九六の匣

さまざま詰めこんだ匣

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【神々の塒】第拾九話 月黄泉の娘

【神々の塒】第拾九話 月黄泉の娘

「ウオーーン ウォォーン」
「悠矢が泣いているよぅ」
溝の下には 変身した悠矢が哀しげな声をあげて泣いていた。
「彼は無理矢理、村の為に黄泉の國の戸喫(へぐい) をさせられてしまったの」

三人は 帆のかな灯りの登坂を黄泉の通路を出口に向って黙々と歩きつづけた。
先の方に松明の揺らぐ灯りがみえた。
「誰なの?」
「私ですよ、山田です」
「助かったのね、良かったわ」
山田は壁に寄りかかり座り込んでいた。
落ちた後、宮司さんの遺体をみて一目散に逃げて来ていたのだった。
「皆さん無事で良かった、探しましたよ」

ところが突然 フラフラして元気のない梓乃をみて 毬胡は問いかけた。
「どうしたの 彼が大事なのはわかるけど 元気だして」
すると梓乃は、力なく答えた。

「毬胡さん、侃奈さん ごめんね 私‥なんか体がおかしいの」
「彼はもう 鬼神なのよ 戻れないのよ 諦めたほうが‥ねっ侃奈 そうよね」
「そうよ もう直ぐ 出口よ 頑張って帰ろうよ 梓乃ちゃん」

「‥この左手をみて見て あの円形の部屋で 彼の腕時計をひろったの
そして 壊れると思って あとから腕に嵌めたわ」
「ああ!そんな 梓乃ぅ 黄泉のものを身につけたのね」
「腕首が 蒼白く透きとおって 輝きはじめているわ」
「このままいっても あの大岩は きっと越す事はできないわ、もしかすると私も【キ】になるのかしら」

「なぜなの 何故 もっとはやく云わなかったの すぐならきっと私の禊水が効いたのにこれは 出羽霊山の禊の水が入っていたの とにかくかけてみるわ」
毬胡は香水の瓶の禊水を梓乃にかけた。
「駄目‥‥遅かったわ 効かない 泣きたくなってきたわ」
「何故なの どうして !!」
「ありがとう 毬胡さん もういいわ」

「梓乃ちゃん あなたでしょう 私たちを集めたのは?」
「そう ごめんね どうしても悠矢を救いたくて 隠れた能力の二人を来てくれるように 強い力で 念じたの そしたら‥」

「あなたは 間違ってはいなかったわ 私の力を判ってないでしょう?」
「侃奈ちゃん あなたの能力があるのは判っていたけど手を触ってもわからなかったわ」

「腕時計を外して 手をみせてごらんなさい」
侃奈は梓乃の手をとり両手を軽くあてがった。
「熱い!侃奈さん 凄く熱いわ」
「侃奈ちゃん あなた」
毬胡も驚きの眼で侃奈をみつめた。

梓乃の手首を擦っていたが
「さあ 梓乃ちゃん これでいいわ もう大丈夫 帰りましょう」
「あなたの能力は万能なのね」
「でも間にあって良かったわ」
これをみて山田も愕きながら
「貴方方は凄い娘たちだ」

「‥悠矢とは もう逢えないのかしら?」
「彼は もう 救えないの 人の血を啜り、肉を食べたの もっと早ければ助けてあげたかもしれないけど 私でも全て もとに戻すことが可能というわけではないのよ」
「‥」
「私は 幼いときから あまりにも能力が強くて、婆ちゃんが私の能力がコントロールできるまで 封印したの」
「そうだったの」
「私は神社の娘、巫女の名前は『月黄泉』というわ」
「月黄泉って月読命のことかしら?」
「そうかも知れないとおもうわ、毬胡さんの能力は 予感の他に 素晴らしい知識にあるのね」
「そんな人々がいるなんて つまり神の娘なのね」


【神々の塒】 第弐拾話 エピローグ

不思議な伝説があるという。
それは東北のある山の洞窟に、神々の塒(ねぐら)があるというのです。

神無月には各地の神がいなくなる時期である。出雲に出向く 八百万の神々がいて
他の土地は神無月となり出雲だけが神有月となるのである。
だけど、稲荷神社は始終 その地にいついて離れることはないとも云われる。
人里離れた ひとも訪れない神社の奥の宮は
どこか無限の世界に続いているのかもしれない。
そこにいる神とは 私たちが知らない 異形の神なのかもしれないのだ。
神々は じっと時を喰み 体を潜めて 誰かが自分を必要として
奉ってくれるのを待っているかもしれない。
もしあなたが 祠(ほこら)の前を通りかかったら 古代の土着神々は塒(ねぐら)から
あなたに話しかけてくるかも しれないのである。
神の塒(ねぐら)という 依坐(よりしろ)は 個々の心の中にあるのだから‥‥。


あれから暫く経って
里の出口と思われる道を侃奈と毬胡と梓乃の三人はバス停に向い歩いていた。

全て、祭りは終わり 悠矢は磐屋の奥、黄泉の世界へ神となり閉じ込められた。
磐坐(いわくら)の奥は闇 9年後に また摩羅【キ】神は現れるのか
遠い遠い山の地下深く 鎮められてしまうのか 先は判らない。

ただ 梓乃の愛がこんなにも強いものだったと 改めて 考えさせられた。
道路の脇の 小さな岩に夫婦和合の睦あった道祖神ある、
周りに 小さな花が咲きみだれて 何事もなかったように風にゆらめいた。

毬胡がぽつりと呟いた。
「まだ 匂うわよ梓乃ちゃん」
「嘘ーっ 毬胡さんのせいだからね」
「ハハハハッ」
「また どこかで逢おうね」
侃奈は 塞の神を超えて手を振った。
荒吐村は季節の節目をむかえていた。

【了】九六

【参考資料】
『古事記全釈釋』植松安・大塚龍夫共著 東京不朽社蔵版
『風土記集』大日本文庫地誌篇、
『風土記日本⑤東北・北陸篇』平凡社
『菅江真澄遊覧記』①―⑤内田武志・宮本常一編訳 東洋文庫
『みちのくの庶民信仰』及川大渓 国書刊行会
『建築古事記』岡野忠幸 東京美術
『歴史考証辞典』稲垣史生 新人物往来社
『古代史の結論』豊田有常 青春出版社
『中国雑学物語』香坂順一 毎日新聞社
『図説・呪詛 神通力入門』異魔人 啓明書房
『日本古代史と遺跡と謎 総解説』自由国民版
『路傍の神様』川口謙二 東京美術
『宿なし百神』川口謙二 東京美術
『古代史推理ガイド』古代史斯道会編 学研
『日本古代史の基礎知識』歴史読本臨時増刊 新人物往来社
他多数。【感謝】
【通読 多々感謝】

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『神々の塒』 第拾八話 「月黄泉の仕掛」

『神々の塒(ねぐら)』 

第拾八話 「月黄泉の仕掛」


侃奈は両手を大きく広げると 眼をとじた。
ゆっくりと両手をあわせると かるい唸りにも似た声をはっした。
ひとさし指をたててゆっくりと呟いた。

「うーん、今、封印は解かれ吾に帰す‥」

片方の掌をかざすと ユラユラと桃のような炎が立ちのぼる。
微かに山が唸りだしたかと思うと 微振動がおきた。

「梓乃ちゃん 毬胡さん 早く縁まで上がってください」
「侃奈ちゃん 地震みたいな振動が ずーと 続いているのよ」
「毬胡さん もう一歩よ 頑張って」
-侃奈ちゃんが 浮いている-

三人はすり鉢の縁まで登りきって 後ろを振向いた。
ほんの数メーター後ろに『夔-キ-』(異体)が臭い息を吐き迫っていたのだ。

侃奈は掌から蒼白い桃状の炎が縒りを織るように 小さな竜巻状にいく筋も異体に向ってゆく。すると あちこちの大小の岩穴から 何百、何千の白い蛇が次々に飛び出しすり鉢を降りて異体のものに向っていく。白い蛇が 胴の部分に這っていき、何匹も絡まっているのだ。
「クククククェェェーッ」空間に悲鳴が木霊する。
白蛇を踏みつけた異体はズルリと滑りながら 転がり 底まで滑り落ちていったのである。

「フウ!あとは 月読の神が なんとかしてくれるわ」
「えっ 侃奈ちゃん 月読ってなんなの」
「月の満ち欠けの神で 黄泉の世界を開閉するのよ」
「やっぱり ここが黄泉の入口なのね」
「毬胡さん下を見てみて!」

すり鉢の上から 『夔-キ-』のいる九層の床が 音もなく降下していくのだ。まるで エレベーターが沈んでいくような 妙な感覚である。

「逃げようよ 早くぅ!」梓乃は二人を急かして言った。
「大丈夫よ もうここまでは上がってこれないの」
「何故なの」
「みて御覧なさい 九泉(黄泉)の地面が 新月になると 地底の闇に落ちて行くのよ」
毬胡は下方をみながら 頷いた。

いま、九層の床は 音もなく速度を増して下がっていく。
黄泉の口がポッカリと開いて どでかい竪穴になってしまった。

「本当に大きな床が一気に抜けたようね」
「父のノートに記述があったの 闇月が終わり 祭りが最終日にかかると黄泉が口を開けると‥
そして 九年かかって床がせり上がり 熱い泉が湧きでる。 それが九年祭なの」

『夔-キ-』は九年後に再びこの場所に届き至りて 生贄を貰い成長をする。しかし祭りが終れば床が沈降して 逃げられないように縦穴となり地上にはでられなくなるのだ。地下の底で 哀しげに悲鳴をあげ、聞くものにはとうに今は亡き者、二度とかえらぬ者の声に似て 世の苦しみを一身に受け悶え苦しむのだと書かれてある。

「侃奈ちゃんは 空中に浮く事も 白蛇を操ることができたのね」
「二人に判ってもらいたいだけど 今のいまで私の真の力は大部分は封印されていたのよ」
「どうしてなの」
「祖母が子供の時に 私の力が余りにも強いために 暗示をかけて封印をしたのね きっと」
侃奈は、今回の異体ことで 月読の巫女の封印がとかれたと思うと話した。

「梓乃ちゃんには 残念だったわ‥」侃奈は失意の梓乃を慰めた。
「悠矢さんが あの怪物の生贄になつたのか 或は体に取りこまれたかよく判らないけど二度と人間には戻れないのよ」
「あれが人間の変異としても ああなっては自分を認識していないわよ、もう人間じゃないのよ」
「ゆうやは 私がいる事さえ判らないのね」梓乃は泣きべそをかきはじめた。

荒鬼神社の摩羅丑神 鬼神は『夔-キ-』と呼ばれ 異形の怪物であった。
彼の耳は牛の形状で、角はなく 手は退化し瘤(こぶ)のようであった。
まるで 双頭の巨大芋虫のようなものが 温泉水の中で生き続けてきたのだ
ではなぜ 村人は丑神として奉じて祀ってきたのかといえば、理由があった。

縁起によれば、荒吐村は、東北ちほうの山間部に位置し 気候は厳(きび)しいものだと思われがちだが、古くより飢饉が一度もない恵まれた村であった。耕作地に適さない土地の人々は それでも この土地を離れようとはしなかったのである。
摩羅丑神が、村を鎮め守り常に温暖な土地環境を維持していたと思っていたのだろう。温泉の地熱を利用して温暖な恵まれた土地柄であった。その為、どんな農作物でも豊かに育ったのである。他国者を嫌い 婚儀以外 決して外部と繋がりがりをもたなかった閉鎖的な里であったが、東北地方の山の中でこの地に桃源郷の伝説が残っていたのである。

村人は摩羅丑神を大切に信仰して特殊な信仰の地区が生まれた。しかし摩羅丑神には邪神としての暗黒ないち面があり、山の洞窟から出でて 人を襲い食するのである。九年を過ぎると 氏子達の長老達は 弱った神を里の人間に食べさせることで、新しい神を再生させてきたのではないかと思われる。これを『戸喫(へぐい)』とよばれる儀式だったのだろう。
いったん神になると 人身御供の三人(巫女)を人身御供として差し出されたのである。その後の九年間は、あの山の中なら里を守ってきたのだろうか。だが 現在まで続いている神隠し伝説は これらが原因であろうと思われるのだ。

丑神は、九年後に 体が痩せ細り 小蛇ほどになってセリ上がった床とともに すり鉢の坂這い上がり、岩穴から出でて 里に降り 災いをもたらしていたのかもしれない。人々を襲い、あらゆるものを食べつくすと、『夔-キ-』を受け継ぐ者に 若き娘を差し出し『戸喫(へぐい)』をさせていたのであろうとおもわれるのだ。
(拾九へ)
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『神々の塒』第拾七話 「出羽三山の聖なる水」 

『神々の塒(ねぐら)』 

第拾七話 「出羽三山の聖なる水」

『夔(キ)』なるモノ 夔


「両方に顔があるのね ひとつの体に二つの頭があるなんて 信じられないわ」
胴の太さをかえて、長く伸びることもできるようだ。
「どうして こんな生物が こんな東北の山の中にいるのよ?」
侃奈は 他の二人を庇いながら、十拳劔(とづかのつるぎ)を振り回して防戦するしかなかった。 


侃奈の後ろで、やっと梓乃(しの)が気をとりもどしていた。
「エッ なんなの この醜いイキモノ(『キ』)は?」
梓乃(しの)は前方にいる 『夔(キ)』とよぱれるモノに眼を見張った。
温水の脇に毬胡が倒れていた。その脇には 助役がふたつに裂かれて死んでいた。
「ウワッ助けてぇ  毬胡(まりこ)さん起きてよぅ!」
夢から覚めたような毬胡は
「‥‥‥ああ 梓乃ちゃん そこに父がいたのよ」
「しっかりして 侃奈が 怪物と闘っているのよ  死体もあるしぃ やだよぅ」
毬胡は梓乃の肩越しに 侃奈の息を弾ませている背をみた。

巨大な芋蟲のような『夔(キ)』は 侃奈と対峙したまま 眼をひからせている。
十拳劔(とづかのつるぎ)を肩に上に担ぎ上げて 侃奈はおおきく呼吸をしていた。
「私には 催眠術みたいなみのは 効かないわよ」
「ケヒケヒッ  ケェーッ」
甲高い叫びがして もう一つの頭が、侃奈の身體(からだ)に絡みつこうとして。

パシュっと 音がして 一本矢が 溶けている人面の顔に突き刺さった。
「キエェェェェーーッ クェックェッ」
『夔(キ)』は、口の穴のようなポッカリ開いたところから 苦しそうな悲鳴をあげた。

侃奈はこの時とばかり突き刺した。
黄色い硫黄のようなドロドロした熱い体液が噴出してた。ズルズルと引下がったのだが もう一つの牛顔がまわりこんで侃奈にふち当った。
「キャーア」
「侃奈ぁーー」
侃奈は数メートルも端まで飛ばされた。毬胡と梓乃はすぐさま侃奈に駆けよった。
「侃奈ぁ 大丈夫ぅ」
「アチッ 痛いっ 毬胡さん あんまり大丈夫じゃないけどっ あっ危ない」
毬胡は振返ると 迫り来る『夔(キ)』に瓶を投げつけた。

瓶は、牛顔の顔にあたって割れた。
「クワーーーーッッッッ  ギェッ」 っと『夔(キ)』が泣き叫んで悶えている。
毬胡のガラス瓶の液体は 出羽三山の羽黒山の聖(ひじりに調合された聖なる水だった。
効果があったのに 驚いたのは毬胡のほうだつた。
「やったわよ!父のノートに書いてあった水を作ってもらったのよ」

『夔(キ)』は眼が溶けているらしい。盲目になって 奇声をだし、身體(からだ)を振り回しながら三人に近寄ってきた。

三人は、立ち上がってすり鉢状の坂を、庇いながら登っていった。
「侃奈ちゃん 傷から血がでているわ」
「うん、梓乃ちゃん ありがとう 弓矢があたって助かったわ 毬胡さんの水も凄い効き目なのね」
「私だって あの水にびっくりしたわよ」 
「でも 異様のモノが こんなに大きいとは思わなかったわ 小猫くらいかと思っていたの」

荒鬼神社の摩羅丑神なる『夔(キ)』と云われる おぞましい姿の怪物は、三人が坂から転がした石音をかんじたのか 首だけを180度クルリと回転させると こちらに向って突進してきた。。

「こっちに向ってきたわよ」
「早くのぼって!!」

気配で、私たちを見つけたらしく 牛のような眼が怒りの形相で迫ってきた。

(拾八へ)

『夔(キ)』

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『神々の塒』 第拾六話 「双頭の神」 

『神々の塒(ねぐら)』 

第拾六話 「双頭の神『夔(キ)』」

湯気のせいか 数メートル先は 煙っていてみえないのだ。
バシャツ‥っと 水音がして 黄色い湯気のなかで 異様なものが 蠢いている。
次にバキバキと噛み砕き押し潰すような 音がして、ゆっくりと左右に影がゆれながら近づいてきた。

「きゃーあ  ねっ 見たでしょう なんか眼のようなものが二つひかっていたの!」
「すぐに戻ったほうがいいわよ 梓乃(しの)ちゃん 侃奈(かんな)ちゃん」

三人は後退りしながら 得体のしれないものから 遠ざかろうとしたが、異様なものは 回りこむみながら 大きな影は俊敏に移動てきた。淡い光から ストロボのように強い光が輝きはじめ、湯水の中を 蛇が這うようにズリズリと 気色の悪い音が間近でするのだ。
ひかりは 三人を包みこむように 湯気を揺らしたが 何故か取り囲まれた気分である。、
 
「エッ お父さん」毬胡(まりこ)が 突然 叫んだ。
ところが 梓乃(しの)は 違う言葉を吐いた。「ゆ・ゆうや 悠矢でしょう?」
どうやら 湯気の向こうに同じものを見ながら 二人は違う人間だと 感じているらしい。

侃奈は フラフラと それに歩み寄る毬胡と梓乃の手を握り 大声で言った。
「駄目よ あれを見ちゃあダメよ ふたりとも」-催眠効果があるのよ-

二人は未だ虚ろな状態で異様なものに引き寄せられて歩きはじめた。
侃奈は二人を腕を掴み 後ろに引き込んだ。
神社から持ってきた 奉納の剣を構えて斬りつけたが、幾度も空をきってしまった。

「クウーッ ゲヒゲヒーッ」

ぬうっと 侃奈の前に 湯気から姿を現したのは 異様に眼も鼻も耳も溶けた顔のようなものが、髪を揺らしながら スーッと現れた。まるで水死人のようにふやけた状態で 顔の下には どこまでも長い首が くねっていたのである。近づきながら 口とおもわれる場所から 異臭を放つのである。

今度は 逆の方から 牛のような顔で 口が耳まで裂けた異様な醜いいきものが侃奈に襲いかかってきた。侃奈は剣を振りまわすと 身體をくねらせて巧みに引下がるのである。
 
「なんなの 怪物は 二匹もいるの?二人とも早く正気にかえってよぅ!」 

怪物は 身體を持上げると 紛れもなく あの神社の奉納絵や毬胡の父の描いた絵に似た異様な『夔(キ)』とよばれた牛鬼だったのである。ただ違ったのは、頭は牛の怪物で 足の部分は 蛇のように一つの胴で繋がれて 人間の顔状のものが、うごめいていたのである。どちらも頭がと顔がついているのである。 

梓乃と毬胡がやっとのことで正気にかえったのだが 『鬼/キ』の姿をまともにみると、気を失いそうになった‥。

(拾七へ)

『夔(キ)』
『双頭の神』

『夔(キ)』
「キ」

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『神々の塒』 第拾五話 「九泉に蠢く」

『神々の塒(ねぐら)』 

第拾五話 「九泉(きゅうせん)に蠢く」


摩羅丑神 (まらうしのかみ)夔(キ)が祀られている荒鬼(あらき)神社の裏は、小高い丘のような岩山になっている。その岩山には奥の宮から通じる洞窟があり 岩山の内部が空洞になっていた。

禰宜(ねぎ)の山田の松明を追っていくと 突然、松明が消えて 悲鳴がした。

「どうしたの?」
「まって なにか蠢(うごめ)いている気配がするの」
「松明を何本もつけて 早く!」
毬胡はそのうちの一本を闇の中に投げ込んだ。
「もっと いろんな方向に なげこんでみて」
松明を数本投げ込むと ホールみたいな大部屋が映しだされたのである。

照らし出されたのは 闇の奥に、とてつもない広間が現れた。
その広間は 体育館のホールのような奇妙な大部屋で形は算盤(そろばん)の珠のような、上下に円錐の形をしていたのである。
「山田さんは きっと ここから滑りおちたのよ」
下方を覗くと、緩やかな摺り鉢のような構造で、段差がつづいている。
仄かに明るい中心部分は 霞がかって 硫黄の匂いがたち昇ってくる。

「余りにも広すぎる空間は?」
「凄い 古墳じゃないわね 九天と九泉かもしれないわ」
「どういう意味なの?」
「つまり ここが 黄泉の國の世界なのかもしれないの」
「そんなぁ 山の地底にこんなに広い空間があるなんて 信じられない」

苦しげな 唸り声が聞こえてきた。
「山田さーん 大丈夫ですかぁ」
「降りて助けなきゃあ まってて 私 行ってくるから」
「侃奈ちゃん!独りでいっちゃあ駄目よ 私も行くわ」
「梓乃も侃奈も 危険なのよ うーん しかたないわ 私も一緒にいっちゃう!」

緩やかな摺り鉢の坂を三人は手を取り合って降りていった。
「生温いわよ 暖かいわ」
「これは温泉よ、硫黄の臭いが強くなってきた、歩くのが辛いよ」

摺り鉢の底に辿り着くと温泉水が溜まっている状態でヌルヌルしている。ただ この底部は不思議なことに 薄明かりで湯気が漂っているのだ。円をかくように小さな祠が湯気の中から現れてくる。祠の前に松明(たいまつ)がさしてある。灯をうつすと 辺り一面がもっと明るくなった。

「えっ!」 -【角髪(みずら)につけし 湯津津間櫛(ゆつつなくし)なる櫛の端の歯を折りて 火をともしたる しかして覗きみいる】-毬胡の頭を言葉が 過(よ)ぎった。

光が揺らめいて鉢の底は異様さを かもしだしているて、祠の中には護符が納められてあり、金色の『封』の字が書かれてある。

-確かに 人が訪れているわ これらは道切りの呪(まじな)いだわ-

浅く溜った泉と硫黄の異様な刺激臭でむせる程で なかなか前に進む事ができないのだ。

周りには 骨が散らかっている。おそらく動物の骨であろうか、かなり古い骨だろうか 積み重なっている、黄色い骨の中には ところどころが黒くずんでいるのがわかる。
「どうして こんなに骨があるの?」
「生贄?」
「こわいわ‥」

黄色い靄(もや)のなかに ぼんやりと現れでたのは紛れもなく祭壇であった。
バシャリと 湯水を叩く音が二三度した。
「ヒッ!」
「なんなの?」

靄の中から 二つの眩い眼のようなものが 揺れながら三人を見つめていたのだ。

(拾六へ)

蠢くもの

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『神々の塒』 第拾四話 「黄泉の戸喫」  

『神々の塒(ねぐら)』 

第拾四話 「黄泉の戸喫(へぐい)」


毬胡・侃奈・梓乃の三人は 何かに憑かれたように緩やかな坂の洞窟を下っていった。
松明の灯りに三人の影が異様に揺れ三人の周辺だけがてらされている。

「人間の手で作られたにしては あまりにも異様な環境だわ」
「なんか 唸り声みたいなものが聴こえない?」
「ほんと 聴こえるわ 臭いだって だんだん強くなってきたし」

闇の先に 神話通りであれば 出逢うのは 醜女(しこめ)達や雷神達なのだろうか、どんな形で現れてくるのだろうか 九年前に父も この洞窟を訪れたのだろうか。
もう少し準備をしてから来るべきだった、わたし達だけで 冒険をするのはやはり無謀かもしれないと毬胡は不安になり、反省をし始めていた。

やがて 大きな広間がでた。天井は高く、硫黄の靄(もや)がかかっていて吐き気をもよおした。-帰ろう-っと 他の二人に言おうとした時、侃奈が 広間の傍らに誰かがうずくまっているを見つけた。

「禰宜(ねぎ)の山田さんじゃない!」
「何故 ここに倒れてるのぅ」梓乃も駆けつけた。
「血がでているわ 怪我で気を失っているみたいね」

禰宜(ねぎ)は宮司(ぐうじ)の下の役職であるが 普通の神社であれば神主がひとりで兼任しているのだが 荒鬼神社には 禰宜(ねぎ)の職があり 他に見習いの主典(しゅてん)と呼ばれる職務もある。
その禰宜(ねぎ)の山本が 洞窟の広間に横たわっていたのだ。

「山田さん 大丈夫ですか」
暫らくすると 唸るように喚くと 眼を醒ました。
「山田さん どうしたんですかぁ」
「ああっ き・君たちか、さ・佐々木さんと 宗像さんが 奥に連れていかれたまま 戻ってこないんだ」
「えっ 誰に連れていかれたのぉ」
「お・おにが・鬼がやって来たんだ」
「おにぃ?」
「ふたりをくわえて 奥に行ってしまった」
「‥‥!」
「山田さん 大丈夫?」
「すまないが 先に行かないといけないんだ このままでは村が‥」
「怪我をしてるのよ 」
「わかっているが 宮司さんと 助役さんがどうなったかみておかないと‥君たちは危険だからもどりなさい!」
フラフラと松明をかざして 洞窟の奥に向って歩きはじめた。

「わたし達は 戻りたいけど とりあえず彼の後を もう少しだけ追ってみるわ」
「いつでも 逃げる準備はしてるよ」


毬胡は 奥に松明(たいまつ)をかざしたが 闇が蠢くだけであった。ただ洞窟の両側に
御弊を纏った大埴輪がならんでいる。
「なんなの?」
「結界よ つまり これも塞の神と同じなのよ‥奥の邪悪なるものを防ぐためきっとおいたのよ」
地面に注連縄がバラバラに散らかっている。
「結界が破られたのよ」

埴輪の先には 八っの石塔があった。塔は奇妙な形だが毬胡は言った。
「これも、何かを封じ込めている入れ物だとおもうわ、黄泉の雷神とか」
「貼ってある紙を読んでみて」
「大雷・火雷・黒雷・折雷・若雷・土雷・鳴雷・伏雷でしょう、
全部、古事記の伊邪那美をとり囲む黄泉の雷神たちの名前よ」

「山梨岡神社の『夔(キ)』は 雷神と云われているの だから ここの摩羅丑神の『キ』も同じかもしれないの」
「なんなの 全部が神話の魔物たちなの?」
「そうよ!摩羅丑神祭りの顔を黒く塗った八人の醜男は雷神の化身を意味しているの。だから金の稲妻を描いているんだわ」

「上を見て 多数の星座と 中国風の女官が天上の壁に描かれている」
女官達の頭上には、たわわに実った葡萄の房と蔦が描かれていた。
「女官は黄泉の醜女(しこめ)達だわ、ますます… これはもう冗談ではないの!」

通路には古い劔が散らばり、銅鏡や矛が片隅にある。勾玉が松明の光に鈍く反射した。
侃奈は勾玉をひとつ拾おうとすると、
「駄目よ 落ちていた物をひろうと祟(たた)られるわよ 黄泉の國のなかでは『戸喫(へぐい/竃食?)』をすれば 二度と地上には戻ることはできなくなるわ」
毬胡は声を荒げて言った。
梓乃は思わず手を引っ込めた。梓乃の眼は二・三歩 先に落とした。
「あっこれは‥」 
「梓乃ちゃん 何かあったの?」
「あっ侃奈ちゃん ううん なにも‥」
その時 梓乃は自分が悠矢の誕生日に贈った時計がキラリと光った。
たいして高価な時計ではなかったが ふたりの想い出の時計であったのだ。
梓乃は 時計をしっかり握り締めて ポケットに仕舞いこんだ。
「やっぱりこの奥にいるのね」

(拾五へ)

『キ』

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『神々の塒』 第拾参話 「黄泉の風」  

『神々の塒(ねぐら)』 
 
第拾参話 「黄泉(よみ)の風」


インカ石組みに紙一枚も入らぬ岩の壁があるが それでも、つなぎめは見た目にわかる。ところが 眼の前にあるのは一枚岩をくりぬいたような石棺のような部屋である。神社の奥に岩をくりぬいた洞窟があり小さな祠があるだけで行き止まりになっているのだ。
途中までは蛍光灯が引かれていたが 松明を壁にあててよくみると正面と左右に 手の形が彫られてあったのである。

毬胡はひとつの手形に 自分の両手を合わせてみた。手形は大きく 毬胡の手は納まってもかなりの余裕がある。

「うーん 手を入れて 合わないってことね」
梓乃も同じように入れて
「うんともすんとも いわないよ (おーぷんザセサミ!)エヘッ やっぱり 開けごま!かなぁ」
侃奈は思いついたようにポツリと言った。
「どこかにも スイッチらしきものはないわよ それに壁の前の足跡は手形の前で 揃っているの」
「じゃあ 三人一緒に 手形に両手を入れてみましょうか」

祠の前にある小穴に松明を置き、三人一緒に両手を入れてみた。
「なんか 手が熱いわよ」
「手を入れた手形が 手を包んでくるようだわ」
「なんか いやーな感覚よ 手がすいこまれ‥」


ゴッ‥と音がしたような気分だったが 実際には三人の前の壁が 一瞬にとり払われて三方の石壁が広がったのである。今まで八畳位だった部屋が二十畳もの部屋になったと思えばいいのである。
正面の岩だけは 通路のように下りの坂道になって どこまでも闇が続いている。


「う・嘘っ!動いた‥なんなのよ」
「そ・そんなぁ どんな仕掛になっているの?」
「天岩戸みたいに手力雄命(タヂカラオノミコト)が 力ずくで開けるのかと思っていたら‥なんか あっけなく開いちゃったみたいね」

「壁に照明用の松明(たいまつ)がさしてあるわ 火を点けておくわね」
「侃奈ちゃん インディジョーンズみたいな気分よ」
「みて お祓いの幣がいっぱい あちこちに落ちてるの」

「ねっどうするの」
「ここまできたら 行くしかないじゃん」

「ほら、洞窟の壁を観てよ 木がそのまま化石になって、枝を広げているの」
「こっちにも別の種類の蔦みたいな木の化石みたのがあるわ」
「どうして こんな処に化石があるの 不思議な木なのかしら」

「もしかすると 最初の木は桃?次が山葡萄かしら?」

「桃なら桃源郷への入口って事も考えられるけど この場合は魔よけかしら でも神話では‥」
古来より 魔よけや厄払いは桃弧(桃の弓と棘の矢)をもちい追儺(おにやらい)では鬼を射るのは桃の弓と葦矢なのである

「とにかく 幣、桃、蔦 なにか意味があるのよ」

「あっ痛い!」
「どうしたの?」
「地面にひかる物があるの これは、大きな水晶よ」
洞窟の床は大小の水晶が筍のように生えていた。
「うわーっ とても綺麗よ 松明の光を反射して 洞窟のシャンデリアみたい」
「‥‥」
「毬胡さん 黙っちゃってどうしたの?」

「なんか 古事記の世界が再現されているような気がして 不気味だわ」
「前に話してくれた 黄泉の國を逃げた伊邪那伎(イザナギ)のことね」
「どうして‥」
「私たちは 伊邪那伎(イザナギ)と逆に黄泉の國に向っているのかも‥」
「じゃあ 私達は黄泉に向ってるのぉ?」
「この神社の 奥の宮は 磐の穴だけど この荒鬼神社の後ろの山は 古墳かなにか人工的な山かも しれない」

岩の通路はわずかながら空気が動いている 下方へ向う闇がどこまでも続いているのだ。奥から硫黄の匂いがして かなり強くなってきた。
この風は黄泉の風なのかもしれないと 毬胡はかんじていた。

(拾四へ)

巫女がゆく

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『神々の塒』 第拾弐話 「磐の手形」 

『神々の塒(ねぐら)』 
 
第拾弐話 「磐の手形」 


毬胡は新聞切抜きをとりだした。それは東北新聞の文化欄にのった10年前の記事であった。

※日本の祭【奇祭の旅シリーズ】その七 「荒鬼神社 摩羅丑神」

東北地方、宮城県志造郡 荒吐村 荒鬼神社 摩羅丑神(別名、九年様祭り)
夏から秋にかけて、月による潮の干満により 二十三夜月から新月までの、五日間(中三日)におこなわれる奇祭。篝火が社を照らし、闇と光が織りなす古代からの神を迎える祭りを演出している。

醜男(しこお)と呼ばれる男達が ゆっくりとした動きで体を揺らし踊る忌踊り。丑踊りとも鬼踊りとも伝わる。その数は20~30名が寝食をともに、神社の境内に篭り、祭りの間にやってくる神をたたえて祀る祭りである。低音で唸って 山鳴りをおこすほど共振させるのは 神の言葉なのだろう。唸り声は社とその後ろの奥の宮と山を守るがごとく響き渡り 古代の産土神の現れを呪うものであろうか、神とよばれる鬼への畏怖のあらわれなのだろう。
氏子の彼等は祭りの間、顔に墨(炭)を塗り、踊りつづける醜男達は 三人の巫女が依坐となり 突然 狂ったように奇声をあげ踊りはじめる。彼等の一ヶ所に金泥で 雷のような模様を秘す。摩羅丑神があらわす 異様な古代の神の存在をしらしめる世界なのです。
ただ残念なことに 氏子以外の一般の方は 鳥居から入ることはできないので、古式にのっとり【あくや/帷/とばり】を設けて参列人を招きいれているが実際にはみる事ができない謎の祭りである。
信仰の対象である 鬼が『キ』と呼ばれていますが 同じような事例で山梨岡神社の『夔(キ)』をあげることができます。 同じ『夔(キ)』をさしているのか 今後 検討していかなければならない。【東京皇(すめら)大学 民族学教授 藤原一樹 記】

「これって 毬胡さんのお父さんが書いたの?」
「只者じゃないわね やっぱり」
「でも この後 あの図を残して 行方不明になったのよ」
「なんか ぞーっとするわよ」
「そして、晦(つごもり)の闇の夜 すべての闇の中 三人巫女が踊る 九泉の闇 心の闇が 扉をひらく 巫女が 闇の千引磐 あけにやってくる‥で父のメモは終っているの」

この解説以外に下書きがあり、九年様とも云うとあるけど それに九泉よりいずるとなっているのだ。九泉は九重の地の底のことで、『黄泉』『よみじ』『墓場』の事をあらわす。ちなみに逆は九天という。

「金泥の模様だって不思議よね まあ雷神のせいかもね」

「毬胡さん あの神社の奉納絵をみた?なんか おかしな図が描いてあるの」
「…ああ 不思議な奉納絵ね。あの鬼と又 違うようないきものよ」
「これって 巫女が弓と剣で 鬼と闘っているみたいな絵よね」

「祭りの最終日だし 今夜は思いっきり冒険しちゃうわ」
「これから、奥の院まで行ってみるわよ?梓乃ちゃん怖くない?」
「うん 毬胡さん 侃奈さん 私も絶対にいく 行くわよ!」
「そうね 愛は永遠、盲目っていうからね、乗りかかった舟だしぃ」
「しかたない 学問的にも興味あるし 梓乃ちゃんに付き合ってあげるかな」
「毬胡さん、ありがとうございます。ぐすん」
「アハハハハッ」「シーッ」

「準備しようと思ったら 懐中電灯はなかったの」
「簡単な松明も持っていった方がいいわね ライターと灯油を小さなペットボトルにつめてきたわ」
「準備いいね梓乃ちゃん さて出発よ!」
「よーし いまいくわよ」

篝火が社を照らすなかを三人は、社務所の瑞垣(みずがき)の脇を抜けていくと、醜男達が相変わらず、ゆっくりとした動きで唸りながら 体を揺らしている。
「なんかサスペンス劇場みたいね」
「ほんとにドキドキするわ」
「えっ、侃奈さん!なにをしてるの」
「なんか武器が必要かと思って‥よいしょ」
「だって、それ飾りの神剣 十拳劔(とづかのつるぎ)よ」
「いがいに軽いわよ ないよりましよ」
「凄い!じゃ私も この小さい弓でも持っていこう エヘヘ」

三人は、瑞垣にひそんで辺りを見渡した。
「毬胡さんは 何を持ってるの」
「出羽三山の羽黒山の聖水よ 聖(ひじり)につくってもらったのをガラス瓶にいれてるの」
「なんか ドラキュラの吸血鬼ハンターの気分よね」

神社は舞い舞台があり、社は磐穴に入りこんでいる。

「奥の宮に何かありそうね」
「東北地方の神社には良くあるタイプよね」
「なんか怖いけどここまで来たらいくしかないわ」
「だけど 私たち三人だけでいいのかしら」
「とにかく入ろうよ!」

社に入ると 蛍光灯が点いており 岩穴の奥まで長い通路が続き、蝙蝠の糞で散らかっていた。突き当たりは、八畳ばかりの広さで天井も高いが 行き止まりであった。
「もう先はなにもないわ」
「ちょっと 待って」
「なにか、あるわよ 松明を近づけて!」
「岩面に手形の彫られた岩壁があるわよ」
「…こっちにもあるわ」
「ここにも」
ごつごつした岩肌に 肩の高さに手の形が三箇所に彫られてあった。

(拾参へ)

巫女たち

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『神々の塒』 第拾壱話 「『夔(キ)』の図」  

『神々の塒(ねぐら)』 
 
第拾壱話 「『夔(キ)』の図」 
 

「毬胡さんのお父さんの研究していた この神社のことは他になにか 残っているの」
「そうね 図があるの これよ」

『夔(キ)』


「なあに これは 本当に牛の形状だけど 足が一本だけなの」
「これね、『夔(キ)』とよばれる奇獣(?)なのね」
「身體は蒼く 角がない 雷神・水神風でね山海経にも記載ありなの」
「もう一枚が これよ  父が描いたものらしいの」

父の描いた『キ-丑鬼-』


「なんか 不気味だけど マスコットみたい」
「本当に 可愛いといいんだけどね」
「毬胡さん 侃奈さん 悠矢を探すんで怪獣探しじぁないのよ」
「ウフッ 言うわネェ」
「しかたないわね 今から彼氏を一緒に探してあげよう ねっ侃奈ちゃん」
「愛は強し!!っかぁ いいなぁ」

「梓乃(しの)ちゃん 梓巫女(あずさみこ)って知ってる?」
「青森のイタコなら知ってるけどなぁ」
「昔々、梓の丸木弓を持って、弦をたたいて、霊の口寄せや神降ろしする、神がかりの巫女がいたのよ」
「‥毬胡さんは やっぱり物知りなんですね」
「家族なんかで梓乃ちゃんと同じ能力を持っている人はいたのかなぁ」
「よくわからない でも能力の事は調べてみたの。透視、精神感応力かな それからぁ 念力とか 瞬間移動なんかできたら凄いよね」
「毬胡さんの能力は予知、千里眼ともいうのかしら」
「だれでも 強弱はあるけど 不思議な能力は きっとあるものなのよ」
「でもね 梓乃ちゃん、あなたの不思議な能力は注意してつかいなさいね」
「そうよ 相手は心の中を一部分でも知られたら恐怖を感じるものなのよ」
「はーい」

【荒鬼神社の文】抜粋
魂を結びたまいや比礼ふり、まじこる(蠱/災にあう)は、巫女のまじもの(蠱物/法術)なりて、まじわざ(蠱業/まじない)に益荒神(ますらかみ)を鎮めたる。これ、まじない(呪う)たり。鬼神に祈ることなり。さるめ(猿女・援女)のよびてささくれば(はしゃげば)、さばえ(五月蠅)し神のごとくなり。こり(垢離 けがれ)やはらえ木偶に依坐となし。あづさ(梓)の巫女の梓弓の弦をたたかむ。

「侃奈(かんな)さんは出身は 岩手なんでしょう?」
「そうよ ここと同じ山の中だから 自然がいっぱいよ、バイト終ったら二人とも遊びにおいでよ」
「ぜひいきたいわ」
「姓は安倍よね 珍しいもの」
「そうよ 安倍の清明と同じ苗字よ」
「そういえば 岩手の安倍って 貞任って歴史でならわなかった?」
「はい 毬胡さんさすがぁ 私の一族は家系は貞任までも遡るわよ」
「えぇーっ」

「だって家の社務所に 家系図が飾ってあるもの」
「侃奈の家って神社なの?」
「そうなの 安倍乃神社よ 言わなかったかなぁ」
「じゃあ巫女は本職じゃないのぅ」
「学生だから 家に帰るとたまにはね」

「本当に 特殊な能力があるんじゃないの?」
「前にも言ったけど 物をみつけたり カンがいいだけで些細な事ばかりよ!」

「そういえばあっ あった!」
「なによ」
「フフフッ実は剣道三段なの 凄いって言って!」
「それだけぇ」

「『かんなき』って言葉を知ってるう?巫子の事なのよ」
「そうか、名前は祖母がつけたのよ」
「フーン‥」

「とにかく これから神社の奥まで行ってみようよ!」
晦(つごもり)の闇が どこまでもひろがっていた。

(拾弐へ)
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『神々の塒』 第拾話 「鬼乃字」 

『神々の塒(ねぐら)』 
 
第拾話 「鬼(き)乃字」 


「ねえ きいてくれるぅ、一瞬の映像のなかなんだけどぉ‥」

梓乃(しの)の話では、この村では九年毎に ひとりの養子縁組が行われているというのだ。九歳になると お食いはじめという儀式をして 神饌を食すらしいのだ。そして十八歳になると依坐(よりまし)として神のもとにさし出されるというのだ。
祭儀は 神が新しき衣になるということ、犠(いけにえ)の儀式は巫女の三人が 神と共に九泉に住むことになるらしいのだ。

「九年ひと巡りで 何かの儀式をして、ふた巡りには神に供物として神に添えられるってことは 悠矢くんは帰ってこないのかしら」
「いまどき そんな事があるなんて ねぇ毬胡(まりこ)さん 他でもそうなのぉ」

「それから 巫女の三人って 私達のことよね」

悠矢の養父は宗像村長である。彼はこの神社の どこかに幽閉されて、得体のしれない神の供物で、悠矢は身體に異状をきたし 膨れ、四肢も異常に変化したと浮んだのである。悠矢は抜け出して宿舎の梓乃に逢いにきたというのだ。

「神社の神は摩羅丑神というのだけど、図があるらしいのです」
「それに 荒鬼神社の【鬼】の字も 【き】だけど 以前までは違う【キ(※①)】と書いてあったらしの」
「不思議な牛形の神なのだそうよ」
「【摩羅(まら)】は金勢さまの事で 【キ】は 一体なんなの?」 
「こんな字なんだけど 知ってるかしら」

【キ(※①)】「鬼乃字」
20060413235045.jpg

ここで毬胡は改めて二人に言った。
「前に言った 行方不明の民族学教授は 実は私の父なのよ」
「えっ じゃあ」
「そうなの この神社の産土の神は父の研究対象だったの」
「そうだったの」
「私の頭に現れる声は きっと父なのかもしれないわ」
「毬胡さん その通りだとおもうわよ」
侃奈は毅然と言った。

「そう言えば神社の軒の周りに奇妙な奉納絵がたくさんあったのよ」
「じゃ 今夜はちょと探検してみるかぁ」梓乃は気軽に言い放った。

(拾壱へ)

三人の巫女

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