『くつやさんの道具匣』
僕は彼の名前は知らない。いや聞いたけど記憶にない。
だから僕は彼のことを「くつやさん」と呼ぶ。
ところで彼は鞜を売っている訳ではない。
修理や製造が商売なのだ。
彼とはなんか気にが合って 今では素通りできず、つい覗いてしまう。
すると
「おや、直しかい」
「ちょっと寄っただけさ」
「商売になんないひとだね」
「そうだね、なら冬の到来だから鞜裏の滑り止めをみてくれるかい?」
僕は横柄にも履いたまま足を揚げて鞜裏をみせると
「なんだぁ、まだ大丈夫だよ 今年は」
「そうかぁ、じゃあ逆」っといいながらもう一方の足を揚げる。
「おや、剥げてるねぇ」
というと溶剤をかき混ぜ チョイチョイとつける。
この時は、当然ながら鶴の恰好で片方が靴下、自分の片方の鞜にのせて、待つ事数分。
「これでいいよ」
「御代はいくらぁ?」
「いいよ、この次たっぷりもらうから」
っと 笑いながら手を横にふる。
「なんか怖いなぁ、じゃあこれ」と言いながら貰った映画の招待券を差し出す。
「おや、いいね 映画は好きなんだよ」
彼は嬉しそうに胸ポケットに丁寧に折りたたみ仕舞いこむ。
彼の手は接着溶剤と墨でしわがめだつのだ.
そんな彼をみつめながら、僕は
「鞜の木型をもってるの?」
すると彼はよいしょばかり、棚の箱をとりだし紙包みから薄茶けた木型を大事そうにひろげた。
そして自慢気に説明をはじめる。
「いまじゃ飾ってもいないんだがね、ほら この鞜裏の孔をごらんなさい」
「すごいねぇ」
「これは客のひとりだけの型なんだよ」
木型には無数の孔があいていて皮を押えたものだと解説する。
「足の形はかわらないけど 微妙にちがうんだ」
時折りみせる職人の顔と別にあどけない彼のちょっと歪な笑いが僕は好きなのです。
眼鏡の奥から上目遣いで、頷く僕をみつめている。彼の白髪頭が室内の燈火で妖しく反射してこの会話が永遠に続くように思えたのだった。
九六
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磨り減りしシワに刻みてくつ木型
【歩句】『鞜木型』1221
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『双六/迷路館』
ようこそ 迷路館へ
この迷路は3年前に迷い込んで180日も彷徨いました。
奇妙な館は二笑亭(館)のように心を苛みます。サイコロはありますか?
では‥
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⇒おめでとう
さあ、どうでしたか。ぴったり止まらないと最初に戻ります。
クリアーした方には豪華飴玉1個を差し上げましょう。
更に、ご褒美
彷徨っている間は禁止、地下食の本当に懐かしい
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ナポリンをめしあがれ。
九六
‥でっ、私は未だ飴を貰っていませ‥‥。
n
『笑門』
謝罪いたします。わらいもの(笑者)って誤解していたふしが心の隅にあったからです。
正月も半年を過ぎ、未だ注連飾りが飾ってある、東北に住む者には異様な景色である。つまり笑う門なのだ。「笑門」。つまり「千客萬来」、笑う門(かど)には福来たる、「蘇民将来子孫家門」「疫病退散」無病息災願望という事なのだと知る。
※
※「蘇民将来伝説」
蘇民将来が地を訪れた貧しいがみすぼらしい来客の素戔男尊(日本書紀)、建速須佐之男命(古事記)、神須佐能袁命(出雲国風土記)に一夜の宿を貸し、出立の時、以後門符を門口にかけておけば子孫代々疫病から免れると言い残したという伝説
この門符(木札)は伊勢地方独特の一年間かけたままの注連縄の風習なのだそうですが、我々は十五日のどんと祭でお正月飾りを燃やし一年の無病息災を願いつつ奉納し焼いてしまいます。
蘇民の子孫という、とにかく厄除け護符なのです。ただ「蘇民将来子孫家門」が「将門」で、平将門に通じるのを嫌って「笑門」になったという事が検索で解りました。裸祭りで有名な黒石寺の蘇民祭も同様なのでしょう、調べなきゃあ解らんものですね。 九六
『落鈴』
あれは遠い想い出なのか
不思議な空間の隙間に
いまもなを
時はとまる
久しぶりに行ってきた
『うそっこ 落鈴神社』
昔々のことだぁ
ふたりの若者がおってのぅ
どちらも信心深かった
若者達は成長して
ひとりはこの郷を出て行くことになったそうじぁ
都に出かける日に
ふたりで この神社にお参りにやってきて
互いの無事をいのったんじゃ
ひとりが拝んで鈴を鳴らし
もうひとりが 続けて鳴らした
ところがどうしたことだ
鈴は鳴らずに ボタリと落ちたそうじゃ
若者は恐れおののいて
この場から逃げ出したそうじゃなぁ
その逃げる格好があまりにも滑稽でありましなぁ
神社の神様も驚いたが 笑い転げてしまったそうじやぁ
あまり笑ったもんじゃから
罰があたるも、あたらぬも
神様は怒りも忘れてしまったと
それからふたりは 出会う度に
この神社の前で 鈴を鳴らしては
逃げるまねをすながら踊ったそうじゃ
いまの輪踊りはこうしてはじまったんじゃぁ
はははっ
うそっこ うそっこ ほだばっ