九六の匣

さまざま詰めこんだ匣

空白の匣 ;『笑九朗事件綴』玖

空白の匣;『笑九朗事件綴』玖
『笑九朗事件綴』玖


-----空白
執筆予定 空欄


☆彡

☆彡

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『笑九朗事件綴』鉢

『笑九朗事件綴』鉢

笑九朗は藥箪笥の上から空中になげだされた。
「嗚------!!!!!」

箪笥から落下①

次の瞬間、思い掛けないことがおきた。
それは身體が空中で静止したかの様に感じたからである。

箪笥の階段の上で花(ハナ)が私の方に向って叫んでいる。
-なんだこの感触は?-
誰かに抱きかかえられているのだ。
梅吉が駆け降りるなり、私を両腕で受け止めてくれた者に語っている.
「貞やん、ありがとう うめぐ受け留めてくれたんだ」

私は顔をあげると貞やんと言われた男は優しく私を起たせたのだった。
「有難う 助かったよ まったく死ぬかと思った」

以下続稿中






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『笑九朗事件綴』漆

『笑九朗事件綴』
2009-1--2009-2--2009-3

2009-5--2009-6--2008-4

2009-7--2009-8--2009-9

『笑九朗事件綴』漆

2002-1--2002-2--2002-3

2002-4--2002-5--2008-3

2008-1--2008-2--2009-4

笑九朗はこの蔵の中に何物の侵入を許さない占有区、或はサンクチュアリ(聖域)的なものを覚えたが、この巨木を守護するというより得体の知れない何かを封印する為に多くの像が配置されているのかもしれないと感じはじめていた。
花は梅介の手を握り締め底知れない恐怖を堪えているようだ。

この樹の場所で過去に何かがあったのか、その怨念を鎮めるために囲いをしてあらゆる宗派の像を配置して この場所から外に影響をさせないために魔方陣のように置かれたのかもしれない。

恐怖という尊厳にも似たこの樹は三人を呑み込むように迫ってくるのだ。

笑九朗探偵日誌●蔵

花は巨樹のあまりにも剛圧なる気迫におされてたじろぎながら後退り逃げ出したかっただろう。梅介は前にも見ているのだろう、口をへの字に曲げ 年上の花の前に陣取り庇うよう拳で仁王立ちしている。花は梅介の腕を強く握りしめているようだ。

「梅介君はいつも この樹をみているんだろう」
「ほだあ、旦那さまと、へぇる(入る)時は全部さぁ黒幕が架かってるし、触っちゃなんねと、いつも言われてだがら。それに怖ぇから呼ばれるまで近づかないで ずっと手前さ突っ立っているのさ」
「すると 今みたいに巨大な羅漢様とかの像にも幕で隠されていたんだね」
「うん だどもこの蔵はいつ見ても気味が悪いだ」
花も頷く

「この樹は普通の生木とは違うようだけど、樹の化石と知ってたかい?」
「化石っていわれでもほだくてね(判らない)けど、二階さあがってみればすぐ判るぞ。樹は硬く伸びて 葉っぱ一枚もない尖った岩のようになってるべ」

「僕はこんな巨大な木化石を初めてみたよ」


木化石-部分


二階にあがるにはどうすればいいのだろうと辺りを見まわす。

「上に行くにはどうすればいいのかな お花さん」
花は指だけを木化石の奥を震える指で示した。

指の方向には、壁に沿って不思議な大きく高い引出しのついた箪笥がビッチリと隙間なく置かれている。
この辺で箪笥といえば仙台箪笥そし岩谷堂箪笥が有名であるが、この箪笥は形は違っているのだ。通称、薬箪笥といわれるような代物で引出しが小さな引出しが壁一面を覆ってあり、全部閉じてある。
傍により首をあげてみても馬鹿高い欅の箪笥というしかなく、普通の階段状に造られた薬箪笥を商家で見かけたことはあるが、これは立方体であり梯子らしきものはないようだ。

すると梅介が一番下にある引出しを引張りだした。中は物を入れる空間はなく四角い積木箱みたいなものが現れた。
大人ひとりが立てる巾である。梅介はその上に登ると、次に一段上の引出しを引っ張りだすと、それはあたかも階段の連続のようになった。これは箪笥に見せかけた機巧階段であった。暫くたつと狭く細長い階段が現れたのである。
「これは‥隠し階段なのか」
笑九朗はその仕掛にまたもや驚いてしまった。ここまで厳重に人を寄付けない建物は何かを隠しているということだ。


 笑九朗はあることに疑問をもちはじめていた。
それは何故、この屋の主は子供だけを伴ってきたのだろう。
梅介とお花は次々と引き出しては登りはじめたが二階にはそれほど重要なものが置かれてあるのだろうか。
笑九朗は箪笥の壁に寄り添いながら、彼らの後を危なげについて行くしかなかった。


梅介は階段を折返して、やがて天井に行きあたる。
「探偵さん落ちるんでぇねえど」
「有難う、ここは高くて危険な階段ですね まったく高い処は苦手だよ」

と節穴のような処に手を入れた。
またなんか仕掛けがあるのだろうか、梅介は手首をモゾモゾさせていたが
「花!代わってくれぇ なんかへんただ(おかしい)ぞ」
狭い階段の上で入れ替わった。

暫く挑戦してたが、花が素っ頓狂な声をあげた。
「なにか上さいるんでねのが 廻らないべ」
泣きそうな声で 私を向くと
「探偵さん上さ来てけろ 早ぐ」

笑九朗は落ちないように箪笥の引手を掴み、ふたりと入れ替わった。
よく見ると天井の部分が小さな円形状になっていて、木目の節穴に手首を入れて中の弾み車を回すと、円形部分が回転するようになっているのだと梅介は語った。
笑九朗は窮屈な節に手をいれ力をいれてグイと押した。
軋むような音がしたかとおもったとたん天井が動き出したのだ。
一瞬、天井が崩れたのかとおもうほどの金きり音発したのである。

天井の動いた部分は、箪笥上部の隠れた部分であり緩やかに回転した。
「またカラクリなのか」

「あっ!!!」
笑九朗は溜息をつき 気を抜いたとたん、空中にほおりだされた。




つづく


御蔵6-20②-1---蔵の天井①2009-5-6




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『笑九朗事件綴』陸

入口

仄かな灯火


『笑九朗事件綴』陸

入口の戸車がやや軋みながら横にひくと 花は蝋燭をかざした。そこは土を突き固められた土間が闇に向ってひろがっていたのである。天井も高く入口の光では見渡す事はできない。
「電灯はここまはきてねぇど」
はなが持っていた手燭の灯を 大きな柱に打たれた楔の上に備え付けられた器に刺し置くと闇に眼が慣れたせいなのか、蝋燭の焔が土蔵の一部を柔かに照らしては揺らめいた。人の陰影が微かに焔とともに命をおびているようにみえる。空気が淀んではいるものの冷気が肌をさす様に痛い。

蔵の闇


梅介は独りで壁伝いに数歩あゆみはじめ闇に暫し紛れこんだ。よほどこの蔵を知りつくしているのだろう。 やがて何かを重そうなものを引きずって私の元に現れると
「蝋燭の灯ば これに移せばもっと周りがみえるべさ」
とボソッと言った。

それは枝分かれして数本の蝋燭がささった不思議な蜀台であった。西洋の教会などで儀式などに使われている蜀台なのかもしれない、これは以前にどこかでみた記憶があった。かって横浜のとある教会を訪れた時に、祭壇に置かれてあった七つの蝋燭に枝分かれしたメノーラーと呼ばれたものに似ていたのである。
「なぜ こんな物が‥」笑九朗は呟かざるえなかった。
メノーラー①

蜀台の蝋燭に灯を遷すと土蔵の中は闇の世界から夕方のほの暗い光に包まれた。年輪を重ねた樹を使用した太い梁が随処に使われている。
「これは凄いなぁ、これだけの梁をつかうなんてザラにはありませんよ」
蜀台の蝋燭に灯を遷し、土蔵の中は闇の世界からややほの暗い光に包まれた。年輪を重ねた樹を使用した太い梁がいたる個所に使われている。周囲は壁から約1m幅程の床板がまるで縁側のように敷き詰められている。

笑九朗は半闇の中央奥を凝視した。
正面を見つめたまま口を押え、そこにあるものに驚愕した。
それはまさしく屋久杉にも似た大木が苫野中央に存在している、多くの瘤を蓄えた巨木が地面から一階高天井に伸びていたのである。天井はその木を包むように巧に隙間無く覆われているようだ。

「この樹はいきているのか‥」
辺りには根がしっかりと地面を掴んでいるように四方八方にのびている。

「大旦那さまはこの樹に耳をあてていたぞ」
「梅介くん、君はいつも旦那さんと一緒だったのかい?」
「んだ、この一階土間まではいつも一緒だ けんどここから動いちゃあいけねぇって言われていつもここでまってるんだ」
花も同じように首をコクリと縦にふった。

改めて眺めると巨木は上に伸び、樹を被うようにこの蔵は造られているのだ。

廊下状の床板には壁に向かっている大きな像が何体か置かれてある。それはまるで環状列石の中心に巨木を置き、守護している配置のようである。
2008-4--2008-5--2008-6

その像に近づこうとした時に 突然あの蜀台の枝の部分が動き始めたのだ。

蜀台が緩やかに回転しての蝋燭は勢いを増し、七つに分かれた枝の蝋燭がひとつの火焔となり竜神のように渦巻状になった。どうやら蜀台は熱を持つと回転するようになる機巧があるのだろう。
一気に土蔵の中は灯火の焔の光で明るくなったのである。

2008-7--2008-8--2008-9



闇にうかびがる2m以上の像が背を向け壁に何体も並んでいた。

地図 陸奥の地図501

そえ、ここは不來方の地  謎の闇の蔵‥
つづく










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『笑九朗事件綴』伍

蔵1木の中



『笑九朗事件綴』伍


蔵⑭----秋④

 梅介と花、私の三人は鬱蒼と繁った樹木に囲まれた敷地の中にある大蔵の入口にたったのである。傍にってみて蔵のあまりの大きさにたじろぐぎ、手入れの行き届いた威風堂々とした土蔵であった。
まずは周囲を観察してみる事にして、辺りを巡ってみたのだが、犬走りの御影石、小手の模様細工、海鼠塀はよほどの年数を経ているのだろうやや雨跳ねがうかんでいる。この蔵を建てた職人はよほど腕のいい都の職人に違いないだろう。
探偵101-2----探偵110-⑨3

一巡りしていると蔵から離れた場所に二階建ての小屋がある。
思わず梅介に向って
「少年!あれはなんだい?」と声をかけた。
すると垂れ鼻を手首で擦りながら
「ケッ、少年ってオラの事なんだべか。オラは梅介ってぇんだ」
「梅が少年だど」と花がケラケラと笑った。すると梅介は照れくさそうに「あれな、あれは井戸小屋だぁ」言い放つように答えた。
探偵110-③4----探偵110-②5

初めてみる井戸の仕組みだと思いつつ訝しげに足を向けた。
よほど釣桶が深いらしく、桶についているロープは二階までのびて滑車がついているのだ。井戸の周りは四本柱があり、板階段が二階まで掛けてあり、し水汲みは重労働で使い勝手がゆるくないだろう。苔むして所々腐っており板が外れたりしていて昇るには勇気がいりそうだ。
探偵110-⑧6----探偵110-⑤7

「今は使ってはいねぇんだ」
「よほど深い井戸らしいね」
井戸の上板がしてありロープが通る部分だけトタンの穴だけの隙間があり、體躯を折り曲げて覗いてみたが暗く下層は闇また闇である。
井戸+++--井戸

「ここさ落ちたら助からねべな」
「ずっと昔、明治の初めだか 女のひとがおちたんだと、梅!知ってるか」
「おらはぁここさ来て三年だども そんたらごど知らねべ」
「本当に深い井戸なんだね」
「皆さ、しゃべるには井戸の傍さきて駄目なんだと」
その時、私は背中の後ろの藪の方から鋭い視線を感じた。しかし振返ると樹木の下藪には誰もいなかった。ただ背筋がゾクッという程の冷たいものだった。

宵 闇柳----探偵100-1

「探偵さんサッサと蔵ばみるべ」花がせがむな眼で私の袂を引張った。



三人は蔵の表に廻り扉の形をみると、土蔵の入口には鎖で播いて大きな四角形の錠が施されていた。
梅介は持参した皮の袋から鍵束の束を取り出すと、その中から特に大きな銀色の鍵を取り出し鍵穴に宛がった。鍵が外れ鎖がもの凄い音を発てて石段に滑り落ちた。
すると梅介はフーッと溜息にも似た大きな息をした。

蔵⑥----秋⑧



探偵も蔵を手前に引張ると重そうな軋みをたてて観音開きに両側に分かれた。すると木製の引戸が現れ、鍵穴があるにもかかわらず梅介は慣れた手付きで象嵌細工の鉄製の飾り部分を私に見せないように二~三度捏ね回した。象嵌細工は豆槌で丁寧に造られたもので、その部分を押してどちらかに回すと本当の鍵穴が出る仕組みらしい。それにしてもこの紋様は鬼みたいな‥確か「ツノ‥‥」とかいったような厄払いの護符のようなと、

元三大師札

「この細工された不思議な鬼みたいな模様の部分が本当の鍵穴ってわけだね、凄いからくりって事だって事だね」
「中央の眼に見える鍵穴はなまやかしの嘘でがんすだ。二本美でこうしねえと真の鍵穴はみつからねんだべ」
「梅は大旦那さまにいつもお供に連れられているがらなんだべよ だがらよぐ知ってるんだ」
梅介は戸に二番目の鍵を入れ、回すと真中から滑車のせいか簡単に開く、すると又、厚い合せ板一枚の塀のようなもので行くてを塞いでいる。
すると梅介は花に向って
「あれ持ってるべ よごせ」
落し専用の鍵棒③-----蔵 鍵-小2009-5-9

花は鉄製のL字型で30cm程の直角に曲がった鉄棒を梅介渡した。
今度は戸の下にある径が3㎝程の穴に鉄棒を差込んで、何かを探すように手首の辺りをやや返したのである。するとコトンとツッカイ駒が外れるような音がしてガラらラと横にスライドさせた。これは「落し」という仕組みでになっているだろうが、結局この蔵は三重の防犯扉になっているのである。これほど厳重にしなければいけない理由がきっとあるのかと思われた。
ここまでやって梅介は私の方を向いて唇を歪ませて声もなく笑ったような顔をした。
「花っ 燈明を点けてけろ」
今度はちょっと威張った口調で花に向い言った。

花は燈火の蝋燭にマッチでシューと擦り、入口脇の柱にある蝋燭に燈をともしながら
「ここの蔵は気持ちが悪いんだべ」
「んなごどねぇ どの蔵も同じだんべ ただ大きいくて暗いだけだ」
子供とはいえ男粋を感じるヒトコマであり、彼らが意図も簡単に蔵扉を開けてしまった事に驚いた。
「君たちは大したもんだよ。さて入ってみようか」

灯かり 蝋燭②

そこは闇の世界そのものであった。

地図 陸奥の地図500
ここは道の奥の國‥。

つづく














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『笑九朗事件綴』肆

『笑九朗事件綴』肆

冬の芽⑩----岩と石①

廊下では舞衣子婦人が梅介に私を蔵に案内するように告げているのがうかがえた。錠を両手で受取ると重そうに私の方をチラリとみた。
やがて婦人は傍にやって来て
「探偵さん申し訳ねけんど この梅介と一度蔵を観てもらえんすか」
と言いつつ奥に向って花という女中をよび、花、お前も梅介と一緒に行くようにやや甲高いこえでいいつけた。
私は構わないと言いつつ立ち上がろうとした。すると背中から声がした。
「それから探偵さん、夜汽車で来なすったんでしたねぇ、内の主人と同じ背格好だから帰ってきて風呂につかったら洋服を使ってくださいな」
「それには及びません」
「遠慮しねんでくだせいなぁ、それに衣類を洗濯させますから‥部屋も離れに用意させあんす」
確かに早春とはいえ着の身着のまま人形町の事務所をとび出してきたので汗で汚れて臭かったのを気ずかってくれたのであろう。赤面しながらご行為にあまえることにしてか感謝の辞を述べた。

 商会の事務所と母屋は棟続きになっていて、廊下の棟木は材木一本からなっていた。廊下は掃除がいきとどいているのだろう、黒く鈍いひかりを放っている。庭には名石と思われる巨石が三つあり、池には風情を漂わせている。

庭石②----庭石③


東北には珍しく石榴(ざくろ)の木があり天辺に残された果実が萎んで黒くなり時期がくればたわわに穣のだろう。ひとつ残すのはおそらく神への感謝をこめた木守り柿の風習だろうか。
地面をみると、東北でバッケと呼ばれる蕗の塔が出ていた。この蕗の塔は酢味噌和えとか天麩羅にするとほろ苦く春を味あえるものである。時間があれば作ってみたいのだがと‥。

石榴(ざくろ)----ふきのとう③
突然、
「もっし、ト・トウ・東京の探偵様!」
声の方向に目をやると梅介と花が私を見上げていた。
東北のこの地方では話す前にモシとかモオスとかつかいのである。 漢字でかけば申し上げるとかもの申すと解釈するとつじつまがあうようだ。

「梅介君と言ったかな」
「んだ」
横から年上の花が「なんだ梅!んだはねえぇべ ハイだぺ」
「んだ、ハイであんした。でもお花もうっせぃぞ」

梅介は普段はウメと呼ばれて、十五・六歳の娘はオハナという。少年は声変わり前だろうか十三歳くらいだろう、ボーイソプラノみたいなかなり甲高い声で話すのだが、二人とも話す言葉は東北弁まる出しで、まるで外国語のように聴こえる。そういう訳で、聞き返すことがしばしばである

池の周りを廻り林の奥に大きな蔵が出現した。
はるの池----蔵25

建物でいえばゆうに三階建てもありそうな巨大な建物であった。
「ところでお花ちゃん、失踪となると警察には届けたんだろうね」
「ほだくでねぇども(判らないけど)、奥様は届けたり他人に喋っちゃなんねぇと‥」
「ほう そうか、私を東京から招いたのはその辺にありそうだね」
「おらも言われおん」
「じゃあ梅介くんは旦那さまがいなくなった時には一緒じゃあなかっただね」
「‥‥」
「梅! はっきり喋らんと探偵様が困るんでねが」
花は梅介を叱りつけるに詰った。

「おらぁ旦那さんがいなくなった夜だども、寝小便をちびりそうになって外の厠さいったのさぁ」
「それで」
「その日は春だのに雪っこがさあーとふっててなぁ」
花はじれったこうに
「みたのが 旦那さまを!」
「ほんで、旦那さまが雪の中を独りで大蔵さぁ寒そうに歩いて行ったんだ。だども‥」
「なんかおかしなことでもあったのかい」
「行くときは雪に足跡がついていたども 朝起きてからみたっけ 帰りの足跡がねえんだ」
「行ったきりってことが 何でそれば奥様さ言わねんだ 梅!」
「昼前に雪こが溶けたから てっきりその後に出てきたと思ったべぇ」

なんとこの少年は、昼近くになっても姿をみせない主人の事で 家中が大騒ぎになっていたのを知らなかったのであろうか。几帳面と聞いている男は、鍵を掛けずに他に行く訳はないはずだろ‥。するとまだこれから入る大蔵の中に身を潜めてるかもしれないのだ。

ゆきのあさ----蔵⑰

そして この事件は意外な展開を見せはじめるのである。

こずかた③

不莱方町は三本の河が町のど真中で合流して発展した古い町である。

つづく  ‥かな




































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『笑九朗事件綴』参

はな迎え----碾臼②

『笑九朗事件綴』参


蛇行する川 ----セピアの街

割烹着を着た女中とおぼしき若い娘が静々と紅茶と和菓子を持ってきた。
カップをテェーブルに置く時に微かに金属音がした。
驚いたことに、強い甘い香りが部屋中に漂うい、心地よく芳しい空気が鼻をくすぐった。
この香りは‥インド産の頭部で生産されたダージリンだろう。ひとくち飲んで香りとその渋みの中の深みがなんともいえない。
婦人は紅色の唇を微かに震わせ
「長谷川さん まんつめし上がってくなんせ」と探偵に勧めた。
春の和菓子②

「あっはい ありがたく戴きます」
「長谷川さま、先ごろ手に入ったベンガルの紅茶だどもいかがですか、ミルクでもお持ちしましょうね」
「いやいやそのままで 十分です。東北でこれだけの品がいただけるなんて思いもしませんでした」。
笑九朗はいままでに飲んだ紅茶のなかで、日本の早摘み緑茶にも似た不思議な甘さを堪能したのである。ダージリン地方は寒暖の差の激しい高地であり、春に摘んだ葉を醗酵させないものがあるという。
「宅の主人惣吉は英吉利(エゲレス)に遊学していた時期がごあんして、私が嫁ぐ前から茶といえばこれであんした」
「私も紅茶は好きなんですが今までかような高級といいますか上品なものをいただくのは初めてでして‥」
探偵の眼鏡が湯気でくもって婦人の顔が霞んだ。
「東京からお呼びして申し訳ながんす。辛い長旅をさせてしまったんでねすか。まんつ、ねまって(ゆっくり寛いで)もらおうと思ったけんど旦那さまを探してもらわねばなんねぇしぃ」

和室廊下①----傘電灯

笑九朗は恐縮しながら訪ねた。
「中米内氏は誰か他人に恨まれていたという事はなかったでしょうか」
「えっ、旦那さまはそんなひとではねっす」
唇をきっと引き締めて否定した。
「例えばのはなしです、お気を悪くされたら陳謝いたします」
「惣吉様は人望も厚く人様に指を点されるうな者でねのっす  ‥ただぁ‥」
「なにか気にかかる事でもありましたでしょうか」
「あのなはん 気になるといえば蔵の鍵のことなんだども 当家には蔵が何棟もあるんがんすぅ」
「はいここへ来る途中にも海鼠紋様の蔵がたくさんございましたね」
「蔵はいっぺあるけど 外国から仕入れたものを保管する大蔵には、旦那様しか鍵を持ってながんす 妻の私もなかなか入れさしてもらえません」
「すると鍵をつかい蔵の中にはいつも御一人で仕事の出し入れをなさるんですか」
「そうでがんす。ただ貴方様を停車場まで迎えに行った小僧の梅介だけはいつも手伝っているようでなす」
「あっ あの小僧さんだけがですか‥」

蔵⑮


「ところで最初に商館に伺ったときにカウンター脇のショーケースに高価な宝石が無造作にと言っては変ですが置かれておりましたが、宝石のご商売もなさっているのでしょうか」
「昨今の流行とでもいうですか、なかなか売れ筋がよろしいとか聞いてあんす」
「宝石の下に敷かれております皮に描かれた紋様は珍しいものでしょうね」
婦人は「ほほほほッ」っと笑いながら
「あれは主人の趣味だと聞いております、もっとも私は気味が悪く、恐っかねぇし 本当は嫌なんでござんすが、惣吉が大層気にいってるもので 無下に反対はしねぇんでがんす」
「いやいや私もなんか久しぶりに見た図柄なもので ちょっと気になりました」
どうやらあの紋様が何を表しているのか知らないようである。
庭の木々----蔵22

舞衣子は手を二度ほど叩くと先ほどの女中がやって来た。
「花さん、梅介をここへ来るように言っておくれ」
と言いながら着物の裾と襟をを直した。
花は肯いた後、憶座敷の中に駆け込んで行った。


蔵⑯

元不莱方藩で現在は不莱方市という東北では中ほど街である。
探偵はあの皮の図柄がこんな田舎町に人目に晒すように置かれていたのか訝しげに腕を組み左人差し指で眼鏡のなかほどを押し上げた。

不來方藩----和室④+


つづく















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『笑九朗事件綴』弐

『笑九朗事件綴』弐

蔦洋館②


お辞儀をしながら、東北にしては素晴らしく鼻筋の通った美しきひとでございまして、どこか花柳界出身のような着こなしで普通の男ならそそられるほどの婦人でした。
婦人は当家の奥方で中米内麻衣子と名乗った。
「下駄と足袋は新しい物を用意しておきます まんつこちらへ‥」
「こんな恰好で失礼いたします」
笑九朗は足袋のまま婦人の後をおって商館に辿りついた。

婦人の案内で田壱が表の硝子戸を曳くと古めかしい一枚板の厚いカンターが置かれており、壁には不思議な図が貼られてあ.る。
絵図3

絵文字地図 紫がかった黒いムツと言う魚を陸奥に嵌めた絵地図がだが、なかなかのものである。識字率が低い時代に絵をもって知らしめるのは南部めくら暦などにあらわれている。又、江戸の判(はん)じ絵(注①)は洒落などで謎かけみたいな遊びのようなものである。めくら暦も江戸暦に端をはっしているそうだ


注① はんじ絵
江戸暦----判じもの


探偵はこの商家が多種多用な雑貨を商っているのだとおもいつつも、傍らの硝子製のショーケース中を覗きこんだ。
すると中には高価な宝石類が並べられてあった。
しかしそれらの下に敷かれた布にはなにかしら畏怖の念をいだいたのである。
ショーケース①----ショーケース②   
「なんだ この図柄は‥」
次のショーケースには   
思わず 息を呑むような異様な空気がながれた。
次のケースには宝石の指輪などがやはり西洋歌留多の上にならべられてあった。
ショーケース④----ショーケース③ 
ケースのなかに見入られたまま‥

肩に何かが触った。
目で振り返るとあの婦人の蒼白い手であった「どうなさいあんした」
「いえ、なんでもありません ところで私をお呼びになったのは‥」
「あなた様にお願いしたのは私なんでであんす」

奥の洋間の応接間に通されてその頃田舎では珍しい外国のものらしいソファー座ると、舞衣子は淡々と語りはじめた。

「するとあなたの御主人の中米内さんが行方不明になったというんですか」
「わたし主人は若い頃から度々西洋に渡りまして様々なものを仕入れては販売しております」
「御主人の中米内惣吉さんのことですが、なにか出先に心当りでもありますか」
「へい、最初は花街でも行って腰を据えているのかと思っておりあんしたですよ」
「それで皆さんで探したですね」
「そうなんです。ところが三日前になって小僧が蔵の鍵が開いたままになっているというんですよ」
「蔵の中は当然お探しなったんですよね」
「はい、屋敷中、蔵の隅まで家の者全部でさがしました」
「ほう、では他に出掛けたままというのは‥」
「それはございません、蔵の鍵は主人だけが持っていていまして主人の性格上開けたままで出かける人ではありません」
「すると何かしら事件に遭われたという可能性はありますね」
「‥そ・そうでゴあんす、ほんでもって知人のつてで探偵様のあなたを電報でお呼びしたんのっす」

笑九朗はこの行方不明が大きな事件の発端となることを予想だにしなかった。

ここはみちのく 不來方の國
【地図】陸奥③+
総てはここから始まったのである。


つづくのであります。
製作中
















☆彡
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『笑九朗事件綴』壱

レンガ塀②----レンガ壁①

『笑九朗事件綴』壱

『蔵という匣の中へ そして事件は‥』

路----路②

路③


北上川を利用して米を江戸や京都へ送るために川岸には多くの蔵がたちならんでいる。平瓦を土蔵の下部に張り、目地に漆喰を半円形に蒲鉾のように盛り上げた海鼠壁の蔵は、この北国でも耐火や防水のために商家や豪農が競って造られたようです。
蔵④


櫻が咲くには暫し早い路地を下駄履きの男は駆けていた。
その先を丁稚とおぼしき小僧が指を前に示しながら言った。
「探偵さん こちらでがんす」
「おいおい、待ってくれたまえ」
探偵いわれた男は帽子に手をかけて皮鞄を振りながらマントを閃かせた。
笑九朗 ①


途端、下駄の鼻緒が切れた。
男は路地の砂利道で扱けたのです。
笑九朗 ②

「痛てっ」
小僧は立ち止まり
「どってんしたんかぁ しょがねなぁ」
腰をしたた打って切れた鼻緒と割れた下駄を持ちながら
「かなり良い岩泉産の桐下駄だったんだがなぁ、勿体無いなぁ」
っと呟きながらロイド眼鏡を拭いた。
薪①----薪②

その時、小僧の指差した方から女の声がした。
「あのぅ あんたさんが東京から来なすった探偵さんでがんすか」
足袋のまま男はヨイショとばかりに立ち上がり
袴を手でパタパタ叩きながら照れくさそうに
「はい、お初にお目にかかります。私はハセ・ハセガワ ショウクロウ 長谷川笑九朗と申します」

それは事件の発端でした‥

こうして探偵 長谷川笑九朗 は頭をボリボリと掻き毟りながら元不來方(こずかた)藩の豪商と謂われた 慈總(じそう)商会とかかれた磨り硝子戸の前にたった。

蔵⑧


東北古地図

その杜は陸奥の國にあった。

















☆彡つづくかどうかは定かではない
とにかく 継続中


※写真、ならびに人物・地名はすべて架空のもので本文とは関係ありません。写真はイメージを表現するもので多くは手前のものを使用しておりますが、もしご迷惑をおかけする場合は削除いたしますのでご連絡をください。
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九六

Author:九六
好きなものを自由に書く、読む、観る、描く。そして遊び愉しむ。
【※】【玖絽・by96・九六・九路・KURO・物部黒彦】【96猫國から発信】
【※】-半世紀分の散らばした気侭綴ゑ-

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