九六の匣

さまざま詰めこんだ匣

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『黒いボールペン』

『黒いボールペン』

かってきままに
ボールペンまかせ

黒いボールペン55
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『影御用』 其拾話 『軒の雨』

『影御用』 其壹番 『南惣一朗の剣』

「このぅ 下侍がぁ 斬るってくれる!」
相手は気が急(せ)いていた。虚勢をはり 痩せ犬ごとく鳴きわめく。

男は相手をみながら 右足先をツーと進め浮かせたまま、
左足の親指をポンと軽く地面を蹴りあげた。
相手は剣先が喉もとに現れ 一気に入り込まれたので、あお向けにもんどりうって
尻もちをついてしまった。こうなると もう一方的である。

恥も外聞もなくわめき、刀を横に振るばかりでもはや野試合とはいえるものではない。
あまりにも早い決着に朝の露もおちる間を失った。

相手は自分を恥て、腹を切るが苦しさに刀を腹に刺したまま悶えた。
男は居合いの一刃で首を斬りおとした。
「許されよ…」
南惣一朗は剣先の血を拭いながら呟いた。

伊庭藩に父の代からつかえて、影御用を賜っているが 早い話しが表沙汰できない仕事の後片付である。
父親から刀剣の手習いをうけたが、表向きに道場の流派とは異なり、必殺の殺人剣であった。
型は居合いにちかく、しかしながら型にこだわらず流れる。

今回の使命は伊庭家の内紛にかかわる事で 野試合にみせかけた謀殺であった。
この男が どのような罪を犯したのか 一切聞いてはいないが たとえ事情を聞いたとしても 藩の威光はかわらないのである。斬ることの仕事に徹する 自分がいるだけであった。

初夏の風が頬をなでて惣一朗の鬢も揺らいだ。

【了】


『影御用』  其貳番 『影の陰』

またもや 「…」

気配はする。しかし誰もおらぬ。闇に潜んでいるのは判るが、いつもの事だ。
影御用のときは必ずといっていいほど、仕事振りをみられているのだ。
まぁ仕方ない事だが、相手が判らぬとなると気味が悪い。

今宵の御用の相手は なにやら胡散臭い商人と結託して汚い銭を稼いでいる 佐々又五朗なる者である。
腕はたち小野寺派一刀流の免許偕伝と聴く。故に私に依頼があったのだろう。


我が身を言うのもなんだが、風采の上がらぬ痩せた長身で、
普段はオドオドとし、世間からは意気地のない
どちらかと言えばつまはじきと見られていた。

全て亡き父の言葉通りに、謙虚で、もの静かな態度を続けたが、
他人は うつけ者と囃し、最近は自分でも、それも楽と感じてきていた。

ぼんやりと行灯がやってくる。
目星はついているが、月灯りでは確認できない
刀を抜かせねばならぬ、道場で確認した斜め上段からの構える流派だ。
こちらは名のらぬとし、声もださぬ。

「シャキィーン」
「何者?」と言って構えた斜め上段は、
我が刀身が右下段から突きを出した刃先が ときに血が吹き出す音を聞いた。
相手はその後言葉を発することなく息絶えた。

ただ もう一つの気配が消えたのを確認し、闇の中に私の息が残った。
【了】

『影御用』  其参番 『五十集(いさば)の助蔵』

「…うぬが」
「へい、助蔵めでごあんす」
助蔵は昔から舟渡しの番人みたいな事をしていたが、
体が身軽でいつもエへラエへラと笑っている奴(やっこ)である。

我が身の後ろにいつの間にやらいて、ギクリとした経験が二度あり、
今 眼の前にゆらりと立ち上がる。

刀の鯉口を切り、二歩近寄る。間合いではあと一歩で胴を両断できる。
詰め寄ると
「旦那ぁ、冗談は止めてくだせぃよ」

一瞬、刀をなぎった。
止まらない、奴の言ノ葉に殺気が走ったのだ。
空を斬る、手応えは無い。

助蔵がいない…、何者なのだ。
「くっ!」
足元に変な鋲が撒かれてある。
「動かねぇんで下さいまし」
助蔵の声が後ろから聞こえた。
「お前は?」
「勘弁して下さいなぁ、旦那ぁ」
「まぁ いいとするか 許せよ 負けたぜ助蔵」

「旦那はすげぇや!
 あっしを、な切りながら小柄を放つなんざぁ、忍び以上で…」
「おぬしだったのか 俺の仕事の間(ま)を伺ったのは‥」
「やっぱり お判りになっていたんでございますなぁ」

「すると遺体を片付けたのも お主か。
      伊庭藩には伊達同様の脛巾組なる者の し・…」
「おっと そこまでにして下さいなぁ」
「仲間と言う事だな」
「一応 そう うかがっております」

「名前は?」
「五十集(いさば)の助蔵でございあんす」
何度目かで正体が判り 安堵の気もするが 
いまさら 忍びと判ったところで せんなき事‥‥
こころは揺れるのみ
【了】
五十集(いさば)の助蔵



『影御用』   其四番 『脱兎の剣』


「み・南 惣一朗殿じゃな!逃がしてくれ恩にきるぞ、頼む」

山田某なる侍が妻子を連れて脱藩する事件がおきた。
何度か面識があり、仁徳があり知識も豊富で明るい前向きの御仁じゃった。
いま眼の前でお互いに刀を突き合わせて闘っているのが納得できない。

「ええい!怪我をするぞ、お前達は藩境へ先にゆけ」
妻子をかばいながら山田は刀を構えて走った。

今回は藩命でもあり 私の出番はないはずである。
十数名の藩士が とり囲み なぶり殺し同然の斬り合いである。
ただ声を出しているのは山田のみ、皆の氏名を叫んでは闘っているのだ。
おかしな事に 親しい間柄で 名前を呼ばれると萎えてしまうものらしい。 

しかし血がとび、数名が斬られ 山田は返り血を浴びているだけなのだ。
この男は相手の心を掴みながら 闘っている それは達人なのである。
気がつけば 残ったのは私と山田の二人であった。
「お願いだ、刀を退いてくれ 南殿」
殺気は消えない。声だけがやさしい。

私は静かに中段に構えたながら相手の出方を待つ。
山田は 私の腕が同格と見抜いたのだろう、
後ろにいた妻子を一撃で斬り殺してしまった。

「何をするのだ」
私の動揺した隙を 山田は斬りかかってきた。
妻子を斬ったのは 観念したのではなかった、
妻子を犠牲にして 相手の気を削ぐのを狙ったものだろう。

血糊で滑ったと思わせ、草の上を滑りながら、向かってくる。
「早い、しまった まずい 足を刈られてしまう」
私は足首一つを観念した。

「ぐわっ」
突然!山田の悲鳴 そして腹から刃がでて 血が噴出した。
なんと五十集の助蔵が草に紛れていて 突き刺したのだ。
助蔵は暫しまえより 潜みて機会を待っていたのだった。
とにかく わが身は救われたことになる、
山田はうめき声を発して 暫くして絶命する。

私とすれば足首を斬られずにすんだ訳だが 
技の拙(つたな)さを感じたしだいであった。

山田某は 江戸幕府からの草忍との疑いがあったという。
代々この地に住みて 事あれば 本性を現し目的を遂げるそうだ。
私の影御用と同じ闇のものと存じるが、
そもそも 脱藩が藩の内紛が発端になったのは間違いない。

藩境は 血の匂いを嗅ぎわけた鴉が飛びはじめた。
【了】


『影御用』 其五番 『孥戮(どりく)』


「南殿、出られい」

と道場の師範代が促すように声をあげた。
「久しく来ておりませぬな」
「はい まっこと私用が多く…」
「これでは偕伝もいただけませぬぞ いま少し励みなされ」

川下と申す師範代は剣の腕はそこそこだが、人当たりが良く世話好きである。たまに呑みに来いとか 顔を合わせる度にあまりにも言われるので、煩わしくなる。彼から言わせると酒を買って持って来いであり、そうすれば少しは手加減してやろうという傲った考えがあったのだろう。

その川下が突然、斬られて死んだ。 雨の日のことだった

脇腹から後ろ肩まで斬り上げるて、一刀で絶命したのだろう。背を斬られた故、逃げ足であろうと噂がたった。事件はそれですまなかった。川下家に遺骸を運ぶと、妻子、母親までが惨殺されていたのである。

『孥戮(どりく)』なる刑があるが、ひとの良い川下がどんな科があったかはわからない。
一家が夫の罪で罰せられるとは思いたくない。ただ彼等を斬った者は間違いなくかなり腕のたつ者なのである。刺客なる影御用の者が、私以外に存在するという事になる。
【了】


『影御用』 其六番 『戯(たわむ)れの代償』


伊庭藩の菜取に柳生なる地名がある。正式には『やなぎう』と呼ぶのだが、幕府の剣術指南の柳生家とはちと違うらしい、寺の名前からついたらしい。

当時 柳生流道場は城下にあり、隆盛を誇っていたのである。「柳生心眼流」と言う伊庭柳生なのである(ただ物語上「柳生心巌流」としておく)伊庭の流派はいくつかあるが、川下のいた道場はほどほどの員数をもち、剣術というより作法に重きを置く流派で「心成流」と称した。柳生流は将軍家の御留流であり、他流試合はもとより構えなど一切、表にはでてこないものであった。

冷たい雨が降っていた 

今宵も 川下は指南役の役得でしたたか酔っていた
傘の雨音に紛れて声がした
振り向くと  傘もささずに男がひとり 路上に立ち尽くしていた
「お待ちくだされ」
「どちら様かな‥」
「馬詰め係の田中伸一朗でございます」
「おお、田中殿か、暫くですな」
「拙者 川下殿のお宅へ伺ったところ 
  まだ帰宅なしという事で ここでお待ちをしておりました」
「それは 失礼いたしました さぁ御一緒に 」

「川下殿 その節はお教え頂き まことに有難うございました。
  実は ちと不思議な話を聞きましてな」
「不思議な話しとは、さて…」
「先日、酒の席でほらつい、お話しになった次期藩主の事でございますよ」
「ハハハ、戯(たわむ)れの話しですよ」 と背を向けて去ろうとする。
「川下殿、上位でござる」 と言うが早いか斬りつけた。
田中伸一朗は 逆手で下から斬り上げた 一振りで絶命した

雨のなかを 裸足で駆けていく 音が紛れて消えた。
【了】
師範代



『影御用』 其七番 『南流秘剣 空蝉』


脇から大刀をからませる。
「ギャキーン」
刃が欠ける。
突然斬りつけられて抜いてしまった。
相手は宗十郎頭巾から眼だけがぎょろりと見える。
ねばっこい奴だ。
惣一朗は居合が外されて、受け身になる。
下段に構え右手を返すと刃が相手にむく。
右斜め下段で相手の動きをみる。
両足をやや開き隙をつくり誘うと…、ジリジリと間合を詰めてくる。
体から刃を離さず八重垣から剣先を首に合わせている。

「来る!」
「きえぇーッ」奇声があがる。
突きが胸元をかすり、引きで横に払う。
鋭さはかわらないが次から次と仕掛けてくる、
防戦一方ではいつかは押し斬られてしまう。
逆手で小刀を抜き、大刀を相手の刃を滑らし
受け流した隙に脇腹に小刀を突きさした。
「グエッ」
前に二三歩あるいて、つんのめって倒れた。
空蝉という南流秘剣である。

宗十郎頭巾をとり去ると 城下で顔を観た事ある 
田中伸一朗なる三十歳位の男だった。

何故、私を狙ったのか 判らぬことばかりであった。
暗い闇がどこからか血の匂いを嗅ぎ分けて傍まできていたのである

原田某なるものの陰謀が伊庭藩の城下に不穏の嵐が吹き荒れる少し前の話である。
【了】
<br /><br /><br />『影御用』 其八番 『惣一朗、鞘走る』<br /><br /><br /><br />数名の侍達が、取り囲み 斬りかかってきた<br />「伊庭藩の家老配下どもか‥」<br />「てあーっ」<br />侍達は名乗るふうでもなく ただ眼をギラつかせ斬りかかってきた。薄暗き路に刃の火花が散る。私をみて刀を抜いてきたのだから 威嚇ではない。完全に殺戮を目的にしているのだ。<br /><br />とにかく 逃げるか 立ち向かうかない 路地に入り 背後の敵をなくし 正面に唯一ひとり 一対一の形にもっていく。しかし余りにも人数がありすぎる。<br /><br />侍の一人が声をだす。「陰に廻れ」<br />数名が走りこんで行こうとするが、惣一朗は 突然に後ろを向くと 刀を担ぎおもいっきり駆け出した。<br /><br />「卑怯者っ」<br />こんな状況に卑怯も糞もあったもんじゃない。ひたすら 走る 走る‥ 走る。鞘に収めた刀のツバが背中でカタカタとなった。息も軽やかに走った、惣一朗は 幼きころより 走るのが得意だったほうだ、剣の修行は別として 走る事が苦にならないのだ。<br /><br />侍たちは 普段、走ることのないので すぐに苦しそうに息をきらし 木立や塀によりかかり 私の後姿を睨んでいるのだ。<br />しかし なかには いとも簡単に私の後をついてくる輩もいるのだ。<br /><br />それも、約一名。この手の侍は俊敏な手練れが多いのだ。後は立ち向かうしかない。こやつは腰に刀をおびたまま 間合いを縮めやって来る。他の者は どうやら途中で息をゼイゼイときらし くたばっているらしい。<br />やっと 剣をもって立ち会う形になった。<br /><br />惣一朗は走るのを止めて 左足を出した瞬間に 思いっきり右足を蹴った。<br />寸時に相手との距離が縮まった。次に右手の親指で鯉口をきり、鞘に入ったままの刀を 思いっきり上段からふり落とした。鯉口が切られているので、鞘が刀身から抜けた抜けるように相手のむかった。刀が伸びたふうに見えた瞬間 横顔に鞘がとんだのである。<br />「痛っう」と言ったまま 顔を押さえて坐りこんだ。<br />一瞬の出来事に追跡者は打ちのめされたのである。<br /><br />突然、鞘と刀身で倍になったものが飛んできたのであるから、かわす間もなく ぶち当ったのである。<br />「気の毒に、立つな 立てば斬るぞ」<br />南惣一朗は 鞘に刀身を収めながら この場を静かに去っていった。<br />【了】<br /><br /><a href=

『影御用』南惣一郎




『影御用』 其九番『秘太刀 南流秘剣 浦霞』

お互いに間合いを詰めている。
これ以上は詰める事が打ち合いとなる。
剣が触れ合わない、空(くう)を斬る音が二度三度きこえる、
それ以外は 呼吸の静かな音が木々の中に雑じり 風とひとつになる。

やがて「チッ!」「チャリ」と音がする
見切りが刃先が ぎりぎりに仕掛けてくるのだ。

『できる 凄い腕だ 斬られるかもしれない 一瞬の隙で殺られるっ』

相手は無言だ。言葉らしきものはない、息もみだれてはいないのだ。
ここまで 剣の腕をあげるには 幼き頃より よほどの修練が必要なはずである。

『できるなら 逃げだしたい』
南流には 秘剣らしきものがあるにはあるのだが 
この男に 一刀をむけて勝てるとは限らない 
しかしこの状態をなんとか打開するには それしかない

とにかく間合いを狭めて 猿跳びごときに相手の胸元に入らんとする
はじめて 「ジャリーーン」剣と剣があい 火花が散った
鍔元でお互いを押し合う 汗がツーッと額より落ちる
競り合いのためか 相手の呼吸がやや乱れてきた

剣道では 競り合いから 離れる時が難しいのだ
ツンツンとチャリジャリと 刃が毀れはじめるのだ 「チャー!」
瞬時、 二人は離れた
しかし 惣一郎は体を左足を軸に回転させた
今でいえば 空手の技で裏拳か 後ろ廻し蹴りといえばいいのだろうか 
幼きときより 踊るがごとく 父から仕込まれた秘剣浦霞である
回転しながら左手の順手で小刀を抜き
大刀を回転の勢いにまかせ右手で投げるつけた その後に小刀が横から薙ぎる

瞬時 刃で払った 小刀を払ったぶん 胴があいたのである
相手も速い切り返しで惣一郎の右上腕部を剃るように反す
「グエッ」と 低い声がきこえた。

惣一郎の小刀は 相手の右わき腹から食い込み 肋骨にあたり 鈍い音がした。
相手の肺の空気がフゥっとぬけて 崩れていく。

もし 投げた大刀を払わずに切り返していたら 惣一郎は斬られていただろう
惣一郎は 右肩の出血が生温く、手が血に染まっていた事も 
気がつかないまま立ち尽し、肩で 荒く息をしていた。

【了】

『影御用』 其拾話 『軒の雨』

雨がふりつづく。

ジトジト‥
湿気による汗が脇の下を這う、私はその時はじめて父の仕事をまじかでみたのだった。
とどまりのない冷たい雨が 軒の板木をながれ ながいションベンのように音を立て落ち続ける。

父の持つ傘の手がかすかに震えている。破れ傘の間から眼だけがギラつく。
「来たっ!」
足駄を後ろに蹴り上げ 泥水をはねながら、傘を捨て親指で鯉口をきると
刀身の鞘をグイと横に押しつけた。
走りを加速させて駕籠にむかいはしり寄る。
もろてを広げ たちはだかる小者
掴みかかる供の者を押し退けながら 抜き身のまま下から斬り上げる。
次に伸ばした右手が弧を描く、相手諸共、籠をおもいっきり斬りおろした。
「グエッ」っとひとりが肩から血を雨の中に落とす。

「パキン」と刀が 雨のなかにキラリと跳び おれた。

お供の一人が足を掴み絡まる。
身動きがとれないまま 背中に折れた刀が撃ち落とした。
「グェッ」

相手は全部で五人、刻をふやせば危ういことになる。それでなくとも必死の戦いである。
足元の男を突き刺したが 足を掴んだまま放さない。
その者の刀を奪い 横からくる者を 脇に斬りこむと 上部が真っふたつにわかれた。

もう 柔な刀はへなへなと捩(ねじ)れる。ここで 品定めを悔やんでも どうにもならない。
あと三人、取り替えてる間に 相手は滅多やたらと振りまわす
手刀で喉を貫き砕くと 次なる相手を抱き寄せて 次の輩の剣の盾にした。

足元の男の首の根を踏みつける。「ゴキッ」っと音とともに やっと手が離れる。
盾にしたひとりが 逃げ出そうとしている。
小刀を投げつけ、相手の足に刺さる。
追ってゆくと 這って逃げる相手の背後より一撃を加え仕留める。

後は 若そうな者と 目的の籠の中の男のみ 
泥水にころがった刀を すくいながら そのまま籠の灯り窓へと一気に刺し込んだ。
雨の溜まった地面にどす黒く血が拡がりはじめた。悲鳴が雨にかききえた。

最後の若き男は道場に通っているのだろうか、剣先が鋭いのだ
父の足が泥濘(ぬかるみ)にとられ 身體(からだ)を崩した
そこに 相手の刃が背にから切り込まれた。
「うっ 不味い」
体を回転させて剣をのばすと 相手の首から血が跳ぶ。
「やられたぞ‥!クウーッ  ソウ・惣一郎ぉ」っと私ほうに叫ぶ。

父は六人を斬ったが 自分も背中を深々と斬られ、
裂けた着物から血が噴出していたのである。
そして そのまま私の前で息絶えた。
「おまえは最後まで手を出すでないぞ」と云いのこしたまま影御用の仕事を終えた。

仕事の様子を私にみせたかったのだろうか、あるいは‥この仕事が見納めと予感したからなのか ちにかく自分の生き様をみせようとしたのかもしれない。
影御用の辿る先は闇なのだと 言いたかったのだろう。

私は灯篭の陰から、父の言いつけ通りに 雨中での一部始終をみていたのだ
この父の姿は やきついたまま放れないのだ。
 
冷たい雨のなか 言われたとおり じっと身を隠し 次に考えた事は このまま骸を置事はいかないと 我にかえる。 
以前云われたように 父を大八車に乗せ筵をかけて とある寺裏の穴に放り込んで わかれを告げた。それは、生前より 父の言付けであったからだ。

雨に打たれて 顔と手が白くなった
涙はひとつもでなかったが 擦り切れた 自分の手が血が滲み 雨で流れていった。

冷たい雨が降りつづくと 惣一郎は 昔の事父の姿をおもいだすのだった。

【了】
影御用其拾話




秘剣浦霞




影御用-


影御用-遊①居合



影御用-遊②


『影御用』
【居合のひと】

髪を後ろで束ねていた‥
とにかく臭い
異臭が離れていても鼻をつく

どれほどの使い手かは 試合わねば判らぬのだが
この男の氏、素性は一切知りえないのである

藩は 彼が居合の達人だという
揉め事はおこしたくないのが 意向だろう

藩の内部に揉め事がおきると
どこからともなく 様々な剣の流派の者が
密やかに ひととひとの隙間に 潜み込んでくるのだ

(九六)


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プロフィール

九六

Author:九六
好きなものを自由に書く、読む、観る、描く。そして遊び愉しむ。
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