言の葉あそび』041-0

音頭のリズム音符の音を食む
「印度だ」
「緯度だ」
「井戸だ」
「意図だ」
「it だ!」
「いいだ」
「葦、芦、戸井の葦」
「古味憧蕗茹」
「蕾一々日当城」
「韻か」
「インカ」


【歩句】『ねぐら』041
寒戻し鴉は何処 ゆめ塒(ねぐら)

【歩句】『鴎-かもめ』040
やかましく 陽をさえぎりて 群鴎

【歩句】『はなひとつ』039
庭さきの 名も知らぬ花 淡きかな

【歩句】『』038
賑やかな 彩を遊ばせ 花やしき


【歩句】『壺の碑』037
古の 小高き社 ふきの華       037-1
多賀の城 咲けとばかりに 花蕾   037-2

【歩句】『蔵王峰-さ゜おう』036
春の雪 蔵王の峰に 解きし身も    036-1
風わたる蔵王の春は雪曇り      036-2 

【歩句】『パレット』035
けやき路 こころの絵の具 パレットに   035-1
店のまえ葛(かずら)細工に花そえて   035-2
硝子越し骨董の壺不思議彩(いろ)    035-3

※琉璃も瑠璃「紫紺」  琉璃戸 琉璃窓、  
蔦蔓蘿藤葛のたぐい 
     
【歩句】『玻璃/はり』034
雨あがり ひかり集めて 琉璃の玉      034-1
琉璃の彩(いろ) 虹を隠して 蔭ひかる    034-2

【歩句】『』033
路ゆかば 未知なる調べ こころ充ち

【歩句】『老鴉』032
老い鴉 宮城野原に 夢を喰い

【歩句】『ららっぷ』031
遊び唄 ラップのリズム 聴いてくれ♪

【歩句】『】『‥って』030
かくれんぼ オイラ以外はみんな鬼    030-1
耳をつけて遠くの可視の音を聴く     030-2

【歩句】『矢印遊』029
↓↓↑←や↑→↓←↑↑と↑→↓→や

【歩句】『』028
桟橋や こな雪舞いて あぶら海

【歩句】『風花』027
日溜りに 春の風花 舞いてくる

【歩句】『歌垣』026
ふるきとも返すうたがき めにうつし

【歩句】『仏の座』025
穹(そら)駆けて伝えし波の華拡げ

※仏の座/タンポポ(蒲公英)の事

【歩句】『彩便り』025
パレットにチュウブの彩(いろ)描く春

【歩句】『梅香』024
友の句の季節かわりめ梅便り

【歩句】『ゆらり』023
笹舟とハンモック揺れる旅の夢

【歩句】『たより』022
早足で春のぬくもり風便り

【歩句】『涼風』021
頬に風 朧月夜や 散歩路

【歩句】『宙-そら』020
コバルトの 宙を裂けゆく 宇宙(ロケット)船  020-1
スティールの 歯車軋む 機巧隊        020-2

【歩句】『たわごと』019
酒呑みて 委ねるままの 夢の河

【歩句】『板華』018
カラカラと 風に彩づく 彼岸華      018-1
道端に 花売り並ぶ 曼珠沙華     018-2

【歩句】『いおう-ひでじ』017
くろだいおうからすおだひでじみより
さて?

【歩句】『多賀城』016
多賀の柵こころまどろみ春かたる

【歩句】『』015
鋭角に 宙(そら)に弾ける 鉄塔隊   015-1
鴉なく 惚けまなこに われ映る    015-2
花寝かせ 飯をいそしむ 老翁     015-3


【歩句】『返句/』000
バス停をのぼるとさがるいえ並木          000-8
言葉する二人旅する夜の乗合自動車(バス)    000-9
あんぱんのふくろあおぞら すいこまれ       000-10
はつか鼠迷路辿りて眼は赤く            000-11
ほうりこめ竃の置火にそのスルメ          000-12  

【歩句】『種山の曇』000
「くものかげがうねるくさのなみこえて」       000-7

最後のは、むかし、種山牧野の草原のうえを
つぎからつぎへとちぎれた雲と雲の影が飛んでいった思い出。
私の生まれ故郷です。【種山の事】
昔々、君に種山に行こうと誘われた事を思い出した。

【歩句】『ト○ロ』000
『バスを待つ 隣に並ぶ 仲間たち』     t00-1
『バスがいく目玉はライト跳び照らす』   t00-2
『風を呼び腹につかまりひとっ跳び』    t00-3
『隠れ家は不思議な迷路芝の中』     t00-4
『真黒のカマドの煤かでておいで』     t00-5
『風の波うねる草木のどこまでも』      t00-6

※上記の『ト○ロ』は以前に作ったものです。

【歩句】『梢雪』014
春雪の 梢につもる 儚さに

【歩句】『雛のころ』013
春の路 ラジヲ聞きつつ 花探し   013-1
窓鳴らす 風にせかされ 雛飾る   013-2

【歩句】『七北田川』012
ふるきともかえすうたがきめにうつし   012-1
春探し 七北田川の 陽の翳り       012-2

【歩句】『陽溜』011
陽溜まりや 春の風花 舞いてくる

【歩句】『霙の華』010
鴎鳴く 霙の華の 春歩み

【歩句】『凪』009
なぎる海 ただ暗黒のみぞれ浜

【歩句】『七つ森』008
七つ森 西陽後光の 仏たち

【歩句】『物干し竿』007
窓をあけ 風のはためく 白きシャツ

【歩句】『猫柳』006
土手畑 陽に醒まされし 猫柳

【歩句】『』005
風そよぐ 川面きらめき 春めぐる

【歩句】『虎狩笛』004
夜の風 春の息吹か もがり笛

【歩句】『足音』003
足音に 貴女の憂い 春の宵

【歩句】『遠き春』002
愛しさに受話器を置きて梅飾る

【歩句】『導灯』001
春の闇 誰が灯せし 門(かど)灯り





【●】『歩句の轍 001-050』を友人のおかげで再掲載できました
ひらがなの句や田舎訛りの句で いろいろ遊んでいる。
時によって川柳風や狂歌風になったり 気ままに綴るのが楽しい。

【●】『歩句の轍 001-050』を総て消してしまった。
友人のおかげで再掲載できたのは嬉しいかぎりです
とにかく、この頃はひらがなの句や田舎訛りの句で いろいろ遊んでいる。
時によって川柳風や狂歌風 短歌、物語、散文になったり 
気ままに綴る時間が愉しい。
【九六】

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『Summertime サマータイム』

『Summertime サマータイム』

携帯電話が鳴りはじめた、梅雨がはじまらんとする雨の夜。

あまり 人に番号を教えた覚えがないので、かかってくると ついあわててしまう。
何やら派手な古い曲が聴こえてきた。悪戯電話かと切ろうとしたが
「江川!俺だよ俺、田鎖だよ!聴こえているかい」
相手は音に負けまいと、大きな声をだしているようだ。
「ハイ、江川ですが、どなたさまでしょうか」
「なんだ、相変わらず慇懃(いんぎん)な奴だなぁ、た・田・田鎖だよ」
電話の向こう側に懐かしい顔が浮かんだ。
「たくさりか、タクだろ!何だ今頃 どうしたんだ、突然に」
心は動揺していたが、口調を変えずに応じたつもりだったが、言葉を噛んでしまった。
「オイ江川!エガ!元気だったか…」
相変わらず押しの強い奴だと思いながら
「まあ元気だよ、ところで煩い処だな、呑んでいるだろう、場所はどこだよ」
「サマータイムだよ」
「エッ、まだやってたのあの店」
仲間と入り浸ったジャズ喫茶の名前だ。
「待ってるぜ はやくこいよ みんないるんだから‥」
三十年前に金などなくても、そこに行けば気の合う奴等がいて
ファンキーな気分に浸れた時代の店だった。

酒を呑む事になるだろうから車は駐車場においておく事になるなぁ、
などと雨の暗い街灯の光りをぼんやりと見つめながら運転していた。

しかし、あの店はずっやっていたんだ、昔のイメージが頭を過ぎる。

あの頃、狭い階段を降りると通路にジャズのベースが地底から唸るように溢れてくる。
ドラムの皿がビートを刻んで、テナーサックスが被さり湧きあがってくる。
血が僅か沸騰する。まだ叫びまでは至らない、底無し沼にズブズブと引き込まれてしまう感覚。
それでも頭のどこかで出口の光りを模索している自分がみえるのだった。
あがいても、アガキきれるような代物ではなく、柔い真綿で締め付けられる心地良さえある。

突然のクラクションで運転している自分を理解した。

安堵と溜め息、ラジヲをつければ、聴き慣れたメロディ♪。
歯切れの悪い気だるそうな女のジョッキーのハスキーな声が流れてきた。
サラボーンのボォーカルを紹介している。まぁ暫くは快適な運転が続きそうだ。
田鎖はあの店で待っているだろう。

駅のそばの駐車場に停める、懐かしいガード路を風と一緒に走り抜けた街、
今のような先の見えない不安は微塵もなかった時代、
足は緩やかになりいいしれぬ寂しい思いに襲われた。
高倉健が路地を曲がり立ちすくむ映画「黄色いハンカチ」を思い出す。
そう三十年を経てこの場所で棒立ちになった、ただ頬が雨で濡れている。
ジャズの店「サマータイム」の黒と黄色の小さなネオンサインの看板がひかり輝いている。
階段を降りドアを開ければ懐かしい顔に会えるのだから……。

でも 私は知っている。
私を呼び出した仲間の田鎖は、もう何年も前に 亡くなっているのだから…確か自殺だとかきいている。そして「サマータイム」という店も、とっくの昔に 土地開発の地上げ騒動の煽りをうけ、つけ火で焼けてしまったのだ…。


ただ、雨にかすんでいる街の 懐かしい看板が点灯しているのだ。
地下の奥にある店から あの頃聴いた『サマータイム』の曲が、けだるく毀れてくる。
入口で足がととまったまま ただずんでいる背中に、雨がひとしきり強くおちてきたのだ‥‥‥。

「そうかぁ あと少しで‥
始発電車が通過するはずだよなぁ」

(了)
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九六綺譚『父の引出し/或は恣意的なもの』

九六綺譚『父の引出し/或は恣意的なもの』玖絽  

私の父は物書きだった‥‥らしい。
本業は別にあったのだが 帰宅すると来客用の洋間に
自分の好みの本を重ねた書斎に座り、
物憂げに浸り 思惟なる世界へ入りこむのが日々であった。

今でも 思うのだが、父のドテラ姿は、
私の想像するところの 小説書きの大作家 そのものであった。
字のうまい父は サラサラと筆や高価な万年筆で 書き記(しる)すのだ。
あまりも 崩して書くものだから 私は読めない事が度々であったのである。

とにかく 父は文壇に あがる事なく 
地方の俳人として 又、句会などの選者として
或はただの技術屋として 人生をまっとうしたのである。 

父が亡くなり 十三回忌に田舎に戻って
久しぶりに父の部屋に入ってみた
雨戸がしまり 窓が煤けている、外の雨のせいだろうか。

机の脇にそのままの 両切りの煙草の箱をもち セロファンをとり
煙草を一本とりだして 父の机の上でトントンと叩く
父の愛用した蒼いカットガラスの小さな灰皿と
銀のダンヒルのライターが健在だ。
ライターは鈍い音を点てて 微かな灯を点す、
煙草の香りと やや黴臭い香りが 鼻をくすぐる。

壊れたままの蛇腹のカメラが チョコンと置かれたまま、
どこかで拾ったに違いない名もない石たちがある。

地雨が窓の外を叩いている、
家は窓の枠が木製で湿気が室内に入ってきている。

雨戸をあけることなく 煙草をくねらせるば やや夜の気分
やっと雨がやんだのだろうか
戸の節穴などから入る光が 畳に丸い焦点をあわせてくる。

紫煙の緩やかな空中浮遊を 異様にうきたたせて、
ただぼんやりと 煙の漂うのを楽しむ。

薄明かりのなか 両端が黒ずみ切れかかっているのだろう
机の蛍光灯をつけてみる 

父の机は 座り机で こうしてみると 異常に小さいのに気づく。
部屋の全体に本が置かれており 
それは多分野の多様性に富むものだった。

父が若いときから つけていた 日記が整然と並んでいる
こうやって 毎日、俳句と遊び 多くの本を読み漁って
自分なりに 人生を楽しんで生きてきたのだろう。

子供の頃に この部屋に黙って入り 遊んで怒られた記憶が
鮮やかに蘇えってきた。
触ってはいけないとも言われ 慌てて 逃げだしたこともあった。 

主人を失った机は 生前の主人の事を忘れないように 
埃を被ろうが 現状を維持し 待ての姿勢まま 存在し続ける
無防備に転がった万年筆が 蛍光灯の光りを溜めたままに
原稿用紙に沁みこんでいく

ふと 思う‥
引出しは鍵が掛かっているのだろうか 一度も中を見たことはない。
何かしら 急に 引出しを開けてみたくなった。
見てはいけない物があるかもしれない。でも興味が手を伸ばす。
窮屈な音がして 半分ほどあけた。

中を覗いて 思わず 唸った。
仄かな暗さの中に 写真ではない ひとの顔があった、
狭い引出しには おぼろげではあるが 懐かしい父であった。

黙ったまま 私の顔をまじまじと見上げている。
父の顔と私の顔が上と下から見詰め合ったまま 刻が過ぎていく‥

手を伸ばして それが 古ぼけた鏡に写った自分だとわかつても
暫し 引出しから動けなかったのである。
これは きっと 老いた父の 引き出しを開けた者へ
仕掛けた 悪戯だったのだろう
ひとりで 搾った笑いから 口をあけて 大声をだして笑ってしまった。

奥から妻が 笑いを聞きつけ 戸を開けて怪訝な顔をしたまま
私の顔をみつめていた。
(了)

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九六綺譚『緑の家』

九六綺譚『緑の家』

 東北の仙台の北東に、「丁」という町がある。
学生時代に、この町に二年ほど住んだことがある。歴史のある町で平安時代から北の軍事拠点として城柵が置かれた事で 歴史書に記述がある。
当時、仙石線を降りると 砂押川沿いの小さな道路が菖蒲田の海岸まで続いていて時折沢蟹が遊んでいるほど 長閑(のどか)なところだったのである。
駅から田圃がひろがり、45号線の拡張工事や舗装ひっきりなしにトラックが走っていた記憶があるが その海寄りにあった いままでの道路は旧道となり 自衛隊の歩行演習が行われたりしていた。
そんな 道路の脇に小高い丘があり 進駐軍が使用したとおもわれる家が建っていたのである。この家は、通称 グリーンハウス と呼ばれていた。
けもの道のような路を草をかきわけて 丘を登りつめると 木が周りを囲み 鉄条網が張りめぐらされている。
やぶれかけたバラ線をくぐり抜けて 自然に荒れはてた庭に たちいると 背丈ほどの雑草に囲まれたペンキで塗られた緑色の邸が現れる。 

煙草を覚えた頃で 邸の庭の一画で紫煙をくねらせる。辺りをみわたし やぶれた硝子と壊れた窓枠 木々から木漏れ日が顔を照らす。
一瞬、蝉が鳴きやむ バキッっと落ち木を踏みつける音がして 思わず振返るが誰もいない。
吸いおわった煙草を地面の土に押しこんで 傍らにあった小石を拾い 二階の窓硝子にかるく投げてみた。コントロールがわるいのだろう 壁にコツンとぶつかっただけであった。二個目を拾い 今度はおもいっきり投げた。大きな音がして、逆にひとりで驚いてしまった。 

この洋式の邸は 二階建てあり 上から見ると英語の「H」の形をしているのだ。
どんな人間が この邸にすんでいたのか 知る術はもうないだろう。二階に上がると南側に苔で埋もれた大きな窪みがある。確認するまてせもなく それは雨水の溜まったプールだった。
もしかすると ここは避暑地の別荘だったのかもしれないと思いはじめた。
内陸に住んでいた私は 夏休みになると 親戚の家に海の家よろしく長期間にわたり泊まりこんでいた。菖蒲田の海岸の奥には外国人のプライベートビーチがあり、岬の一端を別荘が点在していて、そこには小さいながらも雑貨屋があったのを知っている。そしてその別荘は全てではないが緑色をしていたからだ。

この邸の内部を探検してみたいと何度も入口まで行くのだが 門の鉄柵に大きな錠がついていて 厳めしいかんじであったのだ。なんとなく いつか探検しようと思いつつ戸惑っていたのである。

ここには以前に誰かがしのびこんできていたのだろう痕跡が随処にあったのである。階段の脇にエロ週刊誌が落ちていた、また 廊下の足跡も埃に埋もれたままになっているが、よくみると争った痕がある。辺りにガラスの破片が飛散っていて 黒いシミが 点々と続いている。何かをひきずった痕もある。
二階にあがる階段の脇に小さなドアがあり ノブがついている。
「えっ」
俺は一体なにをしようとしているのだ。いま ここで このドアを開けたとして その中に あるわけのない物があったとしたら 考えただけで背筋がゾクッとしてきた。汗が滴りおちて 後ずさりをしながら 廻りを覗う。

「はやめに 出たほうがいいかもなぁ」っと独り言をいう。
まるでだれかに じっと見つめられ 監視されているような ねっとりした感覚に陥った。
どこをどう通ったかは覚えていない。我にかえると 足には傷があり血が滲んでいた。下から林の中の緑の家を見上げる。もう夕方の空が 血のようにあかく燃えはじめていた。

二度とあの家には行かなかったが、数年あとに 不審火であの緑の家が焼失したのを知った。調査も入っただろうから なんの事件性もなかったのだろう。
新聞を読みながら 急に肩が軽くなり 記憶の皺が溶き放たれたのをかんじたのだった。

(了)


物部黒彦

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九六綺譚 『盆の雨』

九六綺譚 『盆の雨』


雨が音もなく降りつづける
こんな日は 田舎で縁側越しの畳の上で
手枕で寝るにかぎる

時おり やさしい冷ややかな風が
庭の草花の香りをはこんでくる

障子の破れに被せた 華のかたちは
あちこちに在るのに気づく
部屋の鴨居におかれた遺影写真を久しぶりにみつめた

子供の頃は これら幾つもの写真が怖くて
眠りにつけぬ夜があったと思い出す
「あれっ なんかおかしいなぁ」
私の家は それほど旧家というほどの家柄ではないのだが
幼いときにみていた写真と どこかがちがうのだ

「かぁさん かぁさん オフクロぅ  ‥でかけたのかなぁ」
お母は買い物にでもでかけたのだろうか 
そういえば西瓜が どうとか 言ってたなぁ
雨が降っているのになぁと思いつつ

もう一度 最初から見直してみる
すると 5番目のモノクロ写真に 眼がとまった
その写真は多くの人々が正装をして並んで写っているものだった

「ヘェー なんだ みんなすまして あっ ゆみ子もいるんだ」
ゆみ子は、私の直ぐ下の七つ離れた妹で あんちゃんとなついてくる妹だった。
いつも苦しそうに咳をして 数十年前に喘息発作で 儚くなくなったのだ。

赤い花柄帽子と フリルのついた服 長い縞々の靴下 エナメルの靴
彼女のお気に入りのものばかりを身に着けて
ゆみ子だけが鮮やかな彩色で 自慢げに写っているのだ
「いつ 撮った写真なんだろうなぁ」

それでも なんか違和感あるのだ
隣りに写っている老婆は 間違いなく私の祖母なのだ
和服を着て紋付まで着ている。
ただ‥祖母がいるが 妹は産まれていないはずだ
「おかしいなぁ」
一緒に写真に撮られることは あるはずのない事柄なのだ

じいちゃんだって 山高帽をかぶり 父の長兄は軍服を着て
その後ろには 侍の格好をした人々がぼやけているが
一緒に写っているのだ

「ハハハっ ふしぎだなぁ」

いつのまにか 雨が晴れて 日差しが庭を照らしはじめている
裏から 母の下駄の音がカラカラと聞こえてきたのだ
井戸の音がして 冷たい水音がする

翌日 私はまた 田舎を後にして 東京の雑踏のなかに戻ってきた。
山手線に乗り つり革に掴まりながら 
‥なんか こんな事があってもいいような 
あたりまえの気分になってきたのである。

(了)

物部黒彦
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九六

Author:九六
好きなものを自由に書く、読む、観る、描く。そして遊び愉しむ。
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【※】-半世紀分の散らばした気侭綴ゑ-

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