九六の匣

さまざま詰めこんだ匣

『コセの國とイーダァ國 八拾日物語』【陸】

『コセの國とイーダァ國 八拾日物語』【陸】

【陸】『月の塒(ねぐら)』

月の塒


今日という日は月を捕えることができる日なのです。
少年は月を入れる為の篭を片手に持ち、蒼い色のついた眼鏡をかけなおす。そして 遠い北の國から来た商人からてに入れた 竹でできた唇で鳴らす楽器を大事そうに 胸ポケットに仕舞いこんだ。少年の顔は上気して赤味をおびているのです。そう 気分は大漁なのです。

オールドムーンが増してきて三日月は痩せ細ってきた。月の欠片が月塒(つきねぐら)と呼ばれる高原にキラキラと舞いながら輝き落ちてくるんだよ。
オールドムーンというのは月の暗い部分で やや薄暗くなっている部分なんだ。地球の照り返しが月を明るくしているんだけどね。
その部分がある特定の夜になると、まるでパズルのピースみたいに地上に光の蟲のように降ってくるんだよ。
形は小さな三日月、とても素早くて簡単に掴まえるなんてできないけど、竹の楽器をつかうと、不思議なことにいとも簡単に指で捕まえる事ができるんだ。

掌より少しばかり大きめで、竹でできた楽器を左手で頬に固定したら 軽く唇を添えながら指で紐をはじきます。そうこれがムーンムックリという楽器なのさぁ。
少年は口の中で振動させながら共鳴させ、頬を大きくしたり小さくして音色の強弱を醸しだすのです。

月の欠片たちは このムーンムックリの音色が大好きなのさぁ。まるで猫がマタタビが好きなようにフワフワと酔ったようになって漂うのさ。
そうなるともうこっちのものなのさ、指で捕まえて持参した瓶に詰め込む。そして夜明け前の滴る露を加えると 太陽の中で醗酵して とてもまろやかな お酒ができあがるんだ。
さぁ 出かけるよ。
そろそろ現われるころだ。
あっそれから忘れちゃいけないよ、蒼い硝子の眼鏡をね。
指で触ると凄く光輝くよ。
まともに観たら一週間はなんにも見えないぞ。 
じゃあ出発。
その篭と瓶もわすれずにね‥。
少年は意気揚々と月塒(つきねぐら)の高原に歩きはじめたのだった。

湿原の月

射干玉乃玖絽[ぬばたまのくろ]

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『コセの國とイーダァ國 八拾日物語』【伍】

『コセの國とイーダァ國 八拾日物語』【伍】

【伍】『遠い記憶』

ただ泪がこぼれた。

石化した人々は闇の中にたち尽くしたまま 幾つもの夜をすごしていく。
二度と動きだし奏でることはないだろう心の臓も 今は崩れはじめている。

眼は星に反射して淡い桃色真珠のように煌めく。
空洞化した唇とおぼしき場所は欠けて風に粉をまきあげている。

くろき衣のシーフ達が呟く。
「まにあわなかったわ」
「そうね 塊が朽ち果ててしまってますね」
「どうにかならないの」
「いまのコセ医学じゃ 無理なんだ」
「この病の原因はわかったのかしら?」
「うーん 噂なんだけど 天空より闇の針が降ってきて身體にとりこまれるらしいよ」
「や・やみの針って?」
「それがねっ 見える人には判るらしいんだ」
「可笑しいよね 針が落ちてくるなんて」

闇の風が石を廻りて 風化した粉を掠めていく。 サラサラと奏でる調。

「どんどん風にさらわれていくよ」
「こんなになって 石化した人は哀しんでいるよね きっと」
「ひとの記憶は 別れた時のまま残ってしまうんだ」
「かたちはかわっても 記憶のシワに刻まれてしまうからね」
「わすれないわ‥覚えておいてって言ってる」


すべては 闇にただずんだ石の中にとじ込められたまま 
風の調べを奏でる。

やがて 闇は静かに去りゆく
コセの國に新しい一日がはじまるのだ
サワサワとシーフが走り去る
まるで地面に吸いこまれるように彼らは消えていく

一瞬、立ち止まった者がいた
しらみかけた空の下をじっと眺めている

「あれを観てみて」
「えっ」
「ほら あの木の右に妙に光り輝くものがあるだろう」
「なんかあるの? わたしにはみえないよ」
「‥‥そうかぁ やっぱり ひとによるんだね」

彼の眼には 天空から真っ直ぐに伸びた光の筋が 煌いていた。
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『コセの國とイーダァ國 八拾日物語』【肆】

『コセの國とイーダァ國 八拾日物語』【肆】

【肆】『撒布』

さきほどまで煩く鳴っていた太鼓の音は もう噤(つぐ)んでしまった。
かわりに 塔のなかから 神官たちの声帯を伸ばした 読経が微かに響く。
口腔と鼻腔の振動は 異国の奇妙な倍音ホーミーにも似て、
心の底が共鳴するのだ。

闇に不思議な布が舞いはじめた。
漆黒の覆面と衣服を纏い いくつもの影が蠢く
これらがシーフたちなのだ。
サワサワと足音を忍ばせて 奴らは家々の戸口を覗っているようだ。

ネンの國の人々は声をひそめて 灯りを隠しているのです。
さきほどまで星売りと話していた少女も 布団の中で震えているだろうに。

でも シーフ達は 何故、街にやってくるのだろう。
街の人を襲い 物品を奪った話はあまり聞こえてこないから、
別に目的があるのだろうか。
そう 彼らはガラトンの病となにかしら関係がありそうだ
ネンの國に謎の病気が流行、多くの人々にちいさな星の斑点ができはじめ
身體全体にひろがると 石化してしまう。
彫刻のように人々は路上に置き去りにされてしまうのだ。

そんなころからなのだ。彼らシーフがよなよなやってくるようになったらしいのだ。
黒い衣の中はどんな種族が息をころしているのだろう。

サワサワと彼らが石畳の道を走っていく‥。
すると彼らは水鉄砲のようなもので 
細かい霧をいたるところに噴きかけているようだ。

(つづく)
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『コセの國とイーダァ國 八拾日物語』【参】『シーフの夜』

『コセの國とイーダァ國 八拾日物語』【参】

【参】『シーフの夜』

どんどろろ どんどろろ 
唸るようにネン(念)の太鼓が街に鳴り響く

「あっ もうこんな時間なの こんな事していられないわ」
「紅い星屑をご入用では‥?」
「星屋さん!時間がないの この次にまた呼びとめますからね またキットきてよね」
「‥はい、今度はガラトン病に効く紅い星をおもちしますから‥」

少女は木戸を閉めて屋敷の奥に駆けていった
星売りはちょっとばかり 三つ編みの少女の屋敷をみつめていたのでした

ガラトン病というのは謎の病気で 最初は、身體(からだ)中にちいさな星の斑点できて
最後には 身體全体にひろがり 岩のように石化してしまうのです

でも 紅い星屑を煎じて飲むと 治るわけではないが 進行が止まるらしいのです

どんどろろ どんどろろ
ねりあるく太鼓が耳にひろがる

もうすぐ 闇がやってくる
星売りの小僧さんも 駆け足で袋を抱えかえっていく

高い塔の上からみると 闇が静かに沙漠を這ってくるのがみえる

どんどろろ どんどろろ
もうすぐ シーフの夜がやって来る
早く閂をかけないと 
急いで窓にめ張りして
燈を隠せ

ほらほら もうすぐシーフの影がやってくる
どんどろろ どんどろろ
塔の太鼓が もうすぐ鳴り止むぞ

(つづく)
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『イーダァへの旅立ち』

『イーダァへの旅立ち』
いま むかわんとす
イーダァの國へ
友よ 仲間よ 夢をのせて 
羽根をはばたかせ
足袋にのりて‥

①-1

①-2

①-3

①-4


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『コセの國とイーダァ國 八拾日物語』【弐】

『コセの國とイーダァ國 八拾日物語』【弐】

【弐】星屑売りのいる街  ネン



「星屑はいらんかーねーぇ♪」
奇妙な節まわしの 星売りが袋を肩から斜めにかけて通り謡ってる

私の修行は ひと段落して 部屋の窓から外を見つめていた
この部屋は高い塔の上にあり ネンの街を一望できるのだ

星売りは何度目の街の角を曲がると 古い日干し煉瓦の屋敷の裏手にでたのだった。
木戸を僅かに開けて顔半分だけだした少女が 声を掛けているようだ

「星屋さん ちょいと星売り屋さん」
「ヘェーイ 御用がおありでぇ?」
「‥‥もっと静かに話せないの 近くにお寄りなさいな」
「すまんこってございます」
やや声を密やかに星屑屋は首を垂れ 
眼だけを上目遣いに応えているようだ

私の耳と眼は 宙をとび 二人の会話をききとることができる
それは ネンの神官から教えられた 不思議な技

「今日の星は 全部屑だけなの?」
「今日はたいした出物がなく 細かい品ばっかりでござんす」
「そう残念ね なら ガラトン病に効く 紅い星屑はないの?」
「ガ・ガラトンの病(やまい)ですかのう 紅い品はあるにはあるんですが‥」
「なによ ないなら無いってお言いなさい!」
三つ編みの少女は自分で声高になったのを恥じて 口を押えた。

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『コセの國とイーダァ國 八拾日物語』【壱】

『コセの國とイーダァ國 八拾日物語』【壱】

コセの國ネンに街に着いたのは
そう 去年の霜降月 弐日こことだった
ざわざわと胸騒ぎ
漆日には福を呼び
真白き衣物の神官が 私の様子を訝しげに覗く

その後は 笑え唄えの大騒ぎ
花火は連続であがって
嬌声が あちらこちらで甲高くひびく

翌日の捌日は 
摩訶不思議なる真黒き曼珠沙華の華が周りを囲む
花びらのなかから伸びた 真白き蕊をとりて
舌にのせると もう儀式ははじまっていたのだ

意識はきえて 二十と二日の間 
私の眼は醒めなかった
そこはネンの街の儀式の建物のなかに 
ポカリと浮んだ自分を 
みずからの五感でかんじることができるのだ

揺り動かされて
けだるく眼をあけるが
瞼は絲をひき 簡単にはひらく事はない

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『ガーシン』

『ガーシン』

とおい ずっと とおい昔
あるいは ずっと先のお話なのかもしれない
時の感覚がない世界の おはなし

かれは イーダァの国を 離れた
かれも旅人まま 戻ってはこない
時折 季節の風が木の葉に記された手紙が届けてくれる
文面には 家族ができたこと
違う世界を旅したこと
そのつど かれの人柄あふれる内容が書かれている

イーダァの国をわすれてはいない
でも今はもう 別の地に住み慣れてしまった事など
子供がふたりいて
上は女の子
下は男の子
家族のことが書かれていた

ギンドロの木の下で
縦笛や太鼓をうちならし
踊り 跳びはね 謡い
季節は時を越えて いかようにもかわる

つらい ことなど ひとつもないように
声たからかに笑う 
いつか また
君と逢いたい

イーダァの国にわたしはいつもいる
もしあなたが 望むなら
足袋なる鳥を さしむけよう
わたしたちの故郷 イーダァは
扉のむこうに あるのだから


kkkk


oooo


uuuu

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イーダァの国 春の国

イーダァの国

また イーダの国に行かねばならない
この国に わが身を 委ねることとなりそうだ
-九六

イーダは正式にはイーダァと発音する
eee

ttt

jjj

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『羽根亀』

『羽根亀』

『羽根亀』


羽根亀(小)


ひろしくんと不思議な国 


【羽根亀のレース】

そう あれはいつだったろう
とある村を通りかかったら
昼間花火の大きな音が 
つづけざまに蒼い空にこだました

ぞろぞろと 多くの人々が
丘の杭のある方へと 歩んでいく

「今日はいいレース日和よね」って
フリルの日傘を 肩でまわしながら愉しげにあるいていく

もう 最初の前座レースははじまっているようだ

(九六)



九六--

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Author:九六
好きなものを自由に書く、読む、観る、描く。そして遊び愉しむ。
【※】【玖絽・by96・九六・九路・KURO・物部黒彦】【96猫國から発信】
【※】-半世紀分の散らばした気侭綴ゑ-

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